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婚活ビジネスはどこへ──マッチングアプリ VS 結婚相談所

結婚相手を探すための活動、略して「婚活」。コロナ禍を機に未婚者の「結婚したい願望」が上昇し、婚活に関連したビジネスもまた活況を呈している。その代表的なものは、今や婚活の主役に躍り出た感のあるマッチングアプリ、そして費用はかかるものの確実性で支持される結婚相談所である。理想のパートナーと結ばれる夢を支援するビジネスの最新情報をレポートする。

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ルーツ2024年3月号



結婚、出産に関しては政府機関が様々な統計を取っており、新しいデータが発表されるたびにニュース等で取り上げられる。しかし、昨今報じられるのは恋愛や結婚に対する未婚者の関心の低さばかりである。2021年の『国立社会保障・人口問題研究所』による「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」では、「いずれ結婚するつもり」と考える18〜34歳の未婚者は男性 81.4%、女性84.3%であった。つまり、未婚男性の20%弱、未婚女性の15%強が「結婚するつもりがない」と考えているのである。もはや、「するのが当り前」と思われた結婚は「人生の選択肢の一つ」になっていると言えよう。

コロナ禍で人恋しさが高まった?

しかし、その傾向がコロナ禍を機に変化しつつある。『リクルート ブライダル総研』の2021年の調査によると、「コロナ前と比べて恋人が欲しくなった」割合が31.2%もあった。その理由は「好きな相手と一緒にいたい」が最も多く、次いで「自分の家庭を持ちたい」「精神的に安定した生活が送れる」「精神的に支え合える存在が欲しい」「経済的に安定した生活が送れる」等があり、不安な世情を背景に人恋しさが高まった、もしくは経済的な安定が欲しくなったのではないかと考えられる。

婚活熱の高まりの要因としてもう一つ考えられるものがある。いわゆるマッチングアプリの利用者がコロナ禍の3年間で約1.5倍に急増しているのだ。マッチングアプリとは、入会して自分のプロフィールを登録すれば同じ登録者から交際相手を探せるサービスである。無料で登録できることから、若者はSNSやゲームに近い感覚でマッチングアプリを使いこなすようになった。マッチングアプリにより、婚活は「生涯の伴侶探し」といった一種重苦しいものから一気にカジュアル化したと言えるだろう。では、現在の婚活ビジネスの主役となった感のあるマッチングアプリをビジネス面から考察してみよう。

「結婚のきっかけ」1位となったマッチングアプリ

昨年、結婚に関する興味深いリサーチ結果が発表された。『明治安田生命』が実施する「いい夫婦の日に関するアンケート調査」の「結婚のきっかけ」のランキングで、「マッチングアプリ」が1位になったのだ。以下は「職場の同僚」「学校の同級生」「友人・知人の紹介」が続く。恋愛は自然な出会いから始まるべきで、サービスを利用するのはどこか後ろ暗いというイメージがつきまとっていたが、もはや結婚式で2人のなれそめがマッチングアプリだと明るく告白するカップルも珍しくない。

■利用方法

マッチングアプリでどのようにして交際相手を探すのか。サービスによって若干の違いはあるが、共通しているのは利用条件として18歳以上独身であることと、アプリをダウンロードすれば無料で登録できることだ。しかし、無料での利用には機能の制限があり、好みの相手とメッセージのやりとりをするには有料会員になる必要がある。

著名なマッチングアプリの料金は月額3,000円台といったところで、男性のほうが高額なサービスもある。オプションとして、プロフィールの検索において上位表示される、自分のメッセージが相手に読まれたかどうかが表示されるといったサービスもある。お金をかけるごとに自身の「婚活戦闘力」がアップしていく仕組みは、ゲームになじんでいる若者に抵抗なく受け入れられている。

出会った相手と結婚を前提とした交際に発展したら退会する(もう他の相手に声をかけないことを宣言するために互いの目の前で退会手続きをする利用者もいる)。利用期間は半年以内にスピード退会する層と1年以上利用する長期戦の層に分かれているようだ。

