オフィサー・アンド・スパイ
【キャスト】ジャン・デュジャルダン/ルイ・ガレル/エマニュエル・セニエ/グレゴリー・ガドゥボワ/メルヴィル・プポー/マチュー・アマルリック 他
【監督】ロマン・ポランスキー
【制作】2019 年/フランス・イタリア
【Web】https://longride.jp/officer-spy/
【日本公開】6月3日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国公開
【配給】ロングライド
©️ 2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEO CINÉMA-RAICINÉMA
正義と真実の名のもとに、私は──
1894 年のフランスで、ドレフュスというユダヤ系軍人がスパイとして告発された。ドレフュスは軍法会議の末軍籍を剥奪され、終身刑を言い渡されたが、その後に冤罪ということが発覚。1906 年にドレフュスは無罪を勝ち取るに至り、軍籍へ戻った。──俗に言う<ドレフュス事件>の顛末である。
この事件を、ドレフュスの潔白を証明するために奔走したジョルジュ・ピカール中佐の視点から描き出すのが本作、『オフィサー・アンド・スパイ』だ。<ドレフュス事件>が、なぜ19世紀末のフランスを大きく揺るがし、国論を二分させた大事件として世界的に知られるようになったのか。その理由を分かりやすく説明する、伝記的な側面も強い映画だ。大仰な演出を排し、滔々と話し聞かせるようにストーリーを展開させていく様からは、製作時86 歳だった巨匠ロマン・ポランスキーの監督としての格別な円熟味を堪能できる。
本作の冒頭に据えられたのは1895 年、ドレフュスが勲章を剥ぎ取られ、まさに失脚しようという場面。ロマン・ポランスキーは若いころ、同場面を映画で見たことで打ち震え、本作を撮ろうと決意したという背景もあり、かなり見応えのあるオープニング・シーンとなっている。
ドレフュスが潔白である証拠をピカールが掴むのは物語の前半部で、そこから彼は腐敗した権力や反ユダヤ勢力との闘いを迫られる。通常、冤罪を扱った法廷映画などでは、被告とそれを庇護する者との絆が印象的に描かれるものが多い。
しかし、ピカールとドレフュスは元々教官と教え子という間柄ではあったものの、彼らが親しく接するシーンなど描かれないばかりか、ピカールは反ユダヤの立場であったのだ。それだけに、真っ直ぐ公正な裁きだけを追求するピカールの誇り高さが、暗中の光の如く際立っている。
国家レベルの圧力に踏み潰されかけても、ただ一つの真実を携え進んだピカール。荒波を越え、彼が如何にして正義という名の岸辺に漕ぎ着けたのかを目撃しよう。黒塗りされた歴史から、我々も目を逸らしてはならない。