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リトル・ガール

フランス北部に住む一人の少女、サシャ。彼女は、男として生まれた。その生物学上の性別と、自らの意識にギャップを感じ始めたのは2歳の頃から。「女の子になりたい」──サシャは幼いながらも切実に訴え続けてきた。しかし7歳を迎えた今でも学校では女の子として扱ってはもらえず、男の子からも女の子からも疎まれている。バレエ教室でも、与えられるのは男の子の衣装。本作はそんなサシャの生活と、彼女がありのまま自由に生きられる権利を得るためのプロテストを描いたドキュメンタリー作品なのだ。

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2021年11月号

【キャスト】サシャ(本人)

【監督】セバスチャン・リフシッツ

【制作】2020年/フランス

【Web】https://senlisfilms.jp/littlegirl/

【日本公開】11月19日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国ロードショー

【配給】サンリスフィルム

©AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

女の子として生きることを、認めてほしいだけ。

フランス北部に住む一人の少女、サシャ。彼女は、男として生まれた。その生物学上の性別と、自らの意識にギャップを感じ始めたのは2歳の頃から。「女の子になりたい」──サシャは幼いながらも切実に訴え続けてきた。しかし7歳を迎えた今でも学校では女の子として扱ってはもらえず、男の子からも女の子からも疎まれている。バレエ教室でも、与えられるのは男の子の衣装。本作はそんなサシャの生活と、彼女がありのまま自由に生きられる権利を得るためのプロテストを描いたドキュメンタリー作品なのだ。

監督は、ジェンダーやセクシュアリティに焦点を当てた映像作品を撮り続け、指折りのドキュメンタリストとして確固たる地位を築いたセバスチャン・リフシッツ。サシャとその家族の私的かつリアルな姿を映し出すために撮影スタッフの人数は最小限に留め、一家との信頼関係を丁寧に構築しながら撮影に臨んだ。できる限りサシャの目線の高さに寄り添ったアングルで撮影されたシーンの数々はスクリーンを通し、出演者たちの柔らかな息遣いや温もりを伝えてくれる。

そして観客はサシャたちが対峙する諸問題の向こう側に自分の存在を見出すだろう。なぜなら打倒すべきは、社会の不寛容。その社会を構成する一部に、自らも含まれているからだ。サシャは好きなペンケースを、好きなバッグを学校に持っていくことができない。好きな服を着て、外を出歩けない。些末な悩みだと一笑に付す者もいるかもしれないが、それは間違いだ。これらの制限は、子どもたちにとって、未来に羽ばたくための翼をもがれることと同然だと言えるだろう。まだ幼い7歳の少女が、こんなにも理不尽な抑圧の波に曝されてよい理由など、一体どこに存在するのだろうか。

特別扱いしてほしいわけじゃない。誰を傷つけるわけでもない。ただ、一人の女の子として生きたいだけ。社会にとっては小さな、サシャたちにとっては大きな、そんな願いをちゃんと叶えられる社会を形成すべきだ。そのために、人々の認知と受容を後押しせんとするのがこの『リトル・ガール』なのである。

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