■市場規模

現在国内のマッチングアプリ市場は『Pairs』『Omiai』『with』『タップル』の上位4サービスの寡占状態にある。「オンライン恋活・婚活マッチングサービス」の括りで見た市場規模は2024年で1264億円と予想されており、今後もなだらかに拡大していくことが予想されている。実は2022年に10社ほどの新たなマッチングサービスが新規参入を試みたが、そのうち4つは1年持たずに終了。上位サービスが盤石のマインドシェアを獲得していると言えるだろう。2020年には『LINE』(現『LINEヤフー』)がマッチングアプリ『HOP』を立ち上げ注目されたものの2年足らずで撤退するなど、よほどの独自性を出さない限り新規参入して上位に割り込むことは困難と言えそうだ。

■メリットとデメリット

マッチングアプリのメリットは登録の手軽さと、結婚相談所などの非ネット系サービスと比較しての料金の安さと言える。一方でデメリットもいくつかあるが、最大のものは不健全な目的で登録する利用者が絶えないことだ。勿論各サービスとも安全性を担保するために様々な努力をしているが、相手に危害を加える、あるいはストーカーまがいの迷惑行為を繰り返す利用者を完全にシャットアウトすることは不可能であり、最終的には「自分の身は自分で守る」しかない。

結婚相談所はカウンセラーと会員の質で勝負

システムで交際相手を選ぶのがマッチングアプリなら、専門の担当者、すなわち「仲人」(多くの相談所では「カウンセラー」と称しているので以下「カウンセラー」と表記)に紹介してもらうのが結婚相談所である。とは言え結婚相談所も人力のみに頼っているわけではない。業界最大手の『IBJ』は国内最大級の会員データベースを有しており、それを利用して担当者が交際相手の候補者を紹介してくれるのである。

■利用者の特徴

時間を無駄にしたくない「タイパ(タイムパフォーマンス)」重視型の利用者が結婚相談所には多いと言われる。アプリでは相手とデートする際に時間や場所の打合せなどで時間や手間を要するものだが、結婚相談所なら初回のお見合いのセッティングはお任せできる。相手が気に入らなければ代わりに断りを入れてくれるので、相手に対して気を遣わなくて済む。

また、結婚相談所の料金は入会金(3万円〜10万円)、登録料(1万円〜3万円)、月会費(約1万円)、お見合い料(0円〜5千円)、成約料(10〜20万円)の主に5種類があり、相談所によって差はあるものの結婚までに40万円程度は予算として見ておかねばならない。このハードルの高さにより、所得の低い人やいい加減な目的で入会する者はふるいにかけられているのだ。こうして実現した会員の質の高さ、結婚に対する真剣度の高さは「早く決めたい」人には好都合であろう。

大手企業の役職者で相談所の会員になって婚活している人物に入会理由を尋ねたところ、「コンプライアンスのお陰で会社内では婚活できないから」という意外な答えが返ってきた。例えば、個人的に好意を持った部下や同僚を食事に誘った場合、相手によってはパワハラ、セクハラと捉えられかねない。かと言ってアプリを利用すれば、自分のプロフィールが他人に見られることになる。氏名を隠してニックネームのみ表示することも可能だが、顔写真は出さざるを得ないので知人に見られたら婚活していることがばれてしまう。それは立場上恥ずかしい。相談所の会員に大手企業の役職者がいるのはこういった理由もある。

■大手相談所の戦略

東証プライム市場に上場している業界最大手『IBJ』は、結婚相談所ではあるものの自社をIT企業と位置付けている。同社は国内最初の婚活サイト「ブライダルネット」を開設したほか、データベースや紹介システムに磨きをかけ、検索機能、チャット機能、カレンダー機能等を次々に追加。スマートフォンを使ったAIによるマッチングサービスも提供している。

『IBJ』は「日本結婚相談所連盟」の英語のイニシアルだ。では結婚相談所のフランチャイズチェーンなのかと言えば、そうではない。全国の相談所に有料で国内最大の会員データベースを利用させているのである。従ってロイヤリティは必要なく、加盟相談所は高い粗利率での営業が可能となる。しかし、フランチャイズではないので集客は各加盟相談所がそれぞれの負担で行わねばならない。『IBJ』はこれを「オーナー経営制」と呼んでいる。

