ばるぼら
【キャスト】稲垣吾郎/⼆階堂ふみ 渋川清彦/⽯橋静河/美波/⼤⾕亮介/⽚⼭萌美/ISSAY / 渡辺えり
【監督】⼿塚眞
【原作】手塚治虫 【撮影】クリストファー・ドイル
【日本公開】2020年11⽉20⽇(⾦)よりシネマート新宿、ユーロスペースほか全国公開
【配給】イオンエンターテイメント
© 2019『ばるぼら』製作委員会
愛憎にもだえ、幻に狂う
人気小説家として成功し、名声を得ている美倉洋介。見目麗しい代議士の娘や甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる女性が傍にいながら、その何れにも心を許さない彼は、どういう訳か駅の片隅で酔い潰れていた薄汚いホームレスのような女、「ばるぼら」に興味を持ち、家に連れ込む。ヴェルレーヌの詩を呟き、芸術的な素養を感じさせる彼女は美倉の小説もよく読んでおり、「どうってことない。綺麗すぎる」と言いつつも「才能あるんだから」と応援し、創作意欲を引き出してくれる理解者。彼の知られざる苦悩を知る人物でもあり、いつしか美倉は彼女を愛するようになる。一方で「ばるぼら」登場以来、美倉の周りでは知人が不幸に遭い、気がつけば部屋に壁一面に奇抜な絵が飾られたり、藁人形が置かれたりして、親しい人間は不吉な予感を覚え、美倉に警告するのだが─。
原作は手塚治虫が1970年代に連載した同名漫画。芸術とは何か、流行とは何か、と言った問いかけや、作家の心の叫び、生き様が「ばるぼら」という一人の謎めいた女性とリンクする寓話的な物語で、多くの読者を魅了した。そんな原作を、50年近い時を経て、ヴィジュアリストとして父と異なる路線の映像作品で活躍を収めてきた息子の手塚眞が実写化。父の作品をベースに、官能や幻想的な色合いを全面に出した映画に仕立て上げた。原作ならありえないはずの本が書棚にあるなど、随所に遊び心も感じられる作品だ。
本作では、美倉やばるぼらの人間関係を説明するような会話や、人物が交流するシーンが極めて少ない。一方で、美倉が「ばるぼらの存在理由が分かった」と言ったり、美倉を誘惑する女性店員が彼の小説を「何も考えないで読める」などと、美倉の深層心理を窺わせるような意味深な発言をしていたりする。そのため、観る者は惑わされる。どこまでが現実で、どこまでが幻想なのか。「ばるぼら」とは何なのか、と。そんな作品を体現するような、どこまでいっても焦点が合わないようなとろんとした瞳をした「ばるぼら」を二階堂ふみが好演し、観る者を退廃的で幻想的な世界へといざなってくれる。