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日銀も実験スタート! 始動する「デジタル円」

今後3年のうちにデジタル通貨の発行が始まる可能性がある国・地域は、世界の5分の1に及ぶ。そうした中、2021年4月に、ついに日本銀行も、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の実証実験をスタート。紙幣や硬貨を使わなくなる─そんな未来が近々やって来るかもしれない。私たちのくらしや経済は、どう変わるのか?

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マスターズ2021年11月号

各国が続々と実験中! 日本もついに始動

国際決済銀行(BIS)の報告によると、現在、世界65カ国・地域のうちの6割が、デジタル通貨の実験段階に進んでいるという。今後3年以内にデジタル通貨の発行が始まる可能性がある国や地域は、人口ベースでは世界の5分の1にも及ぶことが分かっている。
そんな中、ついに日本においても『日本銀行』が2021年4月より、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC:CentralBankDigitalCurrency)の実証実験を始めたことが大きな話題となった。中央銀行デジタル通貨とは、①紙幣や硬貨ではなく、デジタル化されていること、②円などの法定通貨建てであること、③中央銀行の債務として発行されること─以上の3つを満たすものであると言われている。

デジタルのお金は3種類
デジタル通貨ならではの魅力とは?

一般的に、デジタルのお金には下図の3種類があるが、デジタル通貨の最大の特徴は、民間企業ではなく、国が自らの責任で発行していることであり、価格の安定性や通用力に最大の魅力がある。というのも、デジタル通貨の価値は、法定通貨と完全に1対1で対応しており、1デジタル円は、現金1円と同等。価値はほぼ一定で、ビットコインのように値上がり益は狙えないものの、物やサービスの価格を表示したり、代金を決済するのに適している。

2111MA特集-デジタル円(図1)


一方で、暗号資産(仮想通貨)の場合は、企業が発行する株式のような解散価値がないため、適正な価格を見いだしづらい。ビットコインだと、価格が激しく変動するため、買い物をする度にビットコインの時価を調べなくてはならない上に、値上がり益に課税されるのも煩雑だ。
また、デジタル通貨のメリットは、どこでも・誰にでも使える点にもある。たとえば、PayPayやSuicaなど民間の電子マネーの場合は、払い込んだ現金を特定の運営会社の限られた経済圏で使うことを想定している。そのため、自由に引き出したり、違う運営会社の電子マネーと交換することができない。しかし中央銀行が発行するデジタル通貨は、民間企業ではなく、国が自らの責任で発行するため、どこの店でも使うことができ、誰に対しても送金できるという現金同様の利便性を目指している。
さらに、デジタル通貨はタイムラグの少なさも魅力だ。たとえば、電子マネーでは、商品を売った代金が、店の銀行口座に振り込まれるまでに1カ月程度かかる。一方、デジタル通貨で受け取ることは、紙幣や硬貨を受け取ることと同じなので、商品の販売と現金の受け取りにタイムラグがない。

小国・新興国がリード
さらに大国も追随する

2111MA特集-デジタル円(図2)

これほどメリットが多いデジタル通貨。実は、小国や新興国のほうが進んでいることをご存じだろうか。2020年10月には中米カリブ海の小さな島国・バハマが、世界で初めてデジタル通貨を発行した。バハマは無人島からリゾートの島まで、700を超える島国で構成される国だ。そんな同国のバハマ中央銀行が発行したのが、「サンド・ダラー」。銀行の支店撤退などで金融サービスを受けられない島民に、金融アクセスしやすくするのが狙い。バハマドルと1対1で連動し、当初は国内限定で通用する。また、同じく2020年に、アジアの一国であるカンボジアもデジタル通貨を発行した。カンボジア国立銀行が発行するのは「バコン」。自国通貨のリエルよりアメリカドルの利用が多く、デジタル化で利便性を高めてドル依存度を下げる狙いがある。スマートフォンアプリを使い、電話番号かQRコードで個人・企業間の送金や店舗への支払いができるシステムとなっている。「バコン」はリエルとアメリカドルに対応。カンボジア国立銀行と、ブロックチェーン(分散型台帳)開発で有名な日本の企業『ソラミツ』が技術を共同開発したことで、日本国内でも一時期大きな話題を呼んだ。

