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LGBTQと職場環境 〜誰もが活躍できる社会を目指して〜

「多様な人材を積極的に雇用し、活躍を促進する」──ダイバーシティを企業が推進する中で、人種・国籍・障がいと同様によく耳にするようになった「LGBTQ」。性的マイノリティのうち、特定の人々を頭文字で表した言葉だ。また、それだけにとどまらない多様な性があることから「LGBTQ+」と表現されることもある。まだ認知が進んでいないこともあって、性的マイノリティの人々は、働く時も色々な困難を抱えている。本稿で少しでも「LGBTQ」について知ってもらい、何かのお役に立てれば幸いだ。

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マスターズ2021年6月号

性的マイノリティの人はあなたの身近にも必ずいる

LGBTQとは、レズビアン(女性に性的あるいは恋愛感情を抱く女性)、ゲイ(男性に性愛感情を抱く男性)、バイセクシュアル(男女どちらにも性愛感情を抱く両性愛者)、トランスジェンダー(生まれた時の性別と自認する性別が一致しない人)、クエスチョニング(自分自身のセクシュアリティを決められない、分からない、または決めない人)など、性的マイノリティを表す総称のひとつだ。企業のダイバーシティ推進に伴い、よく聞くようになった言葉であるが、「自分の周りにはいない、関係ない」と思う人もいるだろう。

2106MA特集-LGBTQと職場環境(図1)

実際に、株式会社LGBT総合研究所が公表した「LGBT意識行動調査2019」(全国20~69歳の個人、有効回答者数34万7,816名)の調査の結果では、周囲に性的マイノリティがいないと回答した人は、83.9%にも上った。ただ、「電通ダイバーシティ・ラボ」の「LGBTQ+調査2020」によると、「LGBTQ+」の割合は8.9%に上るという結果が出ている。これは、30人のクラスでは2~3人、日本人に多い苗字である「佐藤・鈴木・高橋・田中」を足した割合が、全人口の5%ほどであることから、比較的その割合は多いことが分かる。性的マイノリティに関する調査は多く実施されており、各調査の結果にバラつきが多いことから、これらの数字を鵜呑みにしてはいけないが、それでも、あなたの周りにも必ず、性的マイノリティは存在している。

カミングアウトを考える

なぜ、性的マイノリティは一定数いるのに、周りにいないと答える人が多いのだろうか。それは、セクシュアリティを抱えている多くの人が、「カミングアウト(性的指向を打ち明けること)」していない、ということが考えられる。つまり「存在していない」のではなく「言っていない」だけなのだ。
先に述べた「LGBT意識行動調査2019」でも、誰にもカミングアウトしていない当事者は78.8%で、40%がする必要がないと回答している。

一方で「生活や仕事に支障がなければ、カミングアウトしたい」と回答した人は、25.7%に上った。そこからも分かるように、カミングアウトに関する考え方は人それぞれで、自身の置かれた環境やカミングアウトする「メリット・デメリット」を踏まえた上で、言うか言わないかを判断しているようだ。そのようにカミングアウトを損得勘定のように考えてはいけないが、自分の大切なものを守るためにも、カミングアウトすることで、社会生活や人間関係にどのような影響を与えるのか、よく知っておく必要がある。

2106MA特集-LGBTQと職場環境(図2)

アウティングを考える

2015年にセクシュアリティを巡って、ある出来事があった。大学院に通うゲイの学生が、同級の異性愛者の男性に対して恋愛感情を告白。その後、異性愛者の男性は、ゲイの学生の言動に戸惑い、友人にグループメッセージで、その学生が同性愛者であることをアウティング(本人の了解を得ずに、性的指向などの秘密を暴露すること)した。
そのことにゲイの学生はショックを受け、心身に変調をきたし、自死を選んだという痛ましい事件だ。本件に関して「ただの失恋」や「心持ちが弱い」など、世間から色んな意見が出たが、何よりも性的指向をアウティングすることは、プライバシーの権利の侵害や名誉毀損にあたる可能性がある行為だと、まずは認識してほしい。その上で筆者が言いたいのは、性的マイノリティに対する理解が、社会全体を通して未だ浸透していないということだ。

未だ残る差別や偏見

かつて「同性愛」は異常であり、病気であるとされていた事実をご存じだろうか。現在は、WHO(世界保健機関)や米国精神医学会、日本精神神経学会などが同性愛を「異常」「倒錯」「精神疾患」とはみなさず、治療の対象から除外している。また、文部科学省も1994年に指導書の「性非行」の項目から同性愛を除外し、異性愛が当たり前ではないと認めたことが分かる。しかしながら、現実には差別や偏見がまだまだ残っている。
ある調査では「仲の良い友人から『同性愛者』であることを告げられたとしたら(カミングアウトされたとしたら)、どのような気持ちになると思いますか」という質問(複数選択)において、6割を超える人が「理解したい」、4割程度の人が「言ってくれて嬉しい」と回答した。

