幕が下りたら会いましょう

公開されたビジュアルに「私たちには『戻りたい夜』が多過ぎる──。」の一文が添えられ、松井玲奈が演じる麻奈美のどことなく虚無感が漂う表情が印象的な一作。麻奈美は高校時代に演劇コンクールの最優秀作品賞で名を挙げ、時を経た今も劇団を主宰し、演劇に生き続ける劇作家だ。

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2021年11月号

【キャスト】松井玲奈/筧美和子/しゅはまはるみ/日高七海/江野沢愛美/木口健太/大塚萌香/目次立樹/安倍乙/亀田侑樹/山中志歩/田中爽一郎/hibiki(lol-エルオーエル-)/篠原悠伸/大高洋子/里内伽奈/濱田のり子/藤田秀世/出口亜梨沙/丘みどり(友情出演)/袴田吉彦

【監督】前田聖来

【制作】2021年/日本

【Web】http://makuai-movie.com/

【日本公開】2021年11月26日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

【配給】SPOTTED PRODUCTIONS

©avex entertainment Inc

私たちには「戻りたい夜」が多過ぎる。

公開されたビジュアルに「私たちには『戻りたい夜』が多過ぎる──。」の一文が添えられ、松井玲奈が演じる麻奈美のどことなく虚無感が漂う表情が印象的な一作。麻奈美は高校時代に演劇コンクールの最優秀作品賞で名を挙げ、時を経た今も劇団を主宰し、演劇に生き続ける劇作家だ。

しかし内情を見ると、劇団は鳴かず飛ばずで、自分は母が経営している美容院を手伝い、劇団の主演女優である相棒はアルバイト暮らし。日々を懸命に生きてきたつもりが、気がついたらたくさんのしこりが心の中にできて、身動きが取れなくなってしまった。謝るタイミングをずっと逃し続けたり、祝福すべき相手に「おめでとう」の言葉が言えなかったり、心が頑なになり、本当の自分を見失って生きている。

そんな麻奈美の人生が、ある日の電話で一変する。妹が死んだのだ。麻奈美は妹の死後、様々な事実を知る。自分の知らないところで家族について苦しんでいたこと。ゴミ屋敷のような部屋に住んでいたこと。同僚をかばうために大量の酒を呑んで泥酔した挙げ句、死んだこと。真奈美はそこから、疎遠になっていた妹の胸の内を知ろうと行動を始め、多様な人々と触れ合う中で、自分の人生と向き合っていく。あの時こうしていれば──そんな風に苦い想いで振り返ってしまうような場面が、誰しも人生のどこかにある。そこに折り合いをつけられないまま歩み続けるうち、自分でも知らない間に、心が迷子になってしまうことも。あの日妹がふと口にした過去を蒸し返すような言葉は、何の意味があったのだろう。自分に対してどのように思い、何を伝えようとしていた? 死んでしまった今、その答えが返ってくることはない。それでも、過去の自分と向き合うことはできる。そして進むべき未来もまた、残されているのだろう。

人間臭く、だからこそ愛おしい様々な登場人物たちとの交流の中で、頑なだった麻奈美の心は少しずつ、開かれていく。その様子は、きっと多くの観る者の心を包み込み、前に進む勇気を与えてくれるはずだ。

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