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ニューヨーク・オールド・アパートメント

出自に関係なく、誰でも豊かに、幸福になるチャンスがある──「自由の国」アメリカは、そんな夢と希望を人々に与え、世界中から多くの人を集めてきた。しかし実際には人種や貧富などによる格差が厳然として存在し、夢破れ、苦境に立たされる人たちも大勢いることが、広く知られるようになってきている。『ニューヨーク・オールド・アパートメント』は、そんな「アメリカン・ドリーム」のまばゆい理想と残酷な現実を象徴するような作品だ。

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2024年1月

【キャスト】マガリ・ソリエル/アドリアーノ・デュラン/マルチェロ・デュラン/タラ・サラー/サイモン・ケザー

【監督】マーク・ウィルキンス

【制作】2020年/スイス

【Web】https://www.m-pictures.net/noa

【日本公開】2024年1月12日(金)新宿シネマカリテほか全国公開

【配給】百道浜ピクチャーズ

© 2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue

ぼくらは懸命に恋をした──“透明人間”だった、この街で。

出自に関係なく、誰でも豊かに、幸福になるチャンスがある──「自由の国」アメリカは、そんな夢と希望を人々に与え、世界中から多くの人を集めてきた。しかし実際には人種や貧富などによる格差が厳然として存在し、夢破れ、苦境に立たされる人たちも大勢いることが、広く知られるようになってきている。『ニューヨーク・オールド・アパートメント』は、そんな「アメリカン・ドリーム」のまばゆい理想と残酷な現実を象徴するような作品だ。

主人公は、祖国ペルーを離れ、NYの片隅で不法に暮らすデュラン一家。母ラファエラはウェイトレスをしながら息子たちを女手一つで育て、二人の息子は昼は語学学校に通い、夜はフード配達の仕事をしながら家計を支えている。そんな中、ラファエラは自称小説家の白人男性に声を掛けられ「安定と未来を約束する」という口車に乗り、メキシコ料理のデリバリーサービスを自宅アパートで開業することに。一方兄弟たちは語学学校にて、破天荒で神秘的な魅力を放つクロアチア出身の美女・クリスティンと知り合う。そして淡い恋心を抱きつつ彼女と共に過ごすようになるが、クリスティンはとある秘密を抱えていて……。

物語の中で、兄弟たちは何度か「自分たちは居場所のない、透明人間のような存在だ」と語る。一つは自分たちが街の住民たちから何かと無視されたり差別されたりするためだが、「社会における自分たちの役割を見いだせない」という意味合いもあるようだ。「社会の中で機能する自分でありたい」「人を愛し、愛されたい」という希求は誰にでもあり、本作はそんな人間の悲哀を丁寧に描いている。登場人物たちは混沌としたNYで、失敗し、嘆き、苦しみながら、懸命に不器用に生きていく。決して格好良い姿ではないけれど、だからこそ観る者は彼らを愛おしく思い、悲喜こもごもに心打たれるのだろう。夢は叶わないこともあるし、現実は残酷だが、夢に向かって懸命に生きた日々は決して無駄じゃない。そんな想いと人生への希望を感じさせる、心温まる作品だ。

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