人気高まるオトナ留学のすすめ マルチステージ時代を生きる

タレントが芸能活動を休止して海外留学── そんな話題が目につく昨今。学生のものというイメージが根強い海外留学だが、学生だけの特権ではない。学生のそれとはまた違った目的や魅力がある。同時に、社会人だからこそ陥る失敗も。昨今の“オトナ留学”とは── 。

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マスターズ2021年10月号

学生時代とは異なる目的 増えている社会人留学とは

学生時代、英語に高い関心を持っていた人や、在学する学校に交換留学制度があった人は、一度は留学について考えてことがあるのではないだろうか。多くの場合、英語の習得や、異なる文化的背景を持つ学生同士の交流を通じて国際感覚を養うことが目的だ。
ちなみに著者は、日本の大学へは進学せず、アメリカの短大でESL(English as a Second Language:英語以外を母国語とする人たちのための英語)を2年間勉強した後、4年生大学の3年生に編入学、卒業した。高校はキリスト教系で交換留学制度を設けていたが、在学中は目もくれず。卒業後、英語力を上げて将来の仕事に活かしたいというのは後付けで、環境を変えたいという理由で留学を決意した。アメリカの大学時代を振り返ると、特に4年生大学へ編入学してからの2年間は人生で一番勉強した。私が専攻した学部には日本人が2人しかおらず、つまり母国語ではない言語で学ぶにはハードルの高い学部だったのもあり、必死に食らいついた。
勉強中心の大学生活。目的は当然、専攻分野の知識を得ることだ。一言で言えば、日本の大学でも学べた学問を、海外という環境下で学んだ4年。教室に日本人は自分一人という環境で、怯まず立ち居振る舞い、周りと関係を構築したか。そこには、勉強以上の価値があったように思う。英語力は自然と伸び、就職に有利とされるTOEICのスコアは獲得したが、英語力が求められる職業を希望していたわけではないため、さほど、いや全く活かせなかった。しかし、現地での学生生活を経て得たものは多く、現在の自分を形作っているのはまぎれもなくあの4年間だ。社会人となって久しい今、もしもまた海外へ留学するとしたら─ 目的は、何になるだろうか。
社会人が留学する目的は以下の通りに大別されるだろう。専門分野を学び、技術力を上げてキャリアアップやキャリアチェンジにつなげる「キャリア直結型」、海外で就労体験を得る「実践型」、趣味などのいわるゆ自分磨きにつながる分野を学んだり、異文化を体験することを目的とする「エンジョイ・リフレッシュ型」だ。学生時代の留学と異なり、学びの幅は格段に増え、自由度の高い留学が可能となる。

皆、何を学びに海外へ?社会人留学の目的、学べる内容とは

海外留学と言えば英語習得に結びつけがちだが、自由度が高く、より具体的な目的を持って留学できるのが社会人留学。幾つか、例を上挙げる。

ホスピタリティ・ツーリズム系
ホテル・旅行・飲食業界で働く上で必要な接客英語や接客実務を学ぶ業務スキルと接客力を習得することができ、たとえばカフェ文化の色濃いオーストラリア・メルボルンで英語+バリスタコースで学ぶ。

フード・料理系
料理基礎・製菓・ワイン・お酒・パン・コーヒーバリスタなど技術を学ぶ内容や、料理法&ビジネス・栄養学・ホスピタリティなど料理を取り巻く業務を学ぶコースまで多種多様。たとえば、イタリアでワインやオリーブオイルソムリエの資格取得を目指したり、ドイツのパン職人のもとで本格的なパン作りインターンシップを体験できたりといったコースが人気だ。

メディア・映画・映像系
ハリウッドにて語学+フィルムメイキングを体験、ニューヨーク大学(NYU)にて映画・メディアコースを受講、ロンドンの名門芸大で語学+グラフィックデザイン、コミュニケーションを学ぶ、特に映画・映像に関わるコースは映画好きは興味をそそられるコースがある。

法律・国際関係・行政系
将来的に国際協力団体や国際NGO・NPOなどでの活動を視野に入れて、国際関係学や国際経済学などを学ぶ。

芸術・デザイン系
商業・デジタル・ウェブ・インテリア・ファッション・デジタルゲームデザイン、絵画、造形、彫刻などを学ぶ留学も、海外の作品にふれることでセンスが磨かれると人気だ。ロンドンの名門大学にて語学+アート&デザインを学ぶコースや、イタリア(フィレンツエ)で美術史を学ぶコース、ニューヨークの名門芸大で英語+アートデザイン学ぶコースなどが人気。

自然・環境系
ニュージーランドに滞在し、ファームステイをしながら農業・酪農を体験したり、カナダにて動物保護ボランティアや自然環境保護ボランティアに参加したりできるコースがある。「自然」、「環境保全」、「農業」、「動物」をキーワードとした学びや体験を希望する方にお勧めだ。大学にて、自然・環境に関わる勉強及び研究をすることも可能。

言語・教育系
「幼児教育」や「教育学」「心理学」を学ぶことのできる留学方法があり、「幼児教育」は、主にカナダやオーストラリアが先進国となっており、海外ならではの自主性を重んじる教育を学べることでも定評がある。学びのみでなく、インターンシップ(実習)や幼稚園ボランティアを手配することも可能だ。

「やりたいことから考える」。それが、社会人の留学の醍醐味だと言えよう。また、研修生という位置づけのもと一定期間、企業内で実務(若しくはそれに相応するもの)を体験する海外インターンシップも人気のプログラム。現在では多くの日本企業も就職前の学生向けインターンシップ制度を採用しており、就職した後のミスマッチ対策や学生若しくは若年層社会人が新しい環境で職場体験をすることによる自身の適正確認、視野拡大に役立てられているが、日本のインターンシップと海外のそれとは異なる。
日本では「体験型インターンシップ」が多いが、海外では「参加型インターンシップ」が主流。実際に企業の事務アシスタントを任せられることや、英語力が認められれば接客を一部任されたり、ミーティングに参加させてもらえることもある。より実践に近い。

