ロデオ
【キャスト】ジュリー・ルドリュー/ヤニス・ラフキ/アントニア・ブレジ/コーディ・シュローダー/ルイ・ソットン/ジュニア・コレイア/アハメッド・ハムデイ/ダブ・ンサマン/ムスタフ・ディアンカ
【監督】ローラ・キヴォロン
【制作】2022年・フランス
【Web】https://www.reallylikefilms.com/rodeo
【日本公開】2023年6月2日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国ロードショー
【配給】リアリーライクフィルムズ + ムービー・アクト・プロジェクト
© 2022 CG Cinéma / ReallyLikeFilms
ジェンダーニュートラルの時代を疾駆する
ジュリア・デュクルノーの『チタン』、ポール・ウォーカーの『ワイルド・スピード』、セリーヌ・シアマの『ガールフッド』を足せば、ローラ・キヴォロンの長編デビュー作の生々しいパワーがわかるはずだ─ジェンダーニュートラルの時代に突如現れた本作『ロデオ』は、まさにこの言葉を裏切らない唯一無二の力に満ちている。
バイクに跨るためにこの世に生を受けたジュリア。短気で独立心の強い彼女は、ある夏の日“クロスビトゥーム”というヘルメットを装着せずに、アクロバティックな技を操りながら公道を全速力で疾走するバイカーたちに出会う。ある事件をきっかけに彼らが組織する秘密結社の一員となった彼女は、超男性的な集団の中で自分の存在を証明しようと努力するが、次第にエスカレートする彼らの要求に対し、コミュニティでの自分の居場所に疑問を持ち始める──。
監督のローラ・キヴォロンは自らノンバイナリー(身体的性に関係なく、自身の性自認・性表現に「男性」「女性」といった枠組みを当てはめようとしないセクシュアリティ)を公言する人物。そんな監督が活写するのは、アンドロセントリズム(男性中心主義)のコミュニティの中で生きようとするアウトローヒロインだ。振動まで伝わってきそうな激しいエンジン音や猛スピードで風を切る疾走感、ガソリンの刺激臭、タイヤが焦げる匂い。その躍動感の中で女性であることを強要され続けるヒロインの苛立ちや葛藤が静かに描かれる様は、最初から最後まで画面に一触即発のヒリヒリする緊張感を生み出し、観ているこちらが火傷しそうだ。
本作は2022年カンヌ国際映画祭ある視点部門で、本作のために特別に設けられた“審査員の心を射抜いた”という意味のクー・ド・クール・デュ・ジュリー賞を受賞している。#me too運動以降、勇気ある告発やカミングアウトが増え、自己表現の方法も多様化する中で、人々に新しいヒロイン像として歓迎された証拠だろう。男性でも女性でもないありのままの自分を生き抜くその鮮烈な姿は、私たちの心を熱く震わせる。