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走れロム

貧困街に暮らす少年が、とにかく走って走って走りまくる。『走れロム』は一言で言えばそんな映画だ。少年がなぜ走るのかと言えば、ベトナムの違法賭博「デー」の走り屋だから。貧困街を駆け回る少年の姿を追って、臨場感溢れるカメラは社会の闇をも横切っていく。本国の検閲に引っかかり、一部シーンのカットを余儀なくされた事実からも、本作がいかにベトナム社会のタブーに切り込んだかが窺えるだろう。

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2021年6月号

【キャスト】チャン・アン・コア/アン・トゥー・ウィルソン/WOWY/カット・フーン/マイ・チャン/ティエン・キム/マイ・ティー・ヒエップ/タン・トゥー

【監督】チャン・タン・フイ

【制作】2019年/ベトナム

【日本公開】6.11(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開 ※変更の可能性があります。

【配給】マジックアワー【提供】キングレコード

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町を駆け、夢を賭け、命を懸ける少年たち

貧困街に暮らす少年が、とにかく走って走って走りまくる。『走れロム』は一言で言えばそんな映画だ。少年がなぜ走るのかと言えば、ベトナムの違法賭博「デー」の走り屋だから。貧困街を駆け回る少年の姿を追って、臨場感溢れるカメラは社会の闇をも横切っていく。本国の検閲に引っかかり、一部シーンのカットを余儀なくされた事実からも、本作がいかにベトナム社会のタブーに切り込んだかが窺えるだろう。

物語の舞台は、サイゴンの裏町の古い集合住宅。住民の多くが借金を背負い、大金が当たる“闇くじ(デー)”に熱中している。14 歳の少年ロムは幼いころに両親と別れ、アパートの屋上に一人で暮らしながら、デーの当選番号の「予想屋」、デーの購入者と賭け屋を仲介する「走り屋」として生計を立てている。今も両親の帰りを待つロムにとっての心の拠り所は、両親を捜すための資金を稼ぐこと。しかし、ライバルのフックがロムの行く手を何度も阻んでくる。この町にはロムやフックのように、あちこちを駆け回る少年たちの姿があった……。

物語の中核を担うデーは、2桁の数字の組み合わせを予想するギャンブル。70倍という異常なオッズの高さゆえ、違法ながらも労働者階級にとってデーは習慣になっているという。 作中で人々は、夢や心霊現象といった荒唐無稽なことを心底信じ、数字の予想を立てる。まるでスポーツ中継を見ているかのように、結果発表に熱狂する。ロムたちもデーの予想や仲介に、驚くぐらい真剣で命懸けだ。そんな姿をブラック・コメディ風に捉える本作だが、そこに映し出されるのは冗談でも何でもなく、ベトナム人の労働者階級の日常である。 先述の通り、本作は検閲によって内容修正が行われた。それが却って話題を集め、このコロナ禍にあって本国ベトナムで大ヒットを記録したというから皮肉なものだ。検閲に遭いながらも「観る人が心にひっかかりを感じる程度に残したところもある」と、ベトナム映画界の新鋭チャン・タン・フイ 監督。コロナ禍の暗澹たる日々も、表現の自由を脅かす圧力も、打ち破るような鮮烈な疾走感が本作にはある。

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