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顔を捨てた男

極端な顔の変形を抱えながら俳優を志すエドワード(セバスチャン・スタン)。劇作家志望の隣人・イングリッド(レナーテ・レインスヴェ)に心を寄せつつも、自身の気持ちを封じ込めて生きる彼は、ある日、外見を劇的に変える治療を受けて「新しい顔」を手に入れる。そしてまるで別人のように順風満帆な人生を歩み始めるも、かつての自分の「顔」にそっくりな男・オズワルド(アダム・ピアソン)との出会いをきっかけに、予想もしなかった方向へと急転していく──。

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2025年7月

【キャスト】セバスチャン・スタン/レナーテ・レインスヴェ/アダム・ピアソン

【監督】アーロン・シンバーグ

【制作】2023年/アメリカ

【Web】https://happinet-phantom.com/different-man

【日本公開】7⽉11⽇(⾦)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

【配給】ハピネットファントム・スタジオ

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「なりたい自分」と「現実の自分」の間で

極端な顔の変形を抱えながら俳優を志すエドワード(セバスチャン・スタン)。劇作家志望の隣人・イングリッド(レナーテ・レインスヴェ)に心を寄せつつも、自身の気持ちを封じ込めて生きる彼は、ある日、外見を劇的に変える治療を受けて「新しい顔」を手に入れる。そしてまるで別人のように順風満帆な人生を歩み始めるも、かつての自分の「顔」にそっくりな男・オズワルド(アダム・ピアソン)との出会いをきっかけに、予想もしなかった方向へと急転していく──。

A24が気鋭アーロン・シンバーグ監督の才能に惚れ込み、初のタッグで誰も観たことのない衝撃の異⾊作を完成。主演は『アベンジャーズ』シリーズや『サンダーボルツ*』『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』などで知られるセバスチャン・スタン。本作ではアカデミー賞®にもノミネートされた特殊メイクを施し、容姿の変化に揺れる主人公の内面を緻密に表現し、ベルリン国際映画祭で最優秀主演俳優賞、ゴールデングローブ賞で最優秀主演男優賞に輝いた。共演は『わたしは最悪。』のレナーテ・レインスヴェ、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のアダム・ピアソンといった実力派俳優陣が揃った。

筆者が印象的だと感じたのは、“他者の視線”の描き方だ。『エレファント・マン』のように、顔の変形ゆえに過酷な差別や迫害を受ける作品と異なり、本作に登場する人物の多くは、ポリコレに基づいた寛容さを備えている。基本的にフラットで親切、スキンシップすら厭わず、“理想的”に見えなくもない世界だ。だがエドワードは、内向的な性格と低い自己肯定感ゆえに、人との心の距離を縮められない。そして「傷ついた自分を誰かに理解してほしい」という理想に執着するから、顔が変わって社会的に成功しても傷を癒やせず、過去の自分を肯定してくれた存在にすがろうとしてしまう。個人的にはこの“痛さ”に共感を覚えてしまったが、観る人によって刺さる視点は異なるだろう。ブラックなユーモアを散りばめた大胆な展開の中に、人間の繊細な心理描写が織り込まれた本作は、観る者の内面にじんわりと問いを投げかけてくる。

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