【キャスト】斎藤⼯ 趣⾥ MEGUMI ⼭下リオ ⼟佐和成 永積崇 信江勇 宮﨑⾹蓮 ⽟城ティナ/ 安達祐実
【監督】 ⽵中直⼈
【原作】浅野いにお「零落」(⼩学館 ビッグスペリオールコミックス刊)
【制作】2022年/日本
【Web】https://happinet-phantom.com/reiraku/
【日本公開】3 ⽉ 17 ⽇(⾦)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
【配給】⽇活/ハピネットファントム・スタジオ
©2023浅野いにお・⼩学館/「零落」製作委員会
立ち止まって味わう、残酷なまでの空虚感
ある漫画家の、脇目もふらずに駆け抜けてきた連載が終わった。久しぶりに立ち止まった自分に残されていたものは、残酷なまでの空虚感だった──。
8年の連載が終了した元人気漫画家・深澤薫(斎藤工)は、自堕落で鬱屈した空虚な毎日を過ごしていた。SNSには読者からの酷評。売れ線を狙う担当編集者とは考え方が食い違い、予定していた新連載は延期の憂き目に遭う。取材に来たインタビュアーに憎まれ口を叩き、アシスタントからは身に覚えのないパワハラを指摘されてろくでなしの烙印を押され、編集者の妻・町田のぞみ(MEGUMI)ともすれ違いの日々。燃え殻のような喪失感にさいなまれ、浮き世の煩わしさから逃げるように漂流をつづける深澤は、ミステリアスな風俗嬢・ちふゆ(趣里)と過ごす束の間の幸せにすがり始める──。
主人公の深澤は、ある角度から見れば“誠実”な表現者だ。流行や商業主義を唾棄し、ストイックに自分の表現を追い求める。ただ、そのことだけに夢中で、他人の気持ちを考える余裕もない。結婚後も漫画を最優先し、子どもを作って温かい家庭を、とも考えない。けれども立ち止まった時、蔑ろにしていた様々な事柄のツケが回ってくる。妻や子どもを愛せる友人と、漫画以外に何もない自分。その漫画でさえ、業界で幅を利かせる連中を嫌悪し、誰とも心を通わせられない自分。全てが無価値に思える。自分を取り巻く人たちも、自分の存在も、必死に歩んできた道さえも。そして彼は、全てに失望し、堕落していく──そんな深澤の姿がある意味では清々しく、美しくさえ見えるのは、彼が堕落した自分の現状を偽らず、飾ろうとしないからなのだろう。そして、思うのだ。彼が抱える苦悩は何かを犠牲にして一つのことに打ち込む人たちが背負うものであり、自分が素晴らしいと信じる表現を作り上げ、価値観を分かち合いたいと願う表現者が向かい合わざるを得ない“業”なのではないか、と。
全ての意欲を失った深澤は、どのような結末へと辿り着くのか。主人公と一緒に「零落」しながら、物語を味わってみてほしい。