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美容・健康・活力のために──現代人こそたんぱく質の積極的摂取を

スポーツや筋力トレーニングを行っている人は、ほとんどの場合たんぱく質の摂取量を普段から意識している。こうしたイメージからか、「たんぱく質=筋肉」という印象を持つ人も多い。実際は筋肉に限らず、髪のツヤや肌のハリ、免疫力や精神面の安定などにも関わっており、心身の健康のために重要な栄養素だ。しかし2010年ごろには不健康なダイエットを行う人も増えるなど、日本人の平均たんぱく質摂取量は戦後と同レベルにまで低下。令和以降も充分に摂れているとは言えない状況だ。本稿で改めてたんぱく質の基本的な役割と重要性について触れ、理解を深めることで美容・健康・活力のために積極的にたんぱく質を摂取するきっかけとしてほしい。

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マスターズ2022年12月号

マッチョな印象が強いが

ここ何年かで筋トレブームが起こり、身体を鍛える人がかなり増えた。筆者の肌感覚としても、周囲の人で筋トレを始めた人は多いように思う。そんな筋トレ組やスポーツ選手などが、トレーニング以外で特に意識しているのがたんぱく質の積極的な摂取。「運動後何分以内にたんぱく質を摂ると良い」と、プロテインを飲んでいる人を見たことがある人は多いはず。こうしたイメージもあってか「たんぱく質=筋肉」という印象が強いが、たんぱく質の役割は筋肉の生成のみにあらず。思っている以上に様々な役割を果たしている。

たんぱく質の基本的な役割

たんぱく質は、炭水化物、脂質と並ぶ3大栄養素の1つで、筋肉や血管などの身体を作る重要なものだ。この程度は学校の授業でも習う基本的な知識で、誰でも知っていることだろう。もう少し突っ込んで、神経伝達物質のセロトニンやドーパミン、男性・女性ホルモン、ウィルス感染などから身体を守る抗体などもたんぱく質でできていることは、知らない人もいるのではないか。また、全身に酸素を届けるヘモグロビン、血糖値を下げるインスリン、消化酵素のペプシン、アミラーゼなどもたんぱく質だ。私たちの身体のかなり多くの部分がたんぱく質によって成り立っている。たんぱく質は20種類のアミノ酸で構成されるが、その中の9種類は体内で合成できず食事から摂取するしかない「必須アミノ酸」と呼ばれるもの。しっかりと食事を摂らなければ、身体の機能は維持できない。しかし日本人のたんぱく質平均摂取量は、ダイエットブームの影響などもあって、1980年代〜90年代をピークにその後減少している。

2010年ごろには戦後並みに
現代人はたんぱく質不足?

1970年代から90年代には、日本人は1日80g前後のたんぱく質摂取量を維持していた。ちょうど平均寿命が世界一に上り詰めたのもこのころだ。しかし、2010年には67.4gにまで低下。2019年(令和元年)には71.4gまで上がっているが、それでもまだ1950年代と同じ程度だ。その背景には、肉類を避けるようなダイエットをする人が多くなったことや、安価・手軽に炭水化物が豊富なインスタント食品が手に入るようになったことが考えられる。身体の成長や機能維持はもちろん、美容と健康のためにもたんぱく質は非常に重要だ。最近では女性を中心とした美意識の高い人々の間ではそうした意識も常識になりつつあるものの、平均値が50年代並みというのは現代人が充分にたんぱく質を摂取しているとは言えないだろう。では、具体的に美容や健康という面においては、たんぱく質がどのように影響するだろうか。

美容・健康面でも影響

まず、筋肉量や筋力の低下とそれに伴う影響がある。たんぱく質の多くは筋肉に蓄えられるため、食事からのたんぱく質が足りないと筋肉内のものを使うことになり、筋肉量や筋力が落ちるのだ。そうなると基礎代謝が下がり、効率よくエネルギーが消費されず太りやすい体質になってしまう。また、筋力の低下で正しい姿勢が保てなくなると血行不良が起こったり、筋肉の質が悪くなって肩こりや腰痛の原因にもなり得る。肌に弾力を与える役割を持つコラーゲンもたんぱく質から作られるため、肌のハリ、シワ、たるみ、むくみなどに影響する。髪の毛のケラチンという成分も同様で、髪のツヤや薄毛などにも関係している。神経伝達物質のドーパミン、セロトニンなども脳内にてたんぱく質を原料に作られ、学習意欲や精神の安定などにも影響を与える。例を挙げればキリがないほど人の心身に様々な影響があるのだ。美容と健康に関心のある若者にたんぱく質の重要性を知ってもらうことはもちろん大切だが、高齢者にとってもかなり重要なものになっている。

高齢者のたんぱく質が不足すると

高齢者では筋肉量が減り、少し動いただけで疲れやすくなる。そうなるとさらに動かなくなるため、「サルコペニア(筋肉減少症)」と呼ばれる筋力・身体能力の低下状態になる。これは筋肉量が減少していく一種の老化現象だが、25歳〜30歳ごろから始まり生涯を通して進行するもの。場合によっては歩行困難にもなり、高齢者の活動能力低下の大きな原因となる。さらに進むと、“寝たきり予備軍”とも言われる「フレイル(心身の虚弱状態)」となる恐れも。フレイルは、『日本老年医学会』が2014年に提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」の日本語訳。“健康な状態と要介護状態の中間”に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態だ。フレイルの原因は、身体的要素、精神・心理的要素、社会的要素などが絡み合っている。加齢による筋力・筋力量の減少で活動量が減り、エネルギー消費量も低下。その状態では食欲がわかず、たんぱく質をはじめとした栄養の摂取不足となり、さらに筋力や筋肉量が減少してと、悪循環から徐々に要介護へと向かっていってしまうのだ。つまりたんぱく質の不足は、この悪循環を生み出す要因の一つになり得る。フレイルの予防も視野に入れて、2020年には厚生労働省による食事摂取基準が改定された。

