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開発競争が過熱する“完全栄養食”の今

 完全栄養食という言葉を聞いたことがあるだろうか。最近ではコンビニでも見かける機会が多く、食べたことがある人も少なくないはず。1食に必要な栄養が全てバランス良く入っているという代物で、しかも最近の商品は競争激化が進む中で「美味しい」ものばかり。どんな商品が人気を博しており、ブームとなるまでにはどのような経緯があったのか。気になる味の感想なども交えながら、完全栄養食の今に着目する。

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月刊誌マスターズ2023年12月号

完全栄養食とは

健康志向が高まる中で、最近では「完全栄養食(完全食)」という言葉が身近になってきた。日本でもベンチャーから大手まで幅広い企業が参入し、様々な種類の商品が開発されている。とは言え、「そもそも完全栄養食って?」と疑問に思う人もまだまだ多いはず。平たく言うと、「これさえ食べておけば栄養バランスは問題なし」という加工食品だ。『日清食品』では、「栄養バランスを考えるのが、めんどくせぇヤツらに!」という、インパクトのあるキャッチコピーの商品も発売。まさにそういう需要を満たすのが、完全栄養食なのだ。 完全栄養食は基本的に、厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2020年版)」や「栄養素等表示基準値」に基づき、1食あたり1日に必要な栄養素の3分の1以上を摂取することを目指して開発されている。同時に、普段の食事で過剰摂取になりやすい脂肪、炭水化物、熱量といった栄養素は抑えられている傾向が強い。1日に必要な栄養素を手軽に摂取できることから、食事メニューを考えるのが面倒な人や忙しい人などから支持を得ている。ダイエットに利用する人も多いようだ。また、冷凍タイプやレトルトの完全栄養食は非常食として備蓄されるケースもある。さて、気になるのが味のほうだろう。こういった栄養重視の商品は、「味は二の次」といった印象がないだろうか。正直なところ、筆者にはそういうイメージがあった。しかし、その辺りをクリアしているからこそブームになっているのでは、という期待も。百聞も百見も一食に如かず。早速コンビニに走って数点購入し、実際に食べてみた。

食べてみた─美味い!

今回食べた商品は「BASE BREAD メープル」「完全メシ ベリースムージー」「完全メシ 日清焼きそばU.F.O.濃い濃いお好みソース焼きそば」「完全メシ カレーメシ欧風カレー」。『日清食品』の商品に偏ったが、コンビニで手に入りやすい商品だったということでご容赦いただきたい。最初に全体を総括して感想を述べると、「けっこう美味しい」といったところだ。どの商品についても想像していたよりもはるかに美味しい。せっかくなので、個人の感想ではあるが1つずつ印象を書いてみよう。

「完全メシ 日清焼きそばU.F.O.濃い濃いお好みソース焼きそば」

 麺はツルっとした口当たりで、噛んでみてもボソボソ感などはなくスタンダードな「U.F.O.」より生麺に近いような食感。ソースの味や香りはしっかりするものの、やはり麺の違いなのか全体としてややあっさりした印象はある。インスタント麺ならではの油っこさが好きな人には少々物足りないかもしれない。逆に、普通のカップ焼きそばをくどいと思う人は、最後まで食べやすいだろう。かやくのキャベツなどは通常商品と同様の食感。インスタント麺を食べているというジャンク感はしっかりあるので、「栄養バランスが良い」と言われても信じられないような印象を受ける。

「BASE BREAD メープル」

 実は、この商品は以前からよく購入している。メープルの他にもチョコレートやシナモンなどの味があり、どれも美味しく飽きのこない上品な味だ。片手で食べられ栄養バランスも良いとあって、急いでいる時の朝食の代わりや間食として重宝している。かつての筆者同様、「栄養重視の食品って美味しくないでしょう?」と言っていた知人にも勧めてみたが、「思ったより美味しかった」と言っていた。小さい割にタンパク質含有量もそこそこあるので、スポーツや筋トレをしている周囲の人でも、愛食しているといった話は度々耳にする。最近ではどこのコンビニでも大抵置いてあるので、手軽さという点でも個人的に高評価。

「完全メシ ベリースムージー」

 今回試した中では唯一の飲料製品だ。口当たりはドロっとしていて、飲むヨーグルトを飲んでいるような感覚。ベリーの爽やかな酸味と、甘みも思ったよりしっかりとあって、栄養バランスなど関係なく単純に美味しいと感じた。味の印象と合ったピンク系の色味も綺麗だ。容量が少なめの飲料ということで、これも間食や朝食などで手軽に飲めるのが魅力だろう。子どものおやつ代わりにも良いかもしれない。

