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SNSとはどのように付き合うべきなのか──企業をめぐるSNSのリスクを考える

SNSは、インターネットを介して人と人をつなぎ、交流の場となるツールである。SNSの多くは無料で利用でき、簡単な操作で誰もが全世界を相手に情報を受発信できる。同時に、その便利さ、手軽さは、時として凶器にもなる。メリットとデメリットが共存するSNSと企業はどのように付き合うべきか、昨今の事件や出来事を参考に考察する。

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月刊センチュリー2023年5月号

企業はSNSのリスクから逃れられない

誰もが加害者にも被害者にもなり得る

今日、テレビやインターネットを見て「SNS」が話題にならない日はない。SNSで人気の店、SNS発のファッション、SNSで物議を醸した発言、等々。様々な出来事に直接的・間接的にSNSが関係している。私たちはSNSを利用することで世の中の動きを知り、世界に向けて発言することができる。

ただし、広く親しまれているSNSであるが、発信される情報をコントロールすることは不可能だ。SNSを通じて発信された情報は、時に刃になる。このリスクから人や企業は逃れることはできない。誰もが加害者にも被害者にもなり得るのがSNSなのだ。

この特集では、特に企業視点からのSNSを考えてみたい。企業におけるSNSのリスクにはどのようなものがあるか、リスクを回避してSNSを有効に利用するにはどうすれば良いか、そして、「炎上」など万一SNSから問題が生じたらどうしたら良いか。昨今の事例をもとに対策を交えて考察したい。


まず、既に浸透している言葉ではあるが、SNSとは何かを確認しておこう。総務省のホームページでは、次のような説明がなされている。

「SNSは、ソーシャルネットワーキングサービス(Social Networking Service)の略で、登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービスのことです。(中略)最近では、会社や組織の広報としての利用も増えてきました」


SNSは、様々なサービスの総称である。140文字程度の短文を投稿するツイッター、写真を共有するインスタグラム、実名登録が基本のフェイスブック、動画を共有するユーチューブ、十数秒の短い動画の共有がメインのTikTokといったサービスは、いずれもSNSに分類される。

SNSは大半のサービスが無料で利用でき、操作も簡単である。SNSの中で様々な人の価値観に触れることができ、自らも自由に情報を発信できる。ユーザー同士の出会いとつながりを生み出すのがSNSの最大のメリットと言えよう。しかし、使い方次第で、その手軽さと影響力は人や企業に大きなダメージを与える可能性を秘めているのだ。順を追って見ていこう。

1.社外の人間の発信に起因するリスク

店舗におけるイタズラ、悪ふざけの動画投稿

今年はじめ、一つの動画をきっかけに、飲食店における迷惑行為が社会的な関心事となった。その動画は回転寿司『スシロー』の店内で、一人の少年が卓上に備え付けの醤油さしや湯呑みを舐めて元に戻す様子を映していた。この動画はTikTokに投稿されたが、これを見て衝撃を受けた多くの人が動画をSNSに転載したことで、短期間のうちに知らない人がいないほど拡散してしまったのである。不衛生なイタズラに対して店舗はもちろん多くの人々が不快感と怒りを表明したが、その後も同様の迷惑行為を動画でSNSに投稿する「模倣犯」が続出。飲食店で共用の食品に箸やスプーンを突っ込んで直接口に運ぶ者がいれば、カラオケ店内で火遊びする動画を投稿する者まで現れた。

店舗における迷惑行為そのものは、インターネットが登場する以前からある。店舗はその都度迷惑客に対応してきたが、多くの人がそれを知ることはなかった。しかし、その事情を変えてしまったのがSNSである。仲間内で「目立ちたい」「笑いを取りたい」といった動機から一般人が眉をしかめる行為を敢えて行い、動画に撮影してSNSに投稿する者が後を絶たない。

