今こそ楽器の始め時 ステイホームで高まる趣味としての楽器需要
巣ごもりで始める新たな趣味 室内でできる「楽器」に注目
コロナの影響で外出自粛が求められるようになり、趣味も満足にできなくなってしまったという人は多い。「日本トレンドリサーチ」が行った、全国の男女2528人を対象にしたアンケートによると、42.6%の人が自粛の影響でできなくなった趣味があると回答した。ライブ、カラオケ、旅行、ジム通いなど、答えの中には外に出なければできないものが続く。一方で、自粛期間に新たに始めた趣味があると回答した人は21.7%。ヨガ、ガーデニング、お菓子作り、茶道、刺繍など、室内で可能な趣味を始めた人もいるのだ。そんな室内趣味の中でも人気があり、お勧めしたいのが「楽器」である。体力が衰えても一生涯楽しむことができ、楽器演奏が脳の活性化を促進し認知症予防にも効果があるということも、医学的見地から実証されつつある。初心者から玄人まで楽しみ方の幅は広く、楽器を始めたことで音楽の聴き方が深くなったり、楽器でつながる友達が増えたりといった、様々なプラスαもあるだろう。
コロナ禍における楽器の人気上昇
実際に、外出自粛が長く続く中で最近になって楽器を始めたという人は多く、各社の売り上げは好調なようだ。『河合楽器製作所』が2021年8月5日に発表した4月~6月期の連結決算は、最終損益が11億円の黒字。売上高は前年同期比74%増の205億円だった。コロナの影響による巣ごもり需要などで、電子ピアノやグランドピアノの販売が好調に推移したという。国内だけではなく、電子ピアノに関しては中国を中心に国外でも好調で、売上は64%増えたそうだ。
首都圏を中心に40店を展開する『山野楽器』東京・銀座本店でも売り上げが好調だ。ヘッドホンを使えば近所に気兼ねなく弾ける電子ピアノは、幅広い世代から問い合わせがあり売り上げが伸びているという。同店で電子ピアノを上回る勢いを見せているのがウクレレだ。初心者向けには1万円台から手に入るリーズナブルさもあって、2020年の6月~8月の売上高は、前年比で2.1倍。若い女性を中心に人気を集めているという。ウクレレの製造販売を手掛ける『キワヤ商会』では、オンラインでの注文が急増して一時生産が追いつかない状況に陥ったという。定番のアコースティックギターも人気で、売上を伸ばしているようだ。
ここまで楽器そのものの売上増についてが続いたが、なんと「防音室」の売り上げもかなり伸びているという。「防音室って買えるの?」と思った方は少なくないだろう。生音が大きい楽器では、マンションや密な住宅地では満足な練習が難しい。そんな悩みを解決するために、『山野楽器』では防音室を30年以上扱っているという。売れ筋はギターやサックスが練習できる1.2畳型。最小のものなら0.8畳型で、63万8千円~だという。決して安くはないが、中古モデルなら約半額で買えるものもあるとか。ストレスフリーに楽器を長く楽しみたい人からすると、価値のある投資かもしれない。自宅で録音したい、というケースでも重宝しそうだ。
今の時代、楽器もサブスク?
さて、いざ「楽器を始めてみよう」と思ったら、自分の興味がある楽器を財布と相談しながら選ぶことになる。数万円の予算で初心者用のセットが手に入る楽器も多いが、楽器によってはもっと高いものもある。また人によっては、数万円の予算も「もしすぐに辞めてしまったらもったいない」と、高く感じることもあるだろう。そんな人にうってつけなのが、サブスクリプションサービスだ。なんと最近では楽器もサブスクで利用できるのである。
東京の『神田商会』が始めた「PlayG!」というサービスは、ギターやベース、ウクレレなど約350機種の弦楽器やアンプを、3つの月額プラン(2970円、7480円、1万9800円)に応じて利用できる。最も低価格のプランは初心者向けの廉価モデルが中心で、上のプランになるほど有名ブランドの上位機種が揃うなど、選択の幅が広くなっていく。同社の担当者曰く、人気は10万円前後のギターが200機種揃う2970円のプラン。客層の中心は30代から40代の男性だという。
このサービスを利用すれば、仮に挫折してしまっても返せば済むため、楽器が無駄になることはなく、金銭的にも購入に比べて手が出しやすい。また、上位プランなら購入では手が届かないような憧れの高級機種を手にすることも可能だ。さらに、レンタル中の商品は購入することも可能。それまでに支払った月額料金の合計を、申し込み時点の参考購入価格から差し引いた金額で販売してくれるそうだ。ただし、差し引く月額料金合計は、購入する商品のレンタル期間10ヵ月分が上限。また、月額料金合計が参考購入価格を上回った場合でも、毎月の利用料金は発生する。購入に二の足を踏む初心者はもちろん、すでに楽器を始めている人で「憧れの高級機種があるけれど購入には踏み切れない」という場合も、まずレンタルから始めて気に入ったら購入する、といった使い方もできそうだ。
オンラインレッスン「タクプラ」
楽器の上達の近道の1つは自分に合った講師を見つけて教えてもらうことだが、コロナ禍では外出することも憚られる。そんな人に最適なのがオンラインレッスンだ。『デリ・アート』のオンライン音楽教室「タクプラ」は、便利で気軽に使えるサービスが整っている。
