ストレージマン
【キャスト】連下浩隆/瀬戸かほ/矢崎広 渡部直也/米本学仁/立野沙紀/宮崎翔太/林凛果/森恵美/奥井奈南/しじみ/古坂大魔王(声の出演)/渡辺裕之
【監督】萬野達郎
【制作】2022年/日本
【Web】https://www.cine-mago.com/storageman
【日本公開】2023年5月20日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
【配給】MANTRIX PICTURES+Cinemago
©MANTRIX PICTURES
誰もが迷い込む可能性のある異世界
2020年、新型コロナウイルス感染症が流行したことで、私たちの身の回りのあらゆることが激変した。外出自粛要請や飲食店などへの休業要請で街は賑わいを失った。「ソーシャル・ディスタンス」という言葉とともに人々の距離が遠ざかり、マスクをしての外出や定期的な消毒・除菌が当たり前になった。経済に与えた影響も大きく、仕事を失った人も多い。私たちが感じている「当たり前の世界」というのは、実はちょっとしたことで崩れ落ちるものなのかもしれない──『ストレージマン」はそんな感情を想起させる“ソーシャル・スリラー”だ。
主人公の森下は妻と娘の三人暮らし。しかし、コロナ禍によって派遣切りに遭い、社宅を追われることに。さらに妻の両親から離婚を迫られ、仕事も家族も住居も失ってしまう。そんな森下が仮住まいとして選んだのが、普段使わない品物を収納する時などに利用する「トランクルーム」だった。だが、狭いスペースに段ボールを敷いて寝ていると、謎の男が突然中に入ってきて、森下の口を塞ぐ。彼は“トランクルームを住処とする先輩”であり、ここでの生活のイロハをレクチャーしてくれるという。倉庫荒らしに襲われないよう鍵を掛けること、管理人が来る朝9時までにはトランクルームを出ること、公園のトイレは使用禁止、仕事がないならフードデリバリーの配達員の仕事でもして稼ぐ──以来、森下は先輩の教え通りに配達員として働き、トランクルームで寝泊まりする生活を続ける。そして養育費を貯めて、家族と再会することを願うのだが……。
本作は「トランクルームの生活」を実に魅力的に描いている。「住人」たちも個性的で人間味に溢れ、どこか微笑ましい。なのに鑑賞していてぞっとしてしまうのは、コロナ禍以来多くの人が抱いている、得体のしれない閉塞感が描かれているから。加えて、本作の“異世界”に、誰もが迷い込む可能性があるからなのだろう。私たちは今も、何かしら抑圧された生活を強いられ、出口が見えない不安に苛まれる世界の真っ只中にいる。だからこそ本作で描かれていることは、とても恐ろしい。一方で、一つひとつの悲喜こもごもが、観る者の心に染み入るのだ。