それぞれが守ろうとする最も大切な存在

　物語は、学が勤務地のアルジェリアで出会った難民出身のナディアと結婚して一時帰国し、父・誠治と顔合わせするシーンから始まる。戸惑いを見せながらも学とナディアの幸せを願う誠治だったが、半グレ集団に追われていた在日ブラジル人・マルコスとの接触をきっかけにストーリーは加速していく。

　国籍、文化、言語など様々な違いを超えて心を通わせる学、ナディア、そしてマルコスらブラジル人の若者たち。陶器職人として土と炎を見つめる日々を送ってきた誠司も、彼らを通じて世界とつながっていく。さらに、半グレ集団のリーダー・榎本も、歪なかたちでこの物語に関わってくる。彼らに共通するのは、“familia”─家族をつくろうとする姿だ。しかしその視点はそれぞれ大きく異なる。恵まれない境遇に夢を見い出せずに生きるマルコスや、在日ブラジル人コミュニティを目の敵にする榎本は、闇を抱え犯罪や暴力と隣合わせで生きている。幸福な未来を確信する学の真っ直ぐな眼差しや、希望を抱くナディアの笑顔とは対照的だ。

　スピード感のある展開で視聴者を引き込みながら、この映画は国籍、難民、移民、ヘイトクライム、テロ、半グレなど、数多くの社会問題を提示する。「ここで一緒に家族になろう」「話す言葉も育った環境も違うのにさ、俺たち家族になるんだよ」「日本人にもなれない、ブラジル人でもない、俺らって何なんだよ！」「俺の一番大切な宝物だった……」様々な事情を抱える登場人物の言葉はどれも、当事者にしか分からない重みが含まれている。

　主人公の誠治を演じるのは、名優・役所広司。その演技力は言わずもがな、オーディションで決まった在日ブラジル人たちの存在感も、この映画の注目ポイントだろう。また、主なロケ地となった「保見団地」や、ブラジル人らのラップグループ「GREEN KIDS」など、実在するブラジル人コミュニティの存在がリアリティを与える。視聴者はこの映画を通して、現実の社会問題や様々な立場による「家族」の在り方について、考え直さずにはいられないだろう。