「タクプラ」が目指しているのは、「音楽教室の敷居を下げ、日本中の楽器の上達を目指すユーザーをサポートし、楽器演奏を楽しむ人を増やす」こと。同教室では150名以上のプロフェッショナルな講師が在籍。選択する講師やジャンルによってレッスン料金も異なり、価格を見比べながら講師を選択することが可能だ。また、基本的に単発のレッスンが中心で、1回から自分のペースで学ぶことができる。「決まった日と時間に通うことが難しい」という人には最適だろう。さらに、対応している楽器やジャンルが豊富で、民族楽器など通常の音楽教室ではなかなか対応していない楽器も学ぶことができる点が大きな魅力だ。
独学で学ぶ場合
もちろん、独学で練習を進めるのも良い。最近は教則本の利用だけでなく、YouTubeなどのサービスで無料で良質なレッスン動画がいくらでも見つかる。自分のレベルに合った教材を探し、課題を見付けて真面目に取り組めば上達するはずだ。これは多くの楽器奏者や講師が言うことだが、独学による練習の際には定期的に自分の演奏動画を撮影し、客観的に見直すことがお勧め。演奏している時は演奏に必死になり、自分がどんな音を出しているかリスニングの部分で集中できていないケースが多い。動画で改めて見てみると、演奏時に気づかなかった上手く弾けていない部分を発見できたり、フォームの見直しになったりもする。
ただ、独学する場合の前提として教材がしっかり揃っている必要がある。「教則本が売っていない」「練習用の動画が見つからない」といった楽器は、正解が分からず正しく練習することが難しい。ギターやピアノなど演奏人口が多いポピュラーな楽器は、練習に必要な情報も手に入りやすいが、演奏人口が少ない民族楽器などは、あまり独学に向いていないかもしれない。また、バイオリン、チェロ、コントラバスなど、正しい音程をとるのが難しい楽器も注意が必要だ。たとえばギターであれば、「フレット」と呼ばれる金属の隆起が1オクターブを12に区切って付いている。ピアノも、1オクターブ中で12の鍵盤が付いている。その区切りや鍵盤の場所に従って、「ド」の音が鳴る場所を弾けば誰が弾いても正しく「ド」の音が鳴る。一方のバイオリンなどは、そうした音階毎の区切りがついておらず、指の感覚と耳で正しい音程が鳴る場所を探し覚えていかなければならない。初心者のうちは誤って覚える可能性もあるので、やはり独学は簡単ではないだろう。どの楽器も、独学を選んだとしてもスタート時点で正しいフォームや知識を身につけることが、先々に大きく影響してくることは意識しておくべきだ。
騒音問題を解決する「サイレント」系の楽器
室内で楽器を練習する上で問題の1つになるのが、音量だ。防音室の売り上げが伸びているのもその対策のためだが、防音室の導入は少々ハードルが高い。音漏れを抑えられるサイレント楽器の種類も多く、売り上げが伸びている。その一つが「ウィンドシンセサイザー」だ。これは木管楽器や金管楽器の奏法を用いて、シンセサイザーをコントロールして多彩な音色を扱うことができる電子楽器。昨年『ヤマハ』が発売したデジタルサックス「YSD-150」は、サックスと同じ指遣いで操作ができるウィンドシンセサイザーだ。初回に出荷した数千本は即完売したそうで、人気のほどがうかがえるだろう。電子楽器であるためヘッドホンを使えば周囲に音は漏れず、自宅での室内練習をメインにする人にとっては重宝するようだ。また『inMusic Japan』が販売する初心者向けの「AKAI EWI Solo」は、見た目はリコーダーのような形状のシンセサイザー。200種類もの音色が楽しめ、市場価格も6万円前後と比較的手が出しやすい。2020年の発売時には予約台数が出荷数の2.5倍に上ったという。どんな音が出せるのか想像がつきにくいかと思うが、おそらく誰でも1度は耳にしたことがあるのが「T-SQUARE」の「TRUSH」という曲。F1のテーマソングと言ったほうが分かりやすいだろうか。あのメインメロディーは、「AKAI EWI」シリーズのウィンドシンセサイザーで演奏しているそうだ。
また、ギターにも「サイレントギター」というものがある。サイレントギターは音を共鳴させる胴体部分がなく、生音の大きさは通常のアコースティックギターと比べて10分の1程度。エレキギターのように弦の振動をセンサーで感知し電気信号に変えて音を増幅させることができ、ヘッドホンを使えば周囲に迷惑をかけることなく大音量での練習も可能。スピーカーとアンプにつなげばライブでの演奏にも対応できる。もともと『ヤマハ』が2000年に社内で新商品の公募を行い、担当者が自分が開発に関わったサイレントバイオリンに着目。「バイオリンができるならギターにもできるのでは」と提案し、採用されたという。斬新な商品ゆえ売れないのではないかという声も上がっていたが、胴のない特徴を活かした個性的なデザインと本格的な音色が海外アーティストにも受け、徐々に一般化していった。それから約20年経った今、音漏れを気にすることなく演奏できると、巣ごもり需要で改めて注目を浴びているというわけだ。音量が気になる人はサイレント系の楽器を買うのも良いだろう。また、エレキギターやエレキベースはうるさい印象がある人もいるかと思うが、アンプにつながず生音で練習すれば音はかなり小さい。練習時の音声を抑えるために敢えてエレキを選ぶ、という手も1つだ。
何歳からでも、何度でも
楽器を始めるにあたって様々なサービスを紹介してきたが、個人的にはやはり購入をお勧めしたい。もし一度挫折しても、何年後かに気が向けばもう一度手に取ることもできるからだ。そして、それは何歳であっても構わない。時々、シニア世代になってから楽器を始める人に対して「今さら?」という反応を示す人もいるようだが、趣味を楽しむのに早いも遅いもない。老若男女が誰でも好きな時に始められ、暮らしと感性を少し豊かにしてくれるのが楽器の良さだ。気軽に楽器を手に取ってみよう。