「完全メシ カレーメシ 欧風カレー」

 香辛料のスパイシーな香りがしっかりする。食べた印象も、フルーティーで甘めな、少しあっさりしたカレーといったところ。ルーの割合が多めなので、お腹が空いていると白飯を追加したくなるが、これでは本末転倒か。先の「U.F.O.」同様、やはりジャンクフードを食べているという感覚があるので、「健康的なものを食べているんだ」といった意識の高さを感じることはない。しかし、この「ジャンクフードを食べている罪悪感」のようなものがあるにも関わらず、実は栄養バランスが良いというのがミソなのだろう。

世界初の完全栄養食は米国製

完全栄養食が登場したのは2014年、米国の「ソイレント」が最初だと言われている。ソイレントを生み出したのは、ソフトウェアエンジニアのロブ・ラインハートという人物。人間が生きていくには35種類の必須栄養素さえ摂れば良いと考え、それらを溶いた液体を「完全栄養食」とした。そして、食事を止めてそれだけを摂取する試みを始めると大きな注目を集めたため、「完全栄養食はビジネスになる」と考えて事業として立ち上げたのだという。ラインハート氏は食事をソイレントに置き換えてからアレルギー反応が減り、体調は良好になったと述べている。しかし、それはあくまで栄養摂取するためだけの液体で、普通の食事ではない。そこに食を楽しむといった要素はなく、ディストピアな印象を受けるものだ。また、ソイレントを試して頭痛や腹痛といった体調不良を訴えた人もいたそうで、当時はまだ実験の領域を出ていなかったと言える。しかし、これをきっかけに完全栄養食というものが世界的に広まり始めた。

日本初の完全栄養食は

日本では2016年の『コンプ』による商品「COMP」が日本初の完全栄養食だとされている。水に溶かして飲む粉末飲料で、1袋で成人男性1日分の必須栄養素を全て摂取することができるものだ。当時の代表取締役CEOであり開発者でもある鈴木氏の思いは、「食生活をハック(効率化)したい」というもの。「美味しさ」を求めている商品ではなく、一般的な食事とは異なる。その点ではまだ広く認知はされにくいものだった。なお、現在同社ではパウダータイプやドリンクタイプのほか、『UHA味覚糖』と共同開発を行なったグミタイプなども発売。糖質調整モデル、アスリート向けのプレワークアウトバー「OUTLIER v.1.0」、砂糖不使用、0kcal、炭酸なしのエナジードリンク「DETECTIVE v.1.0」をリリースするなど、年々商品ラインナップを増やし、ブランド強化を進めている。

『BASE FOOD』が先駆け
「食事」としての完全栄養食

それまでの、栄養を摂取をするだけといった印象が強かった完全栄養食と違い、「食事」として楽しめるものに仕上げたのが、先のレビューでも触れた「BASE BREAD」を販売している『BASE FOOD』だった。開発のきっかけは、創業者の橋本氏が忙しい中でも毎日食べる“主食”の栄養バランスが良ければ、誰でも簡単に健康になれるのではと考えたことだった。そこで「麺」に着目し、試作品を作ること100種類以上。構想から1年以上が経ち、約30種の栄養素が含まれた完全栄養パスタ「BASE PASTA」がついに完成した。2017年2月から販売をスタートしており、完全栄養の主食としては世界で初めての開発・普及。これまでドリンクや粉末タイプしかなかった完全栄養食に革命を起こすかたちとなった。同社のミッションは、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」すること。主食はずっと食事の中心でありながら、5000年以上、その栄養価は変わっていない。そこに新しい可能性がきっとあるはず─そんな思いでさらなる開発を進め、パスタ以外の商品もヒットするに至った。同社が目指すのは「栄養のインフラ」。水道、電気、ガス、栄養……というように、「栄養バランス」が誰の元にも簡単に届く社会をつくりたいと考えているという。こうして食事としての完全栄養食が生まれ、『日清食品』が「味」にこだわった商品開発に成功したあたりから、完全栄養食品が一気に一般化し始めた。