■トラブル回避

前述のようにマッチングアプリのトラブル回避は自己責任の部分が大きいが、『IBJ』は会員の交際に深くコミットして会員の安全を守っている。いくつかの規約を紹介すると、「お見合いキャンセルは不可(どうしてもキャンセルしたいならば違約金が発生)」「仮交際2カ月、真剣交際1カ月で結婚するかどうか決めること」「同棲並びに婚前交渉禁止」といったものがある。これらの規約に違反した場合は強制退会となる。「学校でもあるまいし」と反感を示す会員もいるそうだが、業界最大手としておそらく幾多のトラブルを乗り越えてきた経験から現在の内容になったであろうこれらの規約は、会員を安全に最短距離で結婚に誘導するための最適解なのではないだろうか。

■カウンセラー

結婚相談所の最大のメリットとなる「人」の要素は、会員に受け入れられなければ最大のデメリットになってしまう。実際、結婚相談所の口コミを見ると、カウンセラーに対する不満が多い。内容は「対応や物言いが“上から”で不愉快」「納得していないのに強引にお見合いを進められた」といったものだ。いずれも「親切」が「おせっかい」に映ったのかもしれないが、顧客との相性の「合う」「合わない」が生じてしまうのは属人的なサービスの宿命と言えよう。カウンセラーとのやりとりで疲弊し、アプリを利用しようと考える会員もいるかもしれない。

これからの婚活ビジネスは?

コロナ禍を経て活況を呈している婚活ビジネス。しかしコロナが収束して日常を取り戻しつつある中で、婚活ビジネスを取り巻く環境は順風とは言い難い。『リクルート ブライダル総研』の調査によれば、2023年に「恋愛は時間とお金の無駄である」と答えた割合が20代女性は19.4%、20代男性は23.7%、30代女性は23.6%、30代男性は21.7%もあり、2017年の調査結果と比べてそれぞれ6〜12ポイント増えているという。我が国の人口が減少傾向にあることも合わせて考えれば、マッチングアプリも結婚相談所も弱いところから淘汰されていくことが予想される。

会員ばかりでなくカウンセラーのなり手も減少するのだから、人の手に頼る部分が大きい結婚相談所の業態は不利である。地方には所長とカウンセラー2〜3人で運営している小規模な相談所が多い。十数年後には所長の高齢化、カウンセラーの離職後の採用難などで立ち行かなくなるところも出てくるはずだ。そうなれば、他の業界同様にM&Aが進むと予想される。

現在のところ、マッチングアプリ利用者は20代〜30代、結婚相談所の会員は30〜40代がボリュームゾーンである。この点を見れば、アプリと結婚相談所は顧客を奪い合うのではなく、棲み分けにより共存が可能な関係に思える。しかし、今は好調なマッチングアプリも業績不振に陥れば他社に買収される可能性がある。『IBJ』のような大手相談所が買収すれば、マッチングアプリの有力サービスと最大の会員データベースを有する総合婚活サービス会社が誕生するかもしれない。

今回の記事ではマッチングアプリと結婚相談所を取り上げたが、それ以外にも婚活ビジネスは「お見合いパーティー」や「街コン」などのイベント型のサービスがある。それらの発展形として、例えば映画、スポーツ、旅行など共通の趣味を持つ人のコミュニティを作り、その中で交際相手を見つけさせるサービスもすでに始まっている。

少子化の原因が婚姻数の減少にあると見た政府は少子化対策担当大臣を設置し、ブライダル業界に補助金を出すなどの動きを見せている。そんなことよりも子どもを産んで育てられる給料を払え、子どもを産みたくなる社会を実現しろなど、様々な声が聞こえる。そう考えれば、婚活ビジネスはパートナー探しばかりでなく、出産や子育てを応援する社会的な活動に発展するかもしれない。少し大風呂敷を広げ過ぎた感はあるが、婚活ビジネスが社会的な意義を持った事業として発展することを願う。

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