おそらく迷惑客は「軽い気持ちで」イタズラするのだろうが、SNSを介すれば一般の人々の外食店舗全体に対する不安感を煽ることになる。このことを意識したのであろう、『スシロー』を運営する『株式会社あきんどスシロー』は、動画の迷惑行為を「お客様との信頼関係を損なう重大な事案」と位置づけ、迷惑客に対して民事刑事の両面から責任追及する姿勢を明らかにした。

口コミとしての苦情や低評価

前項は店舗が被害者であるが、そうでない場合もある。たとえば劣悪なサービスを受けた時、あるいは購入した商品に満足できない時、あなたはどうしようと思うだろうか。今、もっとも身近な「仕返し」の場がSNSになっている。かつて、商品やサービスに対する不満を投稿する場と言えば匿名掲示板「2ちゃんねる」であったが、現在最もよく使われるのはツイッターだ。

企業の公式SNSにコメントとして苦情が書き込まれることもある。こちらのほうが個人のツイッターからの発信よりも企業が被るダメージは大きい。なぜなら、その企業の商品やサービスの利用を検討している人は、公式SNSを見る可能性が高いからだ。コメントは誰からも閲覧可能なので、苦情を見た人は利用を控えるかもしれない。

昨今では、グーグルが提供している「Googleビジネスプロフィール」というサービスの口コミもよく利用されている。企業名や店舗名でグーグル検索をかけると上部に現れるもので、施設の所在地や連絡先、営業時間等を表示できるものだが、口コミを書くスペースもある。評判の悪い企業の口コミを見ると軒並み低評価(★1つ~5つで評価できる)で、辛辣な言葉が並ぶ。グーグルに口コミの削除を申請することは可能であるが、グーグルは悪評もまた評価であるとのスタンスなので却下されることが多い。

外部の人間には、例えば求人の応募者や取引先もある。採用面接で失礼な対応をされたり、悪条件での取引を強要されたりといった体験をした人が、やはりツイッターやGoogleビジネスプロフィールの口コミスペースに不満を書き込むことがある。

企業のリスク対策の専門会社には、このようなネガティブな口コミを削除できないかという問い合せが毎日のようにあると言う。しかし、ツイッターであれグーグルであれ、書き込まれた口コミの削除は現実的に困難だ。もし削除できたとしても、実態が変わらなければ同様の口コミを書き込まれる可能性が高い。企業としては、ネガティブな口コミを消そうとするよりも、その原因となった社内の問題点を精査し改善するほうが本質的な対応ではないだろうか。読者におかれては、たとえ不満があれど感情的な投稿は慎むようご注意いただきたい。

2.社員・関係者の発信によるリスク

個人アカウントからの不見識な発言

SNSは実名でも匿名でも利用可能だが、自分のビジネスに役立てようとする人の多くは本名でアカウントを運用している。

昨年、某社の人事担当者のツイッター投稿が物議を醸したことがあった。「採用は、“採ってはいけない人”を見極める仕事だ。最近意味が分かってきた」と投稿したのである。これは、投稿者の勤務先企業の中、あるいは人事担当者同士の会話での発言ならば問題にはなるまい。しかし、ツイッターは誰もが閲覧可能な場である。投稿者は個人的な意見を披露したに過ぎないが、それを見た人が「自分に向けて言われた」という感覚を持つのがSNSなのだ。

当該の投稿には「偉そうなことを言うな」「お前の会社の求人に応募して落とされた人間の気持ちを考えろ」「差別的な思想だ」等々、何百という批判的なコメントが殺到し、いわゆる「炎上」の事態となった。投稿者は当該の投稿を削除したが、批判は勤務している企業にも及んだ。人材獲得が企業の重要な経営課題とされる今日において、人事担当者の発言によって企業イメージが低下したのでは本末転倒である。たった一人の配慮に欠けた投稿が企業全体の評判に影響することをSNSのリスクとして知っておくべきであろう。

ただ、個人が運用するSNSの投稿にどこまで所属企業が関与するべきかは検討の余地がある。後に詳述するが、個人のSNS運用に関してはルールの制定や教育が重要になると思われる。