一方で、2割程度の人が「聞かなかったことにしたい」や、1割半近くの人々が「気持ち悪い」と回答した。傾向でいうと、女性や若い回答者に肯定的な反応が多く、男性や高齢者に否定的な反応が多くみられた。これらの結果から、学校で性的マイノリティの教育が進んでいることや、LGBTに関するメディアが増えていること、さらに身近に同性愛者がいることなど、性的マイノリティに触れる機会が多い女性や若い世代は比較的寛容であることが分かる。それでも一部で、拒否反応を起こす人がまだまだいるのも事実だ。

ダイバーシティ経営の推進

近年日本では、ダイバーシティ経営が推進されている。経済産業省が掲げる定義には「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とある。ここでいう多様(ダイバーシティ)とは、人種や国籍、障がいの有無、宗教だけでなく、性的指向や働き方などの多様さも含まれており、実際に取り組みを進める企業が増加している。ただ、ダイバーシティ経営が進んでいるとはいっても、まだまだ性的マイノリティにとって働くには多くの障壁が存在する。ただ、解決しようにも性的マイノリティに対する認識が低いままであると根本的な解決にはつながらない。そこで、働く上でどんな課題があるのか、次で触れていきたい。

LGBTQを取り巻く職場環境

まずは、施設面から述べていきたい。よく問題として挙がるのは「トイレ」だ。多くの職場では、「男性トイレ」と「女性トイレ」しかなく、多目的トイレすらないところも多くある。どちらのトイレにも個室があるし、それを利用してはどうかという意見もあるが、問題はそこではなく「他人の目が気になる」という点にある。特にこれは、見た目の性と性自認が不一致なトランスジェンダーにとっては、意図せず周りにセクシュアリティを知られることにもつながりかねない、深刻な課題だ。

他にも、更衣室なども同様の問題をはらんでいる。次は、社内ルールについて触れていきたい。たとえば、女性の制服に関してだが、スカートにヒールを履くことがルールとされている会社はまだ存在している。また、社内の行事などで「男」「女」という分け方をされ、時には特定の格好(上半身裸になるなど)を強いられる場合もある。これらは、たとえルールであっても、性別に違和を感じている人にとって、苦痛であることに間違いない。

最後に、同僚や先輩社員からの言動についても話しておきたい。よく「彼氏(彼女)いないのか?」や「男っぽい(女っぽい)な」などの会話を耳にすることがあるだろう。ただ、性的マイノリティにとっては、男なら(女なら)当然◯◯であるべきといった固定観念は、生きづらさにつながるため、控えるべきだ。会社の都合により、中々実現できないこともあるだろうが、自身の言動を改めることはできるはずだ。一人ひとりが、人間には多様な性のかたちがあることを理解するだけで、性的マイノリティにとっての働きやすさは大きく向上する。

「PRIDE 指標」

各企業のLGBTに関する取り組みを評価するための指標が、日本でも作られつつある。その中でも、代表的なものとしては、任意団体work with Prideの「PRIDE指標」が挙げられる。指標は、「行動宣言」「当事者コミュニティ」「啓発活動」「人事制度・プログラム」「社会貢献・渉外活動」の5つから構成されており、各指標、定められた項目をクリアすれば1点で、全ての指標をクリアすれば5点となり「ゴールド」として表彰される。
4点はシルバー、3点はブロンズとして表彰され、ゴールド認定を受けた企業は、「PRIDE指標2020」で応募企業の79%にも上った。この取り組みは、2016年から始まったが、初年度の受賞企業のうち、LGBT関連の取り組みを止めてしまう場合もあった。

継続することに意味があるため、その企業に関しては、受賞が目的だったと解釈せざるを得ない。そのため団体は、制度の信頼性を高めるために、また性的マイノリティにとって働きやすい環境を目指すべく、課題の見直しを繰り返し、年々制度を改善している。そして現在、応募受付中の「PRIDE指標2021」においては、加点方式を厳格化し、より積極的な取り組みが認められる企業においては「レインボー」という賞が認められることになった。各企業のLGBT関連の取り組みは、間違いなく広がっている。たとえ、受賞が目的であったとしても「PRIDE指標」が行われるだけでも意義があるため、今後も各企業・団体の動向に注目していきたい。

※※※

筆者は、性的マイノリティの当事者であるが、本稿を書かせてもらえるほど、働く職場は寛容である。最初は、カミングアウトするかも悩んだが、「LGBT」に関する映画やニュースが増えたことから、自分の文章の幅を広げるためにも、カミングアウトを決断した。正直、同僚たちは私の存在をどう捉えているかは分からない。中には良く思っていない人もいるかもしれない。それでも、たとえそうであっても、私のセクシュアリティを「否定」されたことはない。

何度も引き合いに出して申し訳ないが、「LGBT意識行動調査2019」によると、職場でカミングアウトしている人は、3%だという。必ずしもカミングアウトすることが正しいとは限らない。ただ、私が言いたいのは、カミングアウトされた時に「否定しないでほしい、拒絶しないでほしい」ということだ。

企業は、多様な人材の活躍を後押しすべく、従業員に性的マイノリティを公表されても、されなくても、働きやすい環境を整える必要があるはずだ。私は、この恵まれた環境に感謝しつつ、性的マイノリティでも、自分らしく働ける場所が、これから先1カ所でも多く増えることを願ってやまない。

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