『日清食品』の味へのこだわり

『日清食品』が完全栄養食の開発を進める上でコンセプトとしているのは、「見た目やおいしさはそのままに、カロリーや塩分、糖質、脂質などがコントロールされ、必要な栄養素を全て満たす食」というものだ。美味しい完全栄養食の実現が難しい理由としては、ビタミンやミネラルなどの栄養素が持つ苦みやエグみにあるという。つまり、栄養素をそのまま食品に入れると栄養は取れるものの美味しくはない、ということになる。だが『日清食品』では、インスタントラーメンの技術を60年以上にわたって磨いてきたノウハウがある。余計な味をマスキングする技術、塩分やカロリーをカットしても美味しさを保つ技術などに長けていた。それらを存分に活かして完成したのが「完全メシ」シリーズだ。2022年9月から全国で発売し、「管理栄養士の9割が推奨」「最高にジャンク! なのに最高にヘルシー!」「栄養バランスを考えるのが、めんどくせぇヤツらに!」などのキャッチーなコピーも目を引き大ヒット。全国展開に先だったオンラインストアなどでの先行販売では、1カ月の累計販売数が3秒に1食売れている計算だったという。このオンラインストアでは計画比200%を達成し、購入者の5人に1人がリピーターに。SNSでも高い評価を得て話題になった。その味や見た目については、先に述べた感想や写真なども参考にしてほしい。

完全栄養味噌汁のサブスクも

味噌×栄養学のフードテックベンチャー企業『MISOVATION』では、味噌の種類を毎月変えて味噌汁を届けてくれるサブスクリプションサービス「MISOVATION」を提供している。この味噌汁は一杯で成人の1食に必要な栄養素31種類を摂取できる完全栄養食で、水を注いで電子レンジで温めるだけで食べられる。具だくさんで「置き換えダイエット」にも最適な商品だ。さらにこのサービスでは、全国の味噌蔵を紹介する「MISO TIMES」というフライヤーも同封。完全栄養食を届けるだけではなく、日本が誇る味噌という調味料の魅力と可能性のPRにも注力しているのだ。今後は海外進出も視野に入れているそうで、大手企業の参入などで競争が激化する業界において、アプローチの多様化が進んでいることを感じさせる。

管理栄養士の意見は

筆者には管理栄養士の知人がいるので、最近の完全栄養食について意見を聞いてみた。「完全メシ 日清焼きそばU.F.O.濃い濃いお好みソース焼きそば」を食べたことがあるそうで、まず5大栄養素が満遍なく含まれているのが素晴らしいとのこと。麺をノンフライにし脂質を大きくカットしている点も企業努力を感じ、特に驚いたのは塩分量だそう。通常の「U.F.O.」の約半分に抑えられているにもかかわらず、全く味の薄さを感じなかったとか。だが、これはあくまで従来商品との比較の話で、推奨される1日の塩分摂取量と比べると、まだ塩分量は多いという。懸念点としては、「これさえ食べておけば健康」と安易に思われそうとのことだ。商品にも「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」と記載されている通り、言うまでもなく理想はしっかりとした食事で栄養を摂ることなのだ。ちなみに、商品の謳い文句である「管理栄養士の9割が推奨」について。これは『日清食品』によると、「『完全メシ カレーメシ 欧風カレー』『完全メシ 豚辛ラ王 油そば』について、全国の医療機関に従事されている管理栄養士291名を対象に実施したアンケート調査では、9割の方から『食事の選択肢の一つとして活用してほしい』とご回答いただきました」とのこと。質問内容は「忙しい日の食事の選択肢の一つとして「完全メシ」を活用してほしいと思いますか?」で、これについて91%が「はい」と回答したというものだ。質問に「忙しい日の食事の選択肢の一つとして」といった言葉が入っていることなどは、押さえておきたい。

今後のさらなる盛り上がりに期待

富士経済』の調査によると、2022年の完全栄養食の国内市場規模は144億円。これは前年比2.3倍で、2030年には21年比で8.5倍の546億円にまで拡大すると予測している。また、『LINE』の調査によると完全栄養食の消費者全体の認知率は54%。特に10代から20代男性が最も高く66%だった。一般認知度が高まってきている今、ますます競争が激化して商品も様々なものが出てくるだろう。個人的には、今後どんな完全栄養食が出てくるのか楽しみだ。栄養バランスなどは気になるほうなのだが、やはり忙しかったり面倒くさかったりして、食事が適当になってしまうことがままある。そんな時の選択肢が豊かであるほど、消費者としてはありがたい。現状、ネックとなるのは価格か。やはり通常商品よりも割高で、「もう少し安ければ」と感じるのが正直なところ。競争が進み技術なども進歩すれば、価格も抑えられるかもしれない。今後の動きに注目して、積極的に新商品をチェックしようと思う。

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