特殊詐欺を知り被害を防ぐ

特殊詐欺とは何か、と聞かれて答えられる人は多くないかもしれない。だが、おそらく「オレオレ詐欺」ならほとんどの人がイメージできるだろう。 「オレオレ詐欺」は10種類に分類される特殊詐欺のうちの1つ。他の特殊詐欺も、細かな点は違えどほとんどが1本の電話から被害者を金銭の振り込みへと誘導するパターンである。 「自分はそんなものには引っかからない」と思ってはいないだろうか。多くの人がそう思っているものの、手口はどんどん巧妙になっており、特殊詐欺の被害件数や金額は依然として深刻だ。 改めてその手口や種類を知り、理解を深めることで自分の身を守るヒントにしたい。

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センチュリー2021年5月号

【依然として多い特殊詐欺被害】

「オレオレ詐欺」の被害が高齢者を中心に広がり、一般に認知され始めたのは何年前だったろうか。会ったこともない高齢者を狙っていきなり電話をかけ、「おばあちゃん久しぶり、オレだけど」「ああ、太郎かい?」「そうそう太郎。実は急にお金が必要になって〜」などと言い、お金を騙し取るというやつだ。あれがまさしく“特殊詐欺”の一つで、オレオレ詐欺についてはおおよその手口も知れ渡っているだろう。実際に被害に遭ったことがない人としては、「今更あんな手口に引っかかる人はいない」という感想を抱くのではないだろうか。だが油断するなかれ。一時期より減ったとはいえ、依然として被害者は多い。最近の特殊詐欺では非常に手の込んだ手口が増えており、被害を受けた人も発覚するまでまさか詐欺だとは気付かなかった、というケースも多いのだ。

【そもそも特殊詐欺とは】

2105CE特集-特殊詐欺を知り被害を防ぐ(図1)

まずは、特殊詐欺の定義について確認しておきたい。東京都の警視庁ホームページによると、「特殊詐欺とは、犯人が電話やハガキ(封書)等で親族や公共機関の職員等を名乗って被害者を信じ込ませ、現金やキャッシュカードをだまし取ったり、医療費の還付金が受け取れるなどと言ってATMを操作させ、犯人の口座に送金させる犯罪(現金等を脅し取る恐喝や隙を見てキャッシュカード等をすり替えて盗み取る詐欺盗(窃盗)を含む)」とされている。この、お金の振り込みに導く手口が様々であり、令和2年1月1日から、特殊詐欺の手口について10種類に分類された(右図参照)。

中でも被害が多いのが、やはりオレオレ詐欺だ。
典型的なパターンとしては、息子や孫のふりをして高齢者をターゲットに電話をかけ、声や電話番号の違いを指摘されると「風邪を引いて声の調子が悪い」「携帯電話を変えたから番号が変わった」などと言ってごまかす。そして、「会社のお金を横領したことがバレた。今日中にお金を返さないと訴えられる」「不倫相手を妊娠させてしまった。示談金が必要」などと言って、いわゆる親心につけ込み現金をだまし取ろうとする。巧妙なものでは、役所関係者を名乗って電話をかけ、途中で上司や専門家(役の犯人)に電話を代わり、さらに時間をおいて市の関連施設(役の犯人)からも電話をかけるなどし、リアリティを出してくる。この時の声のトーンやセリフ回し、2回目の電話をかけるまでの時間のおき方など、どうすれば相手が信用するか研究した上で綿密にマニュアル化されているようだ。

【最近の被害状況】

警視庁のホームページによると、令和2年の特殊詐欺の認知件数は1万3千526件、被害額が277.8億円。被害額については過去最高だった平成26年の565.5億円と比較すると半減している。とは言え、1日に約7千600万円もの被害が出ている計算になるので、依然として深刻だ。被害は大都市圏に集中しており、東京、神奈川、千葉、大阪、埼玉、兵庫、愛知の7都府県で合計認知件数の71%を占めるという。最近では新型コロナウィルス感染症に関連した特殊詐欺も出ており、令和2年中だけで認知件数が55件、被害総額は約1億円に上っている。検挙された事例を1つ挙げると、70代の男性が県職員を名乗る男から「コロナ関連の給付金が10万円ある。口座に振り込むので通帳等を用意してほしい。職員を向かわせる」といった電話を受けた。だが被害者が不審に思って通報したことにより、被害者方付近を警戒中の警察官が、被疑者を発見し逮捕に至ったという。

【在日外国人を狙った特殊詐欺も】

日本で暮らしている外国人を狙った特殊詐欺も被害が増加している。以前、知人の在日中国人が被害に遭ったので話を詳しく聞いてみた。最初は正直「不注意だな」と思っていたのだが、聞くにつれその手口の巧妙さに驚かされた。
まず、中国大使館を名乗る男から中国語で電話がかかってきたそうだ。そして何年か前の旅行先(中国国内)での落し物から個人情報が漏れ、犯罪データに使用されているとの案内。この時点では少し不審に思っていたそうだが、犯人は「中国の警視庁サイトにリストアップされているから確認してほしい」と指示。これはURLを直接教えられたのではなく、施設名称を電話越しに聞いた上で、本人が自分で検索窓から打ち込んで出たサイトだ。その時のスクリーンショットを見せてもらったが、検索サイトのトップに出ており、完全に公式の警察サイトに見えるものだった。そのページの検索窓のようなところで名前や生年月日を入力すると、自分の個人情報がアップされていたという。しかも氏名、生年月日、日本での住所、パスポート番号、家族の名前まで載っていたとか。ここでパニックになり、完全に信じてしまったようだ。そして、これらに関する調査金だったか保釈金だったか、何らかの理由でお金が必要だからと、50万円もの振り込みを指示されたそう。
第3者が聞くと、「それは怪しいだろう」と思うかもしれない。しかし、自分がもし海外に住んでいたとして日本大使館を名乗る人から日本語で案内され、「YAHOO! JAPAN」のトップに出てくる「警視庁ホームページ」というウェブサイトで個人情報が押さえられていたら……。やはりかなり混乱するであろうし、まさか詐欺だったとしてもここまで作り込まれているとは思わないだろう。