公式アカウントからの不見識な発言

公式SNSアカウントからの発信は企業の公式声明と認識されるので、投稿前に原稿がチェックされるなど組織的に発信内容を管理している企業が多い。しかし、そのような状況下で投稿された内容であっても配慮が足らず批判を浴びることがある。

某映画会社が「なんでもない日、おめでとう」とツイッターで投稿したものの、その日は原爆が投下された日であったために批判を浴び、謝罪したことがあった。また、別の企業の公式ツイッターが「社畜」という言葉を使い、やはり無神経であると批判された。

SNS以外でも、企業サイトで公開した記事が「女性蔑視」「マイノリティ軽視」と批判されて企業が謝罪することは珍しくない。ひと昔前に比べて企業を見る目は格段に厳しくなっている。前述の投稿に悪気がないことは想像できるが、公式SNSの担当者は世間一般の当り前の感情を理解するとともに、感度を高めておく必要がある。

守秘義務のある情報の流出

某菓子メーカーの新商品のCMに人気タレントが起用されるという情報が、CM公開前に社員の家族のSNSから発信されたことがあった。発信者が家族であれ、未公開の情報を社外で口にすることはご法度である。

顧客のプライバシーを社員が発信してしまう事件もしばしば発生する。これについては芸能人が来店した不動産店、あるいは宿泊したホテルの従業員が、彼らが来店した(する)ことをツイッター等に投稿して批判された例がある。特に高級店において顧客のプライバシーをSNSに流出させるスタッフがいるとすれば、ブランドイメージは一瞬で崩壊する。

また、企業機密は文字情報ばかりとは限らない。ツイッターやインスタグラム等には、様々な人々の日常のスナップ写真が数多く投稿されている。その中には企業の事務所内部で撮影されたものも珍しくなく、人物の背後に資料の棚や予定表が写り込んでいる場合もある。そのような写真から企業機密が漏洩するリスクは少なからずある。機密漏洩がなくとも、所属企業が「セキュリティ意識が低い」という印象を見た人に与える可能性は高い。

内部の問題の告発

企業内部の問題を社員がSNSで告発する場合がある。最近では某飲食店において、店内の衛生環境の改善を訴えたものの無視されてきた店員がツイッターで「厨房にナメクジが大量にいる」等と投稿した。この店舗はフランチャイズ店であったが、告発を受けて運営元から契約を解除され、2店舗が閉鎖された。

企業ではないが、昨年、某大学で学生が教授から差別的な対応を受けたという苦情がツイッターに投稿されたことがあった。これはLINEでの学生と教授のやりとりがそのまま画像として投稿されたもので、これを受けて大学は当該の教授を解雇している。

このような告発がなされた場合、企業には評判が低下する以外に、抗議の電話やメールが殺到する被害が発生する。悪い者を罰したいと思う人々の「処罰感情」が、一斉に告発された企業に向けられるのだ。顧客でも取引先でもない人からの抗議電話を一日中受け続け、担当の社員が健康を害し、企業としてもしばらく仕事にならなかったという話もある。

SNSによる告発は、内輪の恥を晒すようなもの。それだけに、迅速かつドラスティックな対応がなされやすい。もちろん、告発者にも相応のリスクはあるが、当人が退職の意思を固めているなど、「捨てるものがない」状態になった場合、「一矢報いる」ためにSNSで告発しようという気持ちが湧き上がる。企業内に通報窓口がない、あったとしても「どうせ問題は揉み消される」と社員が絶望しているような企業では、SNSからの告発を止めることは困難だ。

SNSのリスクに向けて企業が取るべき対策

ポイントは「ルール」「環境」「教育」「組織」

以上、企業におけるSNSのリスクを紹介したが、言うまでもなくSNSは「道具」であり、問題が生じるとすれば原因はそれを使う人間にある。従って、発信する「人」にいかに働きかけるかがSNSのリスクを最小化するために重要な観点であることは間違いない。その対策は、「ルール」「環境」「教育」「組織」に集約される。

