ちょっと思い出しただけ

過去の思い出は美しいものばかりではない。苦しんだり悲しんだり怒ったり泣いたり。色々な感情が渦巻いて、挙げ句に人生が嫌になってしまう瞬間だってきっとある。それでも我々は過去から逃れられないし、過去を捨て去ることもできない。そんな人生をもがきながら歩んできた私たちを優しく包み込み、過去も今も肯定してくれる作品『ちょっと思い出しただけ』。

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2022年2月号

【キャスト】池松壮亮/伊藤沙莉/河合優実/⼤関れいか/屋敷裕政(ニューヨーク)/尾崎世界観

【監督】【脚本】松居⼤悟

【制作】2021年/日本

【Web】https://choiomo.com/

【日本公開】2月11日(金・祝)全国公開

【配給】東京テアトル

©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会

ふと蘇る、儚くて愛しい日々──

過去の思い出は美しいものばかりではない。苦しんだり悲しんだり怒ったり泣いたり。色々な感情が渦巻いて、挙げ句に人生が嫌になってしまう瞬間だってきっとある。それでも我々は過去から逃れられないし、過去を捨て去ることもできない。そんな人生をもがきながら歩んできた私たちを優しく包み込み、過去も今も肯定してくれる作品『ちょっと思い出しただけ』。『アフロ田中』や『くれなずめ』など、独創的な作風で映画ファンを魅了してきた松居大悟監督が贈る、至極のラブストーリーだ。

今作では、2021年から2016年までの7月26日を切り取って1年ずつ遡り、男女の別れから始まりを描いている。元ダンサーの照生とタクシードライバーの葉(よう)。物語は彼らが別れた後から始まる。誕生日だというのにいつもどおりの朝を過ごす照生。植物に水をやり、体操をして、仕事場に向かう。舞台照明スタッフとして今日もステージを照らす。

一方、ミュージシャンを乗せて目的地に向かう葉は、トイレに行きたいと言う乗客のためにとある劇場に車を停める。中から聞こえる音に導かれてステージに向かう葉。視線の先にはダンスを踊る照生の姿があった。そこから始まるのは、二人が紡いできた6年間の物語。時を遡るごとに形となっていく。冒頭のシーンで映し出されるのは、マスク姿で過ごす人々。撮影は2021年7月から8月にかけて行われ、コロナ禍の現状が作品にも反映されている。作中で展開される2人のなんてことない人生。それが一層輝いて見えるのは、当たり前が当たり前でなくなった今だからこそだろう。消してしまいたいような過去さえもまとめて全てが今につながっている。

過去があって今がある。2人が育んだ微笑ましくも切ない愛が、そんなメッセージを通して私達の人生をそっと支えてくれる。出会った場所。別れた日。息のあった掛け合い。すれ違いの会話。2人だけの世界で過ごした思い出が、ふとした瞬間に頭をよぎる。儚くて楽しくてほろ苦いあの時を『ちょっと思い出しただけ』。

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