ムクウェゲ「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師
【キャスト】【語り】常盤 貴子
【監督】立山 芽以子
【制作】2021年/日本/カラー/ビスタ/ステレオ/75分
【日本公開】2022年3月4日(金)より全国順次公開:新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか
【配給】アーク・フィルムズ
©2021 [CJ ENM, GOM PICTURES, M.o.vera Pictures] All Rights Reserved.© TBSテレビ
自分には関係ない──そう言えるだろうか?
「ブカブは残念ながらレイプの中心地と呼ばれています」──冒頭、2018年にノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ氏のそんな言葉から、このドキュメンタリーは幕を開ける。アフリカ大陸、コンゴ民主共和国・東部ブカブ。「女性にとって世界最悪の場所」と呼ばれるこの地は、ここ20年以上の間、40万人以上の女性たちがレイプ被害を受け続けている。ムクウェゲ氏のパンジ病院では、肉体的・精神的に傷を負った女性たちを無償で受け入れ、これまでに約5万人を治療してきた。
「内臓が破損していた」「家族を目の前で殺された」「1歳に満たない子が」……ムクウェゲ氏や実際に被害にあった女性たちから、想像を絶する凄惨な被害状況が語られていく。目を背けそうになりながら、あることに気がつくだろう。何故そこまでされなければならないのか?
明らかに、単に性欲を満たすためだけに行われたものではない。ブカブではレアメタルなどの鉱物資源が豊富で、その多くが日本をはじめ世界中の先進国に輸出され、スマートフォンの部品などに使用される。その利権を得るために、武装勢力が性暴力という武器を使い、組織的に恐怖で支配する。加害者である武装勢力メンバーも、組織命令のもとで犯行を強制され、そこに人権はない。一体誰が、何が真の加害者であり問題の原因なのか?
この根源を断ち切らなくてはコンゴに平和は訪れない。ムクウェゲ氏は、自身が命を狙われる危険も顧みず、病院から世界に舞台を移し、国際社会に訴え始めた。アフリカの報道に関する企画を制作し続けてきた立山芽以子監督が、友人の紹介を通してムクウェゲ氏への取材を実現し、制作された本作。このドキュメンタリーを見て、皆はどう感じるだろうか。
「コンゴに生まれなくて良かった」──これもまた、正直な感想だろう。だがもし、今手にしているスマートフォンが、コンゴで暮らす女性たちの犠牲のもとで作られているとしたら?
「悲劇から目を背けることは共謀していているのと同じです」。ムクウェゲ氏の言葉が、心を抉る。誰一人として、決して無関係ではない。小さくともできることが、何かあるはずだ。