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その体調不良、気象病かも?

天気が崩れるタイミングで、頭が痛くなったり体がだるくなったりしやすい気がする──そう感じている人はいないだろうか。実はこれ、気のせいではなく「気象病」と言われる疾患である可能性がある。気圧の変化で自律神経が乱れることなどによって体調の変化が生じ、頭痛などの症状が引き起こされるのだ。かつてはあまり理解されていなかったこの気象病も、近年では広く認知され対策アプリなども登場している。本稿ではこの気象病について紹介。理解と対策のヒントとして活用してもらいたい。

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センチュリー2021年8月号

気象病とは?

漫画やアニメなんかで、「古傷が疼く、こりゃ天気が荒れるぜ」というようなセリフを、一度は聞いたことがあるだろう。フィクションの世界でなくても、実際に「雨が降る前は頭痛がする」といった意見はよく耳にする。こうした症状は誰にでも起こるものではないため、「気のせい」という言葉で片付けられたり誤解されたりして、あまり理解されていなかった。ただ、最近では天候や気圧の変化による心身の不調について、「疾患」という認知が進んでいる。季節の変わり目にだるさを感じたり、雨が降る前に頭痛が起こるという人は、もしかすると「気象病」かもしれない。

気象病の認知と理解

「気象病」の症状は、頭痛、めまい、だるさ、関節痛、吐き気、いらつき、気分の落ち込みなど、心身問わず様々な不調として現れる。しかし、気象病は症状の訴えがあるにもかかわらず検査で原因が特定されない「」の状態が多く、それ故に長らく疾患として認識されてこなかったのだ。周囲の理解がなければ体調を崩したと休むことも難しく、かと言って無理をして普段通り振る舞うことが続くと、心身に無理なストレスがかかって余計に症状が悪化する。「頑張りたい」と思っていても、気候が原因とあれば本人の体調管理だけではコントロールできず、しかも周囲に分かってもらいにくいと本人としてはもどかしいもの。実際、気象病を患う多くの人で、「何故悪いのか」「どの程度悪いのか」を周囲の人に説明することが非常に難しい、と感じている人は多いそうだ。自分の体調を管理するヒントのために、そして周囲の人の体調不良に理解を示すためにも、もう少し詳しく触れていこう。

なぜ天候で体調が崩れるのか?

では、なぜ天候の変化が体調不良を呼び起こすのだろうか。人の体は、気温・気圧・湿度といった環境の変化に対し、無意識に体を変化させて対応する能力がある。気象病は、この無意識の反応が環境の変化に対処できなくなり発生すると言われている。中でも、気圧の低下は体のバランスをとっている内耳を刺激し、自律神経の乱れを引き起こすことから、気象病な主な原因となるのだ。
耳は、外耳・中耳・内耳の3つの構造から成り立っている。外耳は音を集めそれを中耳に導き、中耳は鼓膜の振動を内耳に伝え、内耳はそれを聴覚神経に伝える。また、内耳は体の平衡感覚を司りバランスを取る役目も果たしており、わずかな気圧の変化でも影響を与える。体が平衡感覚を維持するためには、内耳からの平衡感覚の情報と視覚からの情報が一致しなければならない。しかし、気圧の変化によって内耳から「体のバランスが崩れた」という誤った情報が届き、視覚からは「崩れていない」という情報が届くことがある。この「ズレ」によって脳が混乱し、自律神経が乱れて体調に影響が出るのだという。その結果「めまい」「頭痛」などが起こる。内耳が敏感な人ほど、こうした症状が出やすいというわけだ。

症状が出た時の対策

気象病の多くは自律神経のバランスが崩れたことが原因となる。つまり、普段から自律神経のバランスを整える生活習慣を身に付けることは、気象病による不調を予防する効果が期待できる。まずは、バランスのとれた食事、適度な運動、充分な睡眠などが大切。 また、朝は熱め(42度)のシャワーを浴び(交感神経を優位にする)、夜はゆっくりぬるめ(38度~40度位)の湯船につかる(副交感神経を優位にする)、といった行動も効果が見込めるという。
また、耳周りの血流を良くすることも大切だ。血流が悪いと内耳のリンパ液も一緒に滞り、めまいや頭痛などの症状を引き起こしやすい。たとえばマッサージによって血流を促進させれば、その予防につながる。「耳温熱」と言われる、耳を温める方法も有用。小さめのタオルを濡らして軽く絞り、耐熱性のポリ袋などに入れて電子レンジで約1分加熱。そのタオルを、耳の後ろにある骨の突起の指1本分下にある「完骨」というツボに当て、片側ずつ耳をじっくりと温めると良い。

2108CE特集-その体調不良、気象病かも?(図1)

さらに最近では、気象病用の耳栓も販売しているそうだ。これは鼓膜にかかる圧力をコントロールすることで、天候による気圧変化を調整するもの。様々な商品があるようだが、「効果を感じた」など口コミの評判が良いものもあるので、こうした商品を試してみるのも1つだ。

酔い止め薬が効果あり?

