未完成の映画
【監督】ロウ・イエ
【制作】2024年/シンガポール、ドイツ
【Web】https://joji.uplink.co.jp/movie/2025/25770
【日本公開】2025年5月2日(金)アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次公開
【配給】アップリンク
© Essential Films & YingFilms Pte. Ltd.
隔たりの中で照らし出される、人々の営み
上海で密かに撮影された『ふたりの人魚』(2002年)は、中国本土で上映禁止となりながらも、ロッテルダム国際映画祭と東京フィルメックスでグランプリを受賞。さらに『天安門、恋人たち』(2006年)では天安門事件というタブーに切り込み、中国電影局から5年間の映画製作・上映禁止処分を受ける。しかしその処分期間中に、中国で禁じられている同性愛を描いた『スプリング・フィーバー』(2009年)を完成させ、カンヌ国際映画祭で脚本賞受賞作に──このように、度重なる検閲の壁にも屈せずタブーとされるテーマに果敢に挑み続け、世界的な評価を獲得してきたのが、中国第6世代を代表する映画監督、ロウ・イエだ。そんなロウ・イエが2024年に送り出した『未完成の映画』は、コロナ禍で人々が味わった感情を鮮やかに呼び起こすフェイクドキュメンタリーである。
舞台は2019年。10年前に制作が中断したクィア映画を完成させるため、シャオルイ監督がかつてのスタッフを再び招集するところから物語は始まる。俳優役たちの同意も得て制作は再始動するが、新型ウイルスの不穏な情報が飛び交い、やがてホテルはロックダウン。スタッフやキャストは長期間、ホテルに閉じ込められることになる。主演俳優は出産を終えたばかりの妻や生まれた子どもに会えず、スタッフ同士も直接の交流が絶たれ、スマホだけが唯一のコミュニケーション手段となってしまう。次第にスマホで撮影された映像の比重が増していき、その小さな画面と頼りない光は、閉塞と不安に覆われた彼らの心情を生々しく映し出していく。ぶつかり合い、涙し、時に笑い合う──そんな人間模様の中から、観客は自身のコロナ禍の記憶と、当時抱いていた感情を鮮明に思い出すことだろう。
英ガーディアン紙が「コロナ禍について描かれた、まったくユニークで非常に重要な映画。『天安門、恋人たち』以来の最高傑作」と称賛した本作。虚実を多層的に交錯させ、ドラマ性を保ちながら現実の痛みと希望を照射し、困難な状況の中でも小さな喜びや愛情を大切に生きようとする人々の尊さを再認識させてくれる名作だ。