厚生労働省の「食事摂取基準」でも
たんぱく質の摂取量を引き上げ

「日本人の食事摂取基準」という、健康寿命延伸のための栄養摂取基準を示したガイドラインが、5年おきに厚生労働省から出されている。現在は2020年版が最新で、2020年4月から5年間使用されるものだ。この最新版では今後のさらなる高齢化の進展を踏まえて、高齢者の低栄養予防・フレイル予防を視野に入れて策定された。50歳以上でのたんぱく質摂取の目標量の下限値が従来より引き上げられており、摂取エネルギー全体に対する割合で見ると高齢者は他の年齢区分よりも高い。18歳〜49歳ではたんぱく質の目標量下限値は摂取エネルギーの13%だが、65才以上では15%。割合ではなく量で示すと、男性は15歳〜64歳が65g、65歳以上が60g。 女性だと12歳〜17歳の女性が55g、18歳以上だと50gが推奨する摂取量となる。簡単に言うと、「高齢の方は食事のたんぱく質量の割合を多めにしましょう」と、厚生労働省が推奨しているわけだ。

たんぱく質の豊富な食材

各食材100gあたりのたんぱく質含有量をいくつか例に出すと、サケが22.3g、鶏もも肉が16.2g、木綿豆腐が6.6g、牛乳が3.3g。1日に複数の食品を組み合わせると無理なく摂取しやすいので、各食品の栄養表示を注意して見てみると良いだろう。また、100g中よりも1人分の食べやすい分量中での含有量を比較すると、より摂取しやすい。肉類だけでなく魚や大豆・大豆製品など、様々な食品からの摂取が望ましい。効率よく摂取したい場合は、サプリやプロテインを活用することも良いが、あくまで食事がメインで、サプリなどは補助であることを忘れないように。

正しい摂り方を

ただ闇雲に摂れば良いというものではない。一日に必要な量をまとめて摂るのではなく、朝昼晩の毎食で20〜30gを目安に摂取すると良い。たんぱく質は炭水化物や脂質とは異なり、身体にためておくことができないからだ。人間の体内では、たんぱく質の分解(カタボリック)と合成(アナボリック)が繰り返し行われている。長時間カタボリックの状態が続くと筋肉が減ったり、体内のたんぱく質が不足して心身の不調を招いたりすることになりかねない。特に注意すべきなのは朝食。前日の夜ご飯から考えると長時間カタボリックの状態となるので、朝食のたんぱく質摂取を意識することは大切だ。また、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質はバランス良く、1対1を意識して摂ると良い。

動物性と植物性

そもそも、動物性たんぱく質と植物性たんぱく質はどう違うのか。大きな違いは必須アミノ酸のバランスだ。必須アミノ酸は1つでも欠けると、栄養障害などを起こすことがある重要なもの。動物性たんぱく質はこの必須アミノ酸の含有量が多く消化・吸収が速い。そのため運動後に筋繊維が破壊された筋肉を効率的に再生する。一方の植物性タンパク質は必須アミノ酸の含有量では劣るが、脂肪量が少なく代謝を上げるナトリウムやカリウムが豊富。また、サポニンやイソフラボンといった抗酸化作用促進やホルモンのバランスを保つ成分も含まれる。消化・吸収もゆっくりで、体内の吸収率は動物性タンパク質が97%に対し植物性タンパク質は84%。両方を組み合わせて摂取することが望ましい。

摂り過ぎには注意

「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉があるように、たんぱく質も摂りすぎるのは良くない。過剰摂取によって健康を損なうという充分な研究結果はないそうだが、身体に影響が生じた報告はいくつかある。まずは内臓の疲労。たんぱく質のうち余ったものは分解されて窒素となり、窒素を体外に排泄するためには肝臓・腎臓が働く。たんぱく質の摂取量が多いほど肝臓や腎臓にかかる負担が大きくなるため、内臓疲労につながる可能性がある。また、たんぱく質が豊富な食品は比較的カロリーの高いものが多い。たんぱく質量だけに注目して食事を摂ると結果的にカロリーオーバーになるケースもあるので、ダイエット目的などの場合には低カロリー高たんぱくの食事を心掛けよう。尿路結石とも関連があると言われる。動物性たんぱく質は、摂取すると体内でシュウ酸や尿酸などが増加する。シュウ酸はカルシウムと結合しやすい性質を持ち、腸の中でカルシウムと結びつくことで便として体外へ排出される。腸で吸収し切れなかったシュウ酸は尿として排泄されるが、尿に含まれるカルシウムと結合してしまうと、尿管が詰まる原因となるのだ。また、吸収されず腸内に送られたたんぱく質は、悪玉菌の餌になってしまい腸内環境が乱れるケースもあるという。排出した便を観察した際、黒っぽく嫌な臭いがある場合は、腸内環境が悪くなっている可能性があるため、食事のバランスと合わせてトイレ事情も意識してみよう。

 たんぱく質が身体に与える影響はあまりに多岐にわたる。トレーニングをする人、美しい肌や髪を目指す人、ダイエットをしたい人、メンタルの安定を図りたい人、健康寿命を延ばしたい人、その全員にとってキーとなる栄養素だ。健康的な心身のために、バランス良く積極的にたんぱく質を摂取していきたい。

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