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帰らない日曜日

1924年3月30日、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される母の日。ニヴン家で働く孤児のジェーンには帰る家がない。ニヴン家、シェリンガム家、ホブデイ家の3家族が集まって昼食会が行われるが、シェリンガム家の跡継ぎ・ポールは勉強を理由に遅刻を決め込み、秘密の関係を続けるジェーンを邸に誘って愛し合う。

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2022年5月号

【キャスト】オデッサ・ヤング/ジョシュ・オコナー/コリン・ファース/オリヴィア・コールマン

【監督】エヴァ・ユッソン

【制作】2021年/イギリス

【Web】https://movies.shochiku.co.jp/sunday/

【日本公開】5月27日(金)大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都ほかにて全国公開

【配給】松竹

© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021

生涯をかけて手繰り寄せる、あの1日

1924年3月30日、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される母の日。ニヴン家で働く孤児のジェーンには帰る家がない。ニヴン家、シェリンガム家、ホブデイ家の3家族が集まって昼食会が行われるが、シェリンガム家の跡継ぎ・ポールは勉強を理由に遅刻を決め込み、秘密の関係を続けるジェーンを邸に誘って愛し合う。ポールが昼食会へ向かうと、ジェーンは無人の広大な邸を探索。やがてニヴン家に戻った彼女を思いも寄らない知らせが待ち受け──。時を経て小説家になった彼女は、追想を重ねながら人生が一変したこの1日の記憶を手繰り寄せていく。

ジェーンを演じるのは、2020年に出演した“Shirley”(原題)での演技がメディアから絶賛されたオデッサ・ヤング。ポールは、「ザ・クラウン」で各賞を席巻した若き才能ジョシュ・オコナーが、愛する兄たちを戦争で失った憂いとジェーンへの恋慕を繊細に表現した。アカデミー賞受賞俳優コリン・ファースとオリヴィア・コールマンの贅沢な共演も実現。コールマンは、母親の魂の慟哭を静かに深く体現した。

原作は、「最良の想像的文学作品」に与えられるホーソーンデン賞を受賞した小説「マザリング・サンデー」。これは、単純な身分を超えたラブストーリーではない。記憶に関する物語だ。インディペンデント誌が「思い出と現実の、夢のような交錯」と讃した構成は、情緒的。ジェーンの目に映る物や思い起こす言葉が人生の中のある時代とつながり、記憶を呼び覚まさせる。第一次世界大戦で戦死した息子たちの不在に触れるのを、そして重い感情を背負うことを避けて生きている3家族の行き場のない喪失感とその余波を、上流階級のメイドだった一人の女性の視点から描いている。記憶と共に蘇る愛、喪失と悲しみが、彼女の創造性を開花させたのだろう。

そして、ジェーンの裸体は映画の核心とも言える。セックスシーンや無人の広大な邸を一糸まとわぬ姿で探索するシーンは、セクシーさではなく、すべてをさらけ出し、傷つきやすくも強い女性を表している。繊細なタッチで描かれた絵画の世界に入り込んだかのような詩的な映像も、文句なしに美しい傑作。

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