先ほど紹介した、自立神経が整う工夫をしたり血流を良くしたりといった対策は、体質や症状によっては気休め程度に終わってしまうこともあるだろう。「薬はないのか」とお思いの方もいるだろうが、市販で手に入る薬では「酔い止め薬」が役に立つかもしれない。車や電車などの乗り物酔い対策として飲む、あの酔い止薬めだ。先ほど、平衡感覚を感じ取るセンサーが内耳にあることを記述したが、車酔いも内耳からの情報と目など他の器官からの情報にズレが起きることで、脳が混乱して自律神経を刺激し、頭痛や吐き気などを引き起こすと考えられている。つまり、気象病と乗り物酔いの原因は似ているのだ。酔い止め薬は内耳に働きかけて神経の興奮を鎮めることで車酔いを防止するため、気圧の変化による神経の興奮も沈める働きが期待できる。ただ、神経が一旦興奮してしまって症状が出てからでは、薬の効果を得にくい。かすかな予兆を感じたら、早めに服用したほうがよさそうだ。

2108CE特集-その体調不良、気象病かも?(図2)

気象病になりやすい人は

どんな人が気象病になりやすいのだろうか。傾向としては女性のほうが多く、ある病院での患者数は「女性7:男性3くらいの割合」という感覚だという。年齢は小学生~高齢者まで幅広く、女性は20代~30代、男性は30代~50代がピーク。何度か触れているように内耳が敏感な人は気象病になりやすいので、車酔いしやすい人は気象病を発症しやすい傾向にある。また、デスクワークを長時間している人、スマホを触る時間が長い人、冷暖房が効いた環境に長時間いることが多い人、姿勢が悪い人、歯のかみ合わせが悪い人、ストレスを感じやすい人、運動をほとんどしない人などが、気象病になりやすい人に当てはまる。
自分が気象病になりやすいと自覚している人は、次の3点に注意して、自分の体調がどんなタイミングで悪くなるのか、生活やその時の天気も含めて記録をしよう。

①日時(どんな状況で起こったか)
②どんな痛みや症状が、どれぐらい長く続いたか
③症状のあった日から一週間前後の仕事の忙しさ・生活の様子

これらのチェックで症状が発生しやすい条件や症状の傾向を把握したら、対策をとって少しでも楽になるよう気をつけよう。まず基本は、天気予報をよく確認して活用すること。先の天候の変化を頭に入れておき、気圧が下がりそうな時には酔い止め薬を飲んでみたりマッサージをしてみたり、念入りに対策を取るといい。また最近では気圧の変化や天候の変化を知らせてくれるアプリが出ているため、これを活用するのも良いだろう。

2108CE特集-その体調不良、気象病かも?(図3)

便利なアプリで事前対策

「頭痛ーる」というアプリをご存知だろうか。「気象や心身の変化による体調不良に備えたい」などのニーズに応える、気象病予防・体調管理アプリだ。毎月約100万件の体調記録に基づく精度の高い予防と、親しみやすく使いやすいUI・UXによって気象と体調不良の関係を「見える化」。2013年4月にリリースされて以降、2021年5月時点で約520万ダウンロードを記録している。
使い方は簡単で、自分の住んでいる地域を登録すれば、後は天気予報のような要領で気圧の変化によって体調が崩れやすい日時を、視覚的に簡単に確認することができる。たとえば通常通りの気圧で問題なさそうな時間帯であれば、青色で「OK」の表示が出る。気圧が下がり多くの人が体調に影響をきたしそうな時間帯については、赤色の爆弾マークで「警戒」と表示される。その時間帯に実際に自分の体調がどうであったか記録をつけることも可能で、痛みの程度、服薬した薬の種類と名称等のメモをつけていれば、どんな天候の時にどのような症状が出るのか自分で把握でき、対策も立てやすい。地域登録による詳細な気圧の確認だけでなく、全国マップで翌々日までの全国の気圧天気予報をチェックすることも可能だ。

「頭痛ーる」開発当時の2013年は、気象病という概念は一般的な認知度が今よりも低かったという。気候の変化に応じて体調が悪くなったことを訴えても、「気のせい」で片付けられるケースが多かった。だからこそ、専門知識のない一般の人にでも受け入れられ瞬時に理解しやすいよう、直感的な操作とビジュアルの可愛さを意識して開発したという。このアプリの登場が、気象病の一般理解にひと役買っていると言えそうだ。

漢方薬という選択

ここで漢方医学の視点から、気象病を捉えてみよう。漢方の世界では気候による身体の崩れを重要視している。身体が受ける気候からの悪影響を6つに大別し、①熱さ:熱邪 ②寒さ:寒邪 ③乾燥:燥邪 ④湿気:湿邪 ⑤暑さ(熱さ+湿気)暑邪 ⑥変化:風邪(ふうじゃ)に分ける。今回、気象病の主な原因として触れている低気圧の影響は、この中の④湿邪⑥風邪が該当する。気圧低下による湿気で全身の水(汗、リンパ液など)の循環が悪くなる「水滞(すいたい)」と呼ぶ状態になり、血液に水分が溜まって血管が拡張。神経を圧迫することで頭痛、倦怠感、むくみ、気分の落ち込みなどが発生するというのが漢方の考え方だ。
この場合、体の水の巡りを整えて「水滞」を解消することが症状の回復につながる。これを踏まえ、効果が期待される漢方薬としては、体内の水の巡りを良くしたりバランスを整えたりする「苓桂朮甘湯」や「五苓散」があげられる。ここまでで紹介した対策で症状の改善が見られない場合など、漢方薬というのも1つの手だ。

なぜか体調が悪くなる時がある──今まで理由が分からなかったけど、もしかして気象病かな?今回始めて気象病を知った人の中に、そう思った人がいるかもしれない。今までより少し、天候と体調の関係を気にしてみてはどうだろう。この記事が少しでも、皆さんの体調を整えるためのヒントになれば幸いだ。

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