マイ・ニューヨーク・ダイアリー
【キャスト】マーガレット・クアリー/シガニー・ウィーバー/ダグラス・ブース/サーナ・カーズレイク/ブライアン・F・オバーン/コルム・フィオール
【監督】フィリップ・ファラルドー
【制作】2020年/アイルランド・カナダ合作
【Web】https://bitters.co.jp/mynydiary/
【日本公開】5月6日(金)新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
【配給】ビターズ・エンド【提供】カルチュア・パブリッシャーズ、ビターズ・エンド
9232-2437 Québec Inc - Parallel Films (Salinger) Dac © 2020 All rights reserved.
親愛なるサリンジャー様、お導きを!
90年代、ニューヨーク。作家志望のジョアンナは、老舗出版エージェンシーでJ.D.サリンジャー担当の女上司マーガレットの下、編集アシスタントとして働くことに。新人のジョアンナに与えられた仕事はテープ起こし、そしてサリンジャー宛に届く大量のファンレターに対し定型文を送り返すこと。しかし手紙に目を通すうち、一人ひとりの熱の込もった文章に心揺さぶられたジョアンナは筆を取り、個人的に返信の手紙を書いてしまう。そんなある日、ジョアンナが会社で電話を受けた相手はあのサリンジャーで……。
本作は作家ジョアンナ・ラコフの自叙伝「サリンジャーと過ごした日々」を原作としており、つまりは原作者の実体験が下敷きとなっている。ジョアンナを演じるのは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でブレイクを予感させたマーガレット・クアリー。2022年以降も数多くの出演作の公開を控えている。そして女上司マーガレットを演じたのはシガニー・ウィーバー。「エイリアン」のヒロイン役など、実績十分の名優は本作でも貫禄の演技を見せつけ、助演女優として重要な役割を果たしたと言える。
本作のキーパーソンは、謎多き隠遁作家J.D.サリンジャー。作品の至るところでその影を見え隠れさせ、ジョアンナを導いている。サリンジャーが世に放った青春小説の古典的名作「ライ麦畑でつかまえて」は世界中の若者たちの心を串刺しにした。その風穴から漏れ出した名もなき感情たちの発露こそが、出版エージェンシーに届いた数々のファンレターなのだ。その一つひとつを「そこにいる人物」として映像で表現する手法は見事で、悩める胸の内に鍵をかけてきたジョアンナが新たな1ページを開くまでの筋道立ったプロセスを効果的に示した。
さらに注目すべきは、実際に言葉を交わしたことのある原作者の解釈を基に、サリンジャー像がどのように描かれているのかという点。他の映像作品で描かれるサリンジャー像と比較することで、彼の横顔により深く、多角的に迫ってみるのも本作の楽しみ方の一つではないだろうか。