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ビバリウム

“理想の暮らし”って何だろう。一生を添い遂げたいと思える人と、自分たちだけのマイホームで暮らすことは、それなりに理想的なようにも思える。しかし、現実はそうじゃない。 CMで描かれるような“理想の暮らし”なんて欺瞞だ。たとえ衣食住や三大欲求が満たされても、それだけで満足するには人生は長すぎる。家はあくまで生活の拠点。

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2021年3月号

【キャスト】ジェシー・アイゼンバーグ/イモージェン・プーツ/ジョナサン・アリス

【監督】ロルカン・フィネガン 【脚本】ギャレット・シャンリー

【Web】https://vivarium.jp

【日本公開】2021年3月12日(金)、TOHOシネマズシャンテ他全国公開

【配給】パルコ 【提供】パルコ、オディティ・ピクチャーズ、竹書房

© Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

若いカップルが迷い込んだ“理想の暮らし”

“理想の暮らし”って何だろう。一生を添い遂げたいと思える人と、自分たちだけのマイホームで暮らすことは、それなりに理想的なようにも思える。しかし、現実はそうじゃない。 CMで描かれるような“理想の暮らし”なんて欺瞞だ。たとえ衣食住や三大欲求が満たされても、それだけで満足するには人生は長すぎる。家はあくまで生活の拠点。

そこから外の世界へ飛び出していくことに、人は幸せを見出すのだろう。 本作『ビバリウム』は、そんな“理想の暮らし”を皮肉たっぷりに描いたSFスリラーだ。物語の主人公は、新居を探す若いカップル。ある日二人は、怪しげな不動産業者の案内で新興住宅地「ヨンダー」の見学に訪れる。不動産業者は二人を“9 番”の家に案内すると、忽然と姿を消した。不審に思った二人はヨンダーから出ようとするが、どのルートを辿っても、真っ直ぐに歩き続けても、9番の家へ戻ってきてしまう。

ふと気付くと、家の前には段ボールが一つ。中には加工食品と生活必需品が詰まっていた。怒りにまかせて家に火を放つが、一夜明けると家は無傷でそこにあり、また段ボールが一つ。 箱には“育てれば解放される”と書かれ、中には赤ん坊が入っていた── 。赤ん坊はおよそ人間のそれではない、驚くべき早さで少年へと成長を遂げる。突然叫びだし、部屋中を走り回り、常に二人をじっと観察している。そんな少年に振り回される暮らしは、二人の心身を蝕んでいくのだった……。

ほぼワンシチュエーションで描かれる本作の奇妙な物語は、現代の映し鏡だ。タイトルの「ビバリウム」は“生物の住む環境を再現した空間”を意味し、現在では爬虫類や両生類を飼うケージのことを指す。我々の暮らしも今やビバリウムのようだ。自然を破壊して同じような家々を建て、住民は住宅ローン返済のために一生働く。置き配で生活必需品が届けられ、プラスチック包装された加工食品を食べる。奇しくもコロナ禍におけるステイホームは、ビバリウム化を加速させたと言えるかもしれない。果たして“理想の暮らし”って何だろう。本作はSFのレンズを通して、観客にそう語りかける。 

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