無名
【キャスト】トニー・レオン/ワン・イーボー/ジョウ・シュン/ホアン・レイ/森博之/ダー・ポン/エリック・ワン/ジャン・シューイン/チャン・ジンイー
【監督】チェン・アル
【制作】2023年/中国
【Web】https://unpfilm.com/mumei/
【日本公開】5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開
【配給】アンプラグド
Copyright2023© Bona Film Group Company Limited All Rights Reserved
上海を舞台とする極上スパイ・ノワール
第二次世界大戦下の上海を舞台に、中国共産党、国民党、日本軍の間で繰り広げられる名もなきスパイたちによる一進一退の攻防戦を描いたスパイ・ノワール。『花様年華』で第53回カンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞を受賞したトニー・レオンと〝今中国で最も注目を集める”若手俳優のワン・イーボーが共演していることでも注目を集めている作品だ。
ざっと作品の時代背景を説明すると、1931年に満州事変が起こり、翌年に満州国が建国される。1937年には日本軍が盧溝橋事件を契機に戦火を全中国に拡大せんとするが、共産党と国民党からなる抗日民族統一戦線が激しく抵抗。長期化の様相を呈する中で、日本軍は密かに国民党の分裂を図る。そこで選ばれたのが党内で蒋介石と対立していたナンバー2の穏健派、汪兆銘。汪兆銘は中国民衆の支持を得られないながらも日本政府の後ろ盾を得て、1940年3月に親日政府を樹立する。本作でトニー・レオンが演じるフーはこの汪兆銘政権の政治保衛部主任。そしてワン・イーボーが演じるイエはフーの部下として諜報活動をしている、という役どころだ。
「タランティーノが好き」だと語るチェン・アル監督が自ら編集も担当しており、時に時間軸をずらし、同じ行動を多面的に構成した編集が実に魅力的。冒頭の「ロッカールームの前で何かを待つフー」「カフェで女性が他の客からコーヒーを奢られるが、相手は既に店から去っていた」「洗面所の中でネクタイを結び、鏡の中の自分を凝視するイエ」という意味深ながら意図や繋がりの分からないシーンから引き込まれてしまう。そして物語が進む中で、個々のシーンの意味を“観る者自身が発見したかのように”理解できる構造となっているのだ。
対照的な主演二人のキャスティングも見事で、トニー・レオンの円熟味のある演技と渋さは必見。ワン・イーボーは若者らしい繊細さと激しさを秘めた秘密工作員を好演している。映画に登場する調度品も非常に美しく、一つひとつのシーンはさながら動く絵画のようだ。最後のシーンまで決して席を立つことなく、この極上の映画を味わってほしい。