Summer of 85
【キャスト】フェリックス・ルフェーヴル/バンジャマン・ヴォワザン/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/メルヴィル・プポー
【監督】【脚本】フランソワ・オゾン
【制作】2020年/フランス
【Web】https://summer85.jp
【日本公開】 8月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、グランドシネマサンシャイン池袋ほか全国順次公開
【配給】フラッグ、クロックワークス
© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
葬り去れるだろうか、 あの夏が見せた幻を
1985年、フランス・ノルマンディーの海辺──ヨットで一人沖に出た16歳のアレックスは突然の嵐に見舞われ、転覆してしまう。助けを求める彼に手を差し伸べたのが、18歳のダヴィドだった。そこから二人の関係は急加速を始め、瞬く間に恋愛感情で結ばれるように。そして二人は、「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という誓いを交わす。しかし胸を焦がすような蜜月の終焉は、あまりにも早く訪れた。ダヴィドが、不慮の事故で命を落としたのだ。悲嘆に暮れるアレックスだったが、そんな彼を突き動かしたのは生前ダヴィドと交わした誓いだった──。
フランス映画界の巨匠、フランソワ・オゾンの新作は、彼が17歳のころに出会い、自身のフィルモグラフィーに決定的な影響を与えたというYA小説「おれの墓で踊れ」(原題:DanceonMyGrave/著:エイダン・チェンバーズ)の映画化だ。オゾンの原作のエッセンスを重視した撮影により、「世界共通のラブストーリー」とも言うべき珠玉の一本が完成した。
人生で初めて恋に落ちた時に感じる、得体の知れない胸の高鳴り。身体を支配し、調節の効かない愛情の発露に戸惑う心。いずれ誰もが通る道を往く少年の姿を、瑞々しくも官能的に映し出したオゾンの手腕に刮目してほしい。本作がテーマとしているのは、恋愛における「理想化」だろう。心でつながっている、といくら思っていても、所詮人と人は折り合いのつけ難い「個」であるという事実に、目を背けてはならない。
恋愛において、その意識の欠如がもたらす躓きこそが、「理想化」である。つまり、恋する相手を「自分にとって理想の人間だ」と思い込んでしまうことだ。当然、自らの理想像──つまり虚像と実像が100%合致することはない。そのギャップが相手に対する幻滅を引き起こし、関係性の崩壊を招く。誰にとっても普遍的な、恋の落とし穴と言えよう。重要なのは、その虚像を葬り去り、歩みを止めないことだ。その方法は、誰に共感される必要も、誰に理解される必要もない。自分だけのやり方で、虚像を葬り去るといい。一つ一つの恋は、長い物語の中の一幕でしかないのだ。本作でアレックスが経験する、1985年の夏のように。