自由度が高い一方、注意点も。社会人留学だからこそ陥る失敗

社会人留学を経験した人が陥る失敗、それは帰国後、思わぬ困難に直面することだ。まず、社会人になってからの留学には、今まで積み重ねてきたキャリアを一旦離れなければならないというリスクが伴い。戻る場所のある学生時代の留学と異なり、帰国後、戻る場所は用意されていないことがほとんどだからだ。次に、帰国後のキャリアアップを目標としているなら、その目標を明確にし、具体的な専門分野を学ぶこと。
そうした意味で難しいのは、語学留学。もしも現地で培った英語力を武器に外資系企業や貿易商社への転職でキャリアアップを目指すなら、非常に高い英語力が求められる。留学を経てTOEIC800点を獲得したとして、周りの友人たちと比べたらハイスコアでも、この程度の英語力で国際関係の仕事に就くのは難しい。つまり、グローバル社会と言われて久しい現代、英語力を武器にするにはハードルが高いことを肝に銘じておかなければならない。英語を話せることが決して特別ではなくなった現代、語学力の向上を目的とした海外留学は、それが英語である場合は特に、相当高いレベルを達成する必要がある。
また、転職時の面接では「具体的な経験」について、より厳しい目で見られる傾向がある。海外経験であれば、履歴書にあるビザの種類も重要事項。学校に通いながらアルバイトやボランティア活動を行うワーキングホリデーを経験しただけでは、有効なアピールにならない。ワーキングホリデーは、学業と仕事を同時に体験できるプログラムとして人気だが、ホリデー=休暇の要素が強いため、実際に何を経験したのかが重要となる。また、日本と海外双方の文化の違いに順応できるようになるなど、海外生活を経験することには価値があるが、海外の感覚に慣れてしまうあまり、日本の社会に復帰した際に周りに社風に馴染めないなど日本社会に適合できないという思わぬ点で苦労する人もいるという。
せっかく海外留学までしたのに、キャリアアップどころか、留学のためにキャリアを中断したことが裏目に出る。そんなケースもある。こうした失敗を踏まえて言えることは、「留学に行けばなんとかなる」という思考を捨てることだ。社会勉強として許される若者や学生と違い、社会人の留学は効率も大切。そのために欠かせないのは明確な目的や目標だ。

「人生100年時代はマルチステージ時代」 学び直しを望む人が増える

昨今、タレントが芸能活動を休止して海外へ留学する話題を目にすることが多い。周囲の反応は、挑戦を応援するものなど様々だ。「留学に行ってみたい気持ちはあるけど、現実的に仕事を休んでは行けない」。現実的に考えると、そんなふうに感じる人が多いのだろう。第一線で仕事をしている大人が一定期間、仕事を離れて海外に留学へ行くのは一般の社会人にとってどんな意味があるのか。仕事を続けていく中で、「一度、リセットしたい」と思うタイミングは誰しもあるのではないか。
ただ、仕事の都合や家庭の事情などにより、留学を検討すらできる状況にないという人がほとんどだろう。一方で、社会人の留学がこれだけ話題になっているのは、共感できると感じている人が多いことの裏返しでもある。大人だから気づくことのできるプライベートを大切にするライフスタイルを手に入れたい。そうした想いを持ちながら日常に追われる。こうした人が選ぶとしたら、前述した「リフレッシュ型」の留学だろうか。著者は、海外の大学への留学だったが、最大の目的は環境を変えることだったため「リフレッシュ型」に当たるだろう。
そこに、学びをプラスすることで、留学は大きな意味を持つことになる。中学や高校生活が3年で終わる学生時代と違って、社会人になると「区切り」は自然にやってこない。自分でつくるしかなく、思い切って環境を変えてみることが長い人生においては大きな価値をもたらすこともあるだろう。海外留学は、そういう意味では環境が変わるだけでなく、周囲の人間関係や文化までもガラッと変わるので、より効果が得やすい。
「人生100年時代」と言われる現代。「教育」「雇用」「退職後」という一般的な3つのステージの人生モデルから、マルチステージのモデルに変わりつつある。社会に出て働くことを経験したからこそ、学び直したいという考えが生まれることもある。仕事に携わる中で、さらなる知識やスキルの習得が今後のキャリアに有効だと気づくことは誰しもある。
2020年に文部科学省が行った「リカレント教育の取組について」内のアンケート結果によると、学校を出て一度社会人となった後に、大学や大学院、短大、専門学校などの学校において学習したいと考える人は、30代ではその割合が50%を超えた。誰もがいくつになっても学び直し、活躍することができる社会の実現に向けて、長期の教育訓練休暇制度を導入した企業への助成など、学び直しに投資する環境の整備や転職が不利にならない柔軟な労働市場や企業慣行の確立が今後は進むだろう。

学生と社会人の大きな差は、社会をすでに経験したことにより、自身のキャリアの方向性を真剣に検討できる能力を身につけていることだ。社会人経験を通して、仕事で成し遂げたいことや目指したいポジションが見えているからこそ、海外留学で学ぶべき内容を具体的に絞り込める。
または、現在身を置いている業界からの転向を目指して、大幅なキャリアチェンジのための海外留学もある。社会人だからこそ経験するべき海外留学のメリットは多い。これからの時代、ますます需要は高まるだろう。大切なのは、目標設定、帰国後の自分のキャリアを明確にすることだ。
それが、社会人留学を有意義なものにする最大の要因と言える。それを踏まえて、「学び直し」への挑戦をお勧めしたい。

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