【振り込め詐欺救済法】

2105CE特集-特殊詐欺を知り被害を防ぐ(図2)

先述の被害者は残念ながら、被害を受けた分のお金は返ってこなかった。不安になり周囲の人に相談した際に「詐欺じゃないか」と言われて警察に相談に行ったが、すでに振り込んだ後で犯人が引き落としてしまっていたのだという。警察が言うにはこうした犯罪は最近かなり増えており、犯人がお金を引き出してしまうと追跡等はほぼ無理で、諦めるほかないそうだ。だが、もし振り込んでしまったとしても、犯罪利用されたその振り込み先口座に残高があれば、金融機関から被害金が支払われる「振り込め詐欺救済法」という法律がある。
「振り込め詐欺救済法」は「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配当金の支払等に関する法律」が正式名称で、「振り込め詐欺等の被害に遭われた方のために、金融機関の犯罪利用口座に振り込まれ、口座に滞留している犯罪被害金の支払い手続き等を定めた法律です」というのが、法律の概要だ。「被害者の方がおひとりで、かつ対象の犯罪利用口座にお振込された総額が当該口座に滞留している場合、被害金は全額支払われる予定です」とのことだが、注意したいのは先程の概要でも出てきた「口座に滞留している」という言葉だ。

先述の例のように、すでに該当する口座にお金が残っていなかったら、泣き寝入りになるということだ。また、口座に滞留している残高が被害金額の総額より少ない場合、金融機関は口座残高を超えて被害金額の支払いを行うものではない(図参照)。他にも、支払い手続きには90日以上かかるなど細かな取り決めはあるが、とにかく、万が一振り込んでしまった場合にはすぐに警察に相談し金融機関に申し出ること。できるだけ早くこれだけ実行すれば、丁寧に案内してもらえるはずだ。

【特殊詐欺の被害を防ぐために】

そもそも被害に遭わないよう気をつけることが重要だが、被害者の91%以上が、「自分だけは被害に遭わないだろう」と思っていた人だという。決して他人事だと思わず、特殊詐欺を甘く見ずに、防止に有効な手段を確認し普段から実施することが大切だ。特殊詐欺の入り口は、1本の電話から始まる。そのため、不審な電話にはすぐに出ないこと、相手の要望に応じないことが重要である。具体的な防止策として、
・自宅の固定電話は在宅中でも留守番電話に設定する
・留守電のメッセージを確認してから折り返す習慣をつける
・もしもの時のために家族で合言葉を決めておく(家族・友人を装った犯人を見分けるため)
・日ごろから家族や友人と特殊詐欺について話し合う
・家族全員の電話番号を電話帳に登録しておく(登録外の番号には不用意に応じない)
・お金の話が出たら一度電話を切って誰かに相談する

以上のことを心がけておくと良いだろう。ここまでで特殊詐欺の分類や例についていくつか触れたが、犯罪者側も日々研究し新たな手口を探している。よってこれまでに例のなかった更に巧妙な手口も、今後出てくるだろう。そのため、現在明らかになっている過去の例だけを知って、特殊詐欺を分かった気になることは危険だ。どれだけ自然な会話の電話であっても、時間を急かされるような内容であっても、「お金の振り込み」をする前には必ず誰かに相談し、一旦ストップしよう。そして、少しでも怪しいと感じたら警察に相談しよう。

【警察への連絡時も注意】

2105CE特集-特殊詐欺を知り被害を防ぐ(図3)

ややこしい話だが、詐欺だと気づいて警察に相談したが、警察官だと思っていた相手が詐欺師だったケースもあるので注意したい。1つ実例を紹介すると、ある時80代の女性のもとに、警察を名乗る男から「特殊詐欺の被害が多発しているので注意してほしい。不審な電話があればこちらに連絡して下さい」と電話があった。実はこの時点で、犯人の詐欺が始まっている。そして翌日、女性の孫を偽る男から「お金が必要になった」とオレオレ詐欺の電話がかかってくる。「これは詐欺だ」と思った女性は、前日教えられた番号に連絡。すると偽警察官は「騙されたふりをして、犯人を捕まえたい」と捜査協力の依頼をした。これは、実際に警察が犯人検挙のために行うことがある作戦である。この時に警察官は「お金は全額返します」と安心させた上で、女性に犯人逮捕の協力に同意させ、偽孫の指示通りにお金を送金させる。しかも、「無事に犯人を逮捕しました」と後から電話をかけ、フォローまでする周到ぶりだったそうだ。「番号を伝えて電話をかけさせる」という手口は振り込め詐欺の常套手段。かなり巧妙だが、警察への連絡時にも細心の注意を払いたい。

言うまでもなく、特殊詐欺において悪いのは100%犯人である。ただ、そのような主張をしたところで、犯人が改心してくれることはないだろう。いつでも被害者になり得るという心構えで、自分の身は自分で守るしかない。「特殊詐欺は1本の電話から始まる」ということを忘れず、お金の振込みに話が及んだら一旦立ち止まって必ず周囲の人に相談する。そして少しでも不審なら警察に報告する。それを徹底し、被害を1件でも防ごう。

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