グローバル社会における重国籍問題を知る

2016年、当時の民進党代表の蓮舫氏が日本と台湾の二重国籍を有するとして話題になったのを覚えている人は多いだろう。日本の国籍法では重国籍を原則として認めていないこともあって問題となり、二重国籍についてネガティブなイメージを持つ人が増えた。下手をすれば「二重国籍を持つこと=犯罪」くらいのイメージを抱く人も多いのではないか。だが、「重国籍を認めていない」としながら、実際には二重国籍が事実上許容されている現状がある。どういうことなのか? そもそも国籍ってどうやって決まる?── 知っているようで知らない国籍問題について、理解を深めたい。

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マスターズ2022年2月号

そもそも「国籍」って何だ?

日本人の両親のもと日本で生まれ育った場合、何の疑問も抱かず日本国籍として育つことが大半だろう。「どうやって国籍が決まるのか」「国籍の選択を迫られるのはどんな場合なのか」、そんなことを改めて考える機会も少ない。
そもそも国籍とは、「個人が特定の国家の構成員とされるための資格」で、国籍を持つ人を一般に“国民”と呼ぶ。重国籍が望ましくない理由としては、「複数の国から兵役義務等の国民としての義務の履行が求められる」「国籍のある国の間で外交保護権が衝突する」「複数国の旅券の取得が可能になって出入国管理上の問題が生じる」などが挙げられる。
だが国際法上は、誰が自国民であるかは国ごとの国籍法によって独自に決定できるため、他国がこれに干渉することはできない。例えばSさんに日本国籍があるかどうかは日本の国籍法、A国籍があるかどうかはA国の国籍法によるといった具合。個人の国籍が一つになるように日本と外国との間で調整する制度はない。そのため、正確な数こそ把握されていないものの、日本国籍と外国国籍をもつ重国籍者は40万〜50万人、あるいはそれ以上とも言われる。

2202MA特集-グローバル社会における重国籍問題を知る(図1)

「血統主義」による国籍の付与

国籍取得についての考え方は国によって異なるが、「出生地主義」と「血統主義」に大きく分けることができる。「血統主義」とは、生まれた国に関係なく、父母から受け継いだ血縁関係により国籍を取得するという考え方で、日本はこの血統主義を採用している国だ。例えば、たまたま日本に滞在していたB国の妊婦さんが、滞在中に日本で出産したとする。この場合、生まれてきた赤ちゃんの国籍はどこになるか? おそらく、日本人の感覚だとほとんどの人が「たまたま生まれてきたのが日本だっただけで、親はB国人なんだからB国籍だ」と考えるだろう。このような考えのもとで国籍が決まるのが「血統主義」で、この血統主義は大きく1:「父系優先血統主義」と2:「父母両系血統主義」の2つに分けることができる。

1:父系優先血統主義
父親の血統を優先するもので、父親の国籍のみをその子どもが受け継ぐ。以前は日本や韓国も父系優先血統主義だったが、現在は両国とも父母両系血統主義(後述の②)を採用。(父系優先血統主義の採用国:インドネシア、スリランカ、イラク、イランなど)

2:父母両系血統主義
父または母のいずれかがその国の国籍であれば、子どももその国籍を取得するという考え方。日本はこの主義を国籍法に採用。(父母両系血統主義の採用国:日本、韓国、中国、タイ、フィリピン、インド、ドイツ、フランスなど)

「出生地主義」による国籍の付与

一方で「出生地主義」とは、両親の国籍に関係なく生まれた国の国籍を取得できるとする考え方だ。私(筆者)の両親は日本人だが、もし母が妊娠中に出生地主義を採用しているアメリカに旅行に行ってそこで私を生んでいたら、私にはアメリカ国籍が与えられた、というわけだ。(出生地主義を採用している国…アメリカ、カナダ、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ、エクアドルetc.)。
日本人の感覚からすると「そんなのありかよ!?」という感じだが、出生地主義を採用している国々は南北アメリカ大陸、つまり「新大陸」の国々ばかり。南北アメリカ大陸の旧植民地が独立する際に、人口を増加させ発展するために国内で生まれた新生児には自国の国籍を付与する、ということから出生地主義の考えが浸透した歴史的背景があるとされる。このように、国籍についての法律は国によって違う。
ここまでで疑問に思った人もあるかと思うが、先の例えのように、もし日本人の両親(血統)を持つ私がアメリカで生まれていたら(出生)、どうなるのか? そう、二重国籍になり得る。アメリカで生まれれば無条件でアメリカ国籍が付与されアメリカ国民となる。同時に、血統主義の日本国民の子として生まれた以上は日本国籍も取得することになる、というわけだ。(なお、出生した日を含めて出生の日から3ヶ月以内に届出されない場合は日本国籍を失うことになる。この例で二重国籍となるのは通常通り手続きを行った場合。)

国籍の選択を迫られるケース

重国籍で育った場合も、日本の国籍法では一定の期限までにいずれかの国籍を選択する必要があると定められている。この期限については以下の2通り。

1:20歳に達する以前に重国籍となった場合→22歳に達するまで
2:20歳に達した後に重国籍となった場合→重国籍となった時から2年以内

現状はこの通りだが、成年年齢の引き下げなどの民法改正を受けて、2022年4月1日から国籍の選択期限は以下に変更されることが決定している。

1:18歳に達する以前に重国籍となった場合→20歳に達するまで
2:18歳に達した後に重国籍となった場合→重国籍となった時から2年以内

また、重国籍となって国籍の選択をしなければならない可能性がある例には、以下のようなものがある。

1:日本国民である母と父系優先血統主義を採る国の国籍を有する父との間に生まれた子(例:生まれた時に、母が日本国籍、父がクウェート国籍の子)
2:日本国民である父または母と父母両系血統主義を採る国の国籍を有する母または父との間に生まれた子(例:生まれた時に、父(又は母)が日本国籍、母(又は父)が韓国国籍の子)
3:日本国民である父または母(あるいは父母)の子として、出生地主義を採る国で生まれた子(例:生まれた時に、父母が日本国籍であり、かつ、アメリカ、カナダ、