Twitterのアイコン Facebookのアイコン はてなブログのアイコン

写真の女

自分の笑った顔が嫌いだ。正確に言えば、写真や映像に収められた自分を見るのが好きではない。録音された声も同じ。 こんな顔や声を臆面もなく人様に晒しているのかと思うと、 相手を不快にさせていないかと申し訳ない気持ちにさえなる。

記事をpdfで見る(画像クリックで別ウィンドウ表示)

記事または映画評のサムネイル画像(A4用紙サイズ/縦長)

2021年1月号

【キャスト】永井秀樹/大滝樹/猪股俊明/鯉沼トキ

【監督】【脚本】串田壮史

【制作】2020年/日本

【Web】https://womanofthephoto.com

【日本公開】2021年1月30日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

【配給】ピラミッドフィルム

©2020 「写真の女」 PYRAMID FILM INC.

現代人の承認欲求を描いた新たなる傑作

自分の笑った顔が嫌いだ。正確に言えば、写真や映像に収められた自分を見るのが好きではない。録音された声も同じ。 こんな顔や声を臆面もなく人様に晒しているのかと思うと、 相手を不快にさせていないかと申し訳ない気持ちにさえなる。 他者に対しては、人の魅力を表すのは「映える」ような作られた顔ではなく、笑顔、苦々しい顔、はにかむ姿、移り変わる表情であり、ありのままが美しいと思う。それが自分が当事者になった途端、「許されるならあらゆる技術を駆使して別人の如き姿に変えるか存在を消したい」と考えてしまう。図々しくも良く見られたいとのバイアスがかかってしまうのだ。『写真の女』はそうしたテーマを題材に、レタッチ(写真補正加工)を手掛ける械と、レタッチを依頼する人々を描いた作品だ。デジタル感のある設定に対し中身は非常にアナログ。 たとえば、カセットテープや銭湯など、同作に出る小道具や舞台は概して古く、昭和の匂いが漂う。

そんな時間が止まったような不思議な世界の中、小さな写真館を経営する械は依頼者から写真を直接受け取り、本人の立ち会いのもと筆のような効果音と共にレタッチを行う。人が生活し、他者と直接触れ合う“温度感”があるのだ。 レタッチを依頼する人たちの背景や価値観はそれぞれ異なる。「加工した写真を見てお見合い相手が結婚したいと思えばそれでいい」と割り切る者もいれば、SNSにアップして多くの人々に受け入れられることを生き甲斐とする者もいる。しかし承認欲求を満たす道のりは平坦ではなく、些細な躓きがきっかけで積み重ねた自信が崩れ落ち、これまでの人生が無意味なものに見えたりもする。他者の評価に一喜一憂する登場人物の苦悩や挫折は、多くの人が経験してきた道のり。そのために観る者はいつしか起こっているドラマから目が離せなくなる。それが自分の問題だと感じてしまうからだ。 驚くべきは、本作が串田監督の長編デビュー作であるということ。現代人が持つ哀しみ、切なる想いを克明に描きつつ独自の世界観が光る、注目すべき傑作と言えるだろう。

view more-映画の一覧へ-