ハッチング-孵化-
【キャスト】シーリ・ソラリンナ/ソフィア・ヘイッキラ/ヤニ・ヴォラネン/レイノ・ノルディン
【監督】ハンナ・ベルイホルム【原題】Pahanhautoja【英題】HATCHING
【制作】2022年/フィンランド
【Web】https://gaga.ne.jp/hatching/
【日本公開】4月15日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国順次ロードショー
【配給】ギャガ
©2021 Silva Mysterium, Hobab, Film i Väst
「卵」が暴く家族の狂気
「グロテスク・バージョンの『アメリカン・ビューティー』と『E.T.』に、ヨルゴス・ランティモスの不気味なタッチが備わった奇妙な作品── ただ、ハンナ・ベルイホルム監督の(長編)デビュー作を定義するには、この例えだけでは不充分かも」。『ハッチング-孵化-』は、NYを拠点とする映画評論家のトムリス・ラフリーがそう評した北欧発のホラー映画だ。
同作の舞台はフィンランド。12歳の少女のティンヤは美しい母、優しい父、好奇心旺盛な弟と共に、豊かな自然に囲まれたモデルハウスのような家に住んでいる。彼女の母は笑顔に満ちた幸せな家族の日常を動画に撮って日々発信。元フィギュアスケート選手でもあり、自分の夢をティンヤに託して体操選手としての成功を掴むべく娘を叱咤している。また、到底我が子には言えないような秘密をティンヤに打ち明け、重圧を背負わせてしまう「困った母親」でもあった。自尊心の低いティンヤはそんな母に反抗することもなく、期待に応えるべく体操に打ち込むが、言葉にできない苦しみとストレスは、確実に彼女の精神を蝕んでいた。
そんなティンヤはある日、森の中で瀕死のカラスと卵を見つけ、カラスの死を見届けた後、卵を自室に持ち帰ってしまう。卵は彼女の心情とリンクするかのように、ストレスが蓄積する度に大きくなっていく。そして、やがて卵が孵化して──。自撮り棒とスマートフォン、PCを手に「キラキラした日常」を演出し、自身の「幸せ」や「ときめき」を最優先する母親、母の期待に応えようという責任感と不安で押しつぶされそうになるティンヤ、全てを「見て見ぬ振り」してしまう父親。卵から生まれた「何か」は物語にグロテスクなホラーの味わいを加味しつつ、傍から見れば理想的に見える家族の脆弱な関係性と狂気を暴き出してしまう。
「恵まれた家庭に見える家族の中で心が悲鳴をあげている子どもたちが意外といる」(ムーミン研究家・翻訳家森下圭子)── 私たちが真に恐れるものとは実のところ、一見平和そうに見える、ごくごく身近なところに潜んでいるのかもしれない。