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スミコ22

本作の主人公・静岡スミコはある時、いつの間にか自分の感覚がひどく曖昧なものになっていることに気づく。何が猛烈に好きで、何が耐えがたく嫌いなのか。何を面白く思っていて、何を喋りたいのか。それらを実感することのないままに、人生を過ごしてしまっていると。そして自分と会話しながら、自分の中にある「好き」を再確認していくというストーリーだ。

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2024年6月

【キャスト】堀春菜/はまださつき/松尾渉平/樹/安楽涼/梶川七海/イトウハルヒ/川本三吉/遠藤雄⽃/瀬⼾璃⼦/中川友⾹/安川まり/原恭⼠郎/⿊住尚⽣/東宮綾⾳/⽊村知貴/⼯藤祐次郎(ナレーション)

【監督】福岡佐和⼦

【制作】2024年/日本

【Web】https://sumiko22.amebaownd.com/

【日本公開】2024年6⽉29⽇(⼟)より新宿K's cinemaにて公開

【配給】イハフィルムズ

Ⓒスミコ22

置き去りにされた「好き」や「嫌い」を探して

まだ世の中がコロナ禍になる少し前のこと、私は自主映画ばかりが上映される映画祭を観に行った。そこには自分の知らなかった世界が無限に広がっていて、衝撃を受けたことを覚えている。多様な作品に瑞々しい才能や独特の“熱”を感じる一方、近しい人と接しているような身近さもあって、作品や出演者たちを一遍に好きになった。その際、高く評価された2作品で好演していたのが堀春菜という人で、後に“独立映画界の若きミューズ”として業界で注目されている女優だと知った。その後も彼女は日韓合作映画『大観覧車』やカンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを獲得した『万引き家族』などでキャリアを蓄積。日韓台の俳優がパフォーマンスを繰り広げた舞台『EATI 2019 in Taipei』にも出演するなど、活躍の場を広げていった。そして、この度2024年に5年ぶりの映画主演。しかも福井映画祭15THなどで評判になった『まだ君を知らない』の『しどろもどリ』による新作『スミコ22』への出演なのだから、ファンにはたまらない組み合わせだろう。

本作の主人公・静岡スミコはある時、いつの間にか自分の感覚がひどく曖昧なものになっていることに気づく。何が猛烈に好きで、何が耐えがたく嫌いなのか。何を面白く思っていて、何を喋りたいのか。それらを実感することのないままに、人生を過ごしてしまっていると。そして自分と会話しながら、自分の中にある「好き」を再確認していくというストーリーだ。

日々の仕事に忙殺されたり、目標に向かってひたすら前進したり、感情さえ鈍くなるようなつらいことがあったり。そんな様々な理由により、いつの間にか自分の好悪の感覚や趣味嗜好をアウトプットするのが億劫になり、置き去りにしてしまっていることはままあるもの。それで平気なつもりでいるが、何かのきっかけで自分の内部に閉塞感がパンパンに蓄まっているのに気づいてしまったりして──。本作はそんな、きっと非常に大切なことを“ゆるめ”に気づかせてくれるユーモラスで可愛らしい映画。そして観終わった後はちょっと心が軽くなり、世界や周囲のことをもっと好きになるはずだ。

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