1.ルール

先述のリスク対策の専門会社によると、ここ数年でSNSの利用に関する社内規定を整備する企業が急増しているという。内容としては、社内、勤務時間内のSNS利用を禁止、もしくは利用するとしても職務上知り得た情報を投稿してはならないといったものが多いそうだ。あるいは、ルールほど厳しくはない「SNSの正しい利用方法」のガイドラインを策定する企業もある。某社のガイドラインの条文は、「他人を誹謗中傷することのないよう」「相手の立場に立って」といった発信内容に言及しつつ、「一度発信してしまった内容は元に戻せない」「一人の軽率な発言が会社全体の信用を損なう」といったリスクを知らしめるものとなっている。
勤務時間外の個人のSNS利用まで企業が管理することはできない。ならば、どうあるべきかの方向を示しておくことは重要と言えるだろう。

2.環境

イタズラ動画をSNSに投稿される被害にあった飲食店は、卓上の共用の食品や調味料を撤去し、客が来店するたびに店員がテーブルまで運ぶ形式に変えた。監視カメラの強化をはかる企業もある。迷惑行為そのものを止めることはできないが、迷惑行為を実行しにくい環境を整備しているのである。
環境という観点は、企業においても重要である。例えば業務用のPCやスマートフォンからSNSにアクセスできないように設定してある企業がある。あるいは、SNSにアクセスはできるものの、社員が何というサイトに何分アクセスしていたか、どのような記事を閲覧したか等のデータを管理している企業もある。ここまでされると、もう職場からSNSを利用しようという気にならないのではないか。もちろん管理手法には賛否があるであろうが、一つの参考例ではある。

3.教育

ルールを策定してもガイドラインを与えても、それを社員が理解していなければ企業のリスクは小さくならない。このような考えから、社員研修にSNSに関するプログラムを導入する企業が増えている。再度リスク対策の専門会社にご登場願うと、SNS研修のプログラムは、個人のSNS利用が間違っていないかの相互チェックや、問題が起こったことを想定してどう対処するべきか話し合うワークショップなどがあるそうだ。
公式アカウントの担当者に対する教育は一段高度なものが必要であろう。SNSのリスクを理解するのはもちろん、具体的に「ふさわしい表現」「共感を得られる話題の選択」「好感度の高いコメントへの返信」等を体得する必要があるからだ。

4.組織

ここまで紹介した対策はいずれもSNSによるトラブルを回避するための「予防」的なものだ。しかし、それでもリスクはゼロにはならない。ならば、企業として問題発生時の対応を組織として整備しておく必要がある。

具体的には、SNSの担当部署を決めておくことが基本だ。問題が発生すれば、SNSの運営企業に対して悪意ある投稿の削除申請をしたり、場合によっては弁護士と連携する可能性もある。それらの手続きに精通した社員が在籍していることが理想であろう。また、迅速な対応が求められるので、担当部署を社長直下としている企業もある。さらには、火事の避難訓練と同様に、SNSの「炎上」の対策訓練もまた定期的に行うべきではないだろうか。

外部の専門会社との連携も有効だ。SNSを24時間監視して、契約者に対するネガティブな情報が投稿されていれば、すぐに連絡を飛ばす企業もある。SNSによる悪評の拡散は、初期段階ならばある程度は食い止めることが可能だ。そのためには、できる限り早く悪評をキャッチして対策を講じなければならない。このような課題は、専用のシステムを持つ専門会社を活用することで解決できる。

◆ ◆ ◆

今や、全ての企業はSNSのリスクから逃れられない。冒頭に紹介した回転寿司の『スシロー』の運営会社は、イタズラ動画の投稿と連動して株価が下落し、一時的に企業価値が170億円低下したという。もはやSNSリスクは経営課題として対処するべき時代なのだ。経営者自らがSNSから起こり得る自社の不利益を理解し、適切な予防施策を講じることを忘れてはならない。「当社はSNSはやらないから大丈夫」ではないのだ。

SNSは敵にも味方にもなる。常に味方ではないし、常に敵でもない。願わくば、多くの人や企業に幸福をもたらす存在であって欲しいが、現実は甘くはない。

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