TITANE/チタン

2018年『万引き家族』、2019年『パラサイト半地下の家族』、2020年カンヌ国際映画祭開催中止──。新型コロナウイルスの蔓延や、映画界における多様性の尊重など、今ほど世界の価値観が一変している時はないだろう。そんな只中の2021年に、カンヌが最高賞のパルムドールに選んだのは、圧倒的【怪作】だった。本作『TITANE/チタン』の主人公は、幼いころ交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。彼女はそれ以来「車」に対して異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。

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2022年4月号

【キャスト】ヴァンサン・ランドン/アガト・ルセル

【監督】ジュリア・デュクルノー(『RAW 少女のめざめ』)【原題】TITANE

【制作】2021年/フランス

【Web】https://gaga.ne.jp/titane/

【日本公開】4月1日(金)新宿バルト9ほか全国公開

【配給】ギャガ

©KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020 ©Carole_Bethuel

頭蓋のチタンプレートが生む“突然変異”

2018年『万引き家族』、2019年『パラサイト半地下の家族』、2020年カンヌ国際映画祭開催中止──。新型コロナウイルスの蔓延や、映画界における多様性の尊重など、今ほど世界の価値観が一変している時はないだろう。そんな只中の2021年に、カンヌが最高賞のパルムドールに選んだのは、圧倒的【怪作】だった。

本作『TITANE/チタン』の主人公は、幼いころ交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。彼女はそれ以来「車」に対して異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。自らの犯した罪により行き場を失った彼女はある日、消防士のヴィンセントと出会う。10年前に息子が行方不明となり、今は孤独に生きるヴィンセント。彼の保護を受けることになり、二人は奇妙な共同生活を始めるのだが、アレクシアは自らの体にある重大な秘密を抱えていた……。

映画における名作の条件とは何だろう? 「普遍的なテーマを扱っている」「万人に受けるストーリー」「世界的な名優が出演している」「名監督が製作した」。挙げればきりがないが、本作はこういった一般的な基準には、全く当てはまらないと言っていい。主演のアレクシア役には、観客がどんな先入観も持たないようにあえて無名の女優が選ばれた。さらにストーリーをジャンル分けするのはナンセンスだというくらい、この結末は誰にも予想できない。筆者は本作を観終わった直後、あまりの衝撃に頭がクラクラした。感情が上手く整理できず、しばらく大量の疑問符を持て余した。それほど、本作のアレクシアはいつも衝動的・刹那的に行動する。その疾走感のある展開に、充分な動機や説明はない。ただ、受け入れるしかない。

こうした暴力的なまでのストーリー展開でも、観客は置き去りにされることなく、なぜか感覚的についていけてしまうのが、本作の不思議なところだ。先述した名作の条件。筆者は本作のように「繰り返し考えてしまい、何度も観返したくなること」が一つだと思う。この未知の体験と混乱の余韻は、中毒になる。

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