また、2021年以降は、EU(欧州連合)や中国など経済大国も動き出す。EUでは、現欧州中央銀行総裁であるクリスティーヌ・ラガルドが21年7月、「デジタルユーロプロジェクトを開始する」と表明した。銀行から預金流出を防ぐため、3,000ユーロ(約40万円)程度の保有上限を検討。送金では誰が何に使ったのかを見られない「匿名性」を備えており、利用者はデジタル・ユーロに「匿名バウチャー」を付ければ、一定額まで当局に中身を見られずに送金できるという。
「デジタル・ユーロ」の発行は2026年以降になる見込みだ。中国では、遅くとも2022年の北京冬季オリンピックまでに、中国人民銀行が金融機関を通じて「デジタル人民元」の発行を目指す。「デジタル人民元」は中央集権型のデータ管理を行う。広東省深圳市など5カ所を実験エリアに選び、実証実験を開始。すでに5万人弱が200元ずつ受け取り、決済に利用した。ドル経済圏への牽制の意味も込められているという。
さらに2021年以降は、スウェーデンで、スウェーデン中央銀行が「eクローナ」を、ドミニカ国、グレナダなど8つの国・地域の中央銀行である東カリブ中央銀行が「Dキャッシュ」を発行予定。トルコ、ウクライナ、マーシャル諸島、韓国、レバノン、ウルグアイ、オーストラリア、タイ、シンガポール、カナダなど、各国が続々とデジタル通貨発行のための実証実験を開始している。その中で慎重な姿勢を見せているのが、アメリカだ。同国では具体的な計画を明らかにしておらず、その動向が注目されている。

※画像内のメリット・デメリットのテキスト
【メリット】
■製造・保管・輸送コストなどの削減
1円玉を製造するには3円、5円玉を製造するには7円のコストが必要だとされている。また製造だけでなく、流通や管理、廃棄などにもコストが発生しているが、中央銀行発行のデジタル通貨が発行されれば、これらのコストを削減できる。
■入出金の経緯が簡単に把握できる
デジタル通貨はデジタルデータのため、入出金の経緯が一目瞭然。マネーロンダリングや脱税などが見つけやすくなり、税収入が増えるという可能性もある。利用者目線では、収入や支出といったお金の流れが全て記録に残るため、納税などの手続きが少なくなる。

【デメリット】
■セキュリティ問題
デジタル通貨はクラッキングやハッキングの対象になりやすく、法定通貨建てのデジタル通貨ともなれば最高クラスのセキュリティ対策をしなければならない。そのため、高度な技術や高額な維持費などが必要になります。
さらに現状は、キャッシュレス決済のトラブルは増加傾向にある。消費者庁の発表によれば、2019年に発生したキャッシュレス決済や電子マネーに関する相談件数は3491件で、過去最多を記録している。

動き始めた日銀
山積する課題をどうするか

世界の中央銀行に押される形で、2021年4月、ついに日本でも、日本銀行が「デジタル円」の実証実験を開始した。日本銀行の実証実験は3段階。まず、システム上で実験環境をつくり、電子上のお金のやりとりで不具合が起きないか、基本機能を検証する。その上で、お金に金利を付けたり保有できる金額に上限をつけたりする金融機能が動くかどうかを試す。
最後のパイロット実験で、民間の事業者や消費者が加わり、地域を限定して実際の決済に使えるかどうかを検証する。実際にデジタル円を発行・流通する際には、日銀法の改正が必要になる見込みだ。ただ、日本ではすでにPayPayなど民間事業者のキャッシュレスサービスが普及し始めている。日本銀行がデジタル通貨を発行した場合、これらとどう棲み分けるのだろうか。
こうした疑問への答えを出そうとしているのが「デジタル通貨フォーラム」だ。民間によるデジタル通貨発行に必要な共通基盤の開発を進める組織で、『三菱UFJ銀行』『三井住友銀行』『みずほフィナンシャルグループ」 の3メガバンクや、NTTグループ、JR東日本などが参加している。デジタル通貨フォーラムの前身であるデジタル通貨勉強会が公表した最終報告書に一つのアイデアがあった。
これが2層構造デジタル通貨。支払い手段としての共通領域と、ポイントを付けたりするキャッシュレス事業者の独自性を発揮する付加領域からなる2層構造にすることで、キャッシュレスサービスの相互運用性を持たせる試みだ。たとえば、PayPayでチャージした電子マネーを、JR東日本のSuicaで使えるようにするのが狙いだという。
また、民間の電子マネーとの共存以外にも、課題はある。たとえば、電子マネーを巡る犯罪は後を絶たないため、デジタル円の偽造や不正を防ぐ安全性の確保は絶対条件であり、また「いつでも、どこでも」使うための技術開発も欠かせないだろう。
そして、デジタル円が普及すれば、民間銀行の預金減少や融資機能の低下も懸念される。そうした金融インフラへの影響を慎重に検討しなければならない。さらに、誰が何にいくら使ったのか、把握が容易になるため、プライバシーが漏れたり悪用されたりする恐れもある。そして「デジタル弱者」への配慮も決して忘れてはならない。

経済産業省の発表によれば、日本のキャッシュレス決済比率は現在でもまだ約20%程度。主要国が40%〜60%に比べるとまだまだ低い割合だ。政府はこのキャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界最高水準の80%を目指しており、キャッシュレス決済政策を推進しているが、なかなか浸透していないのが現状だ。
しかし、各国が続々とデジタル通貨導入へ動き出した今、国際社会に取り残されないためにも、日本も遅れを取ってはいられない。まずは、早急な実験やシステムづくり、法整備などが私たちに求められている。

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