聖地には蜘蛛が巣を張る
【キャスト】メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ
【監督】アリ・アッバシ
【制作】2022年/デンマーク・ドイツ・スウェーデン・フランス
【Web】https://gaga.ne.jp/seichikumo/
【日本公開】4 /14(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHO シネマズシャンテ他全国順次公開
【配給】ギャガ
©Profile Pictures / One Two Films
聖地の闇に狂気が満ちる──
マシュハド──350万人もの人口を抱え、イラン第二の規模を誇る大都市だ。国内最大の聖地として毎年2,000万人以上もの観光客と巡礼者が訪れ、その大半が「シーア派イランの心臓部」と呼ばれるモスク、イマーム・レザー廟への参拝を目的としている。宗教都市として名高いエリアだが、至るところで売春が横行する、暗部を抱える都市でもある。そんな同地で2001年、「街を浄化する」という声明のもと、娼婦連続殺人事件が起きる。同じ手口で、街の狭い地域で起きている凶行にもかかわらず、犯人は一向に捕まらない。加えて、「汚れた女たちを聖地から排除している」として犯人を英雄視する空気が生まれる。そんな中、女性ジャーナリストのラヒミは不穏な圧力を感じながらも事件を追い続けるのだが……。
本作を手掛けるのはイラン出身で、『ボーダー 二つの世界』(2018年)で注目されたアリ・アッバシ監督。インスピレーション源は実際に同国で起こった連続殺人事件だ。一部から犯人が英雄視され、正当性が議論になったことから、アッバシは事件に関心を抱いた。そして物語の複雑さや様々な立場の主張に光を当てたいとの思いで、作品を作り込んでいったのだ。
本作の制作過程には興味深い逸話が多い。当初はイランで撮影する予定だったが、撮影許可に関する同国からの返事がなく、ヨルダンのアンマンに変更された。女性蔑視や抑圧された女性たちの現実を浮き彫りにする役割を担う主演のラヒミには、キャスティング・ディレクターとして関わっていたザーラ・アミール・エブラヒミを抜擢。彼女はイランを代表するTVスターだったが、私的な動画が流出したことにより、保守的な同国で活動できなくなっていたという。そんな経歴とリンクするようなラヒミ役にて迫真の演技を見せ、ザーラは第75回カンヌ国際映画祭の女優賞を受賞している。
本作はイラン独自の文化と暗部に触れた作品でありながら、内包するテーマは、私たち日本人にも理解しやすい、普遍的なものだ。「正しさ」とは一体何なのか──観る者の倫理観を激しく揺さぶるような、衝撃的な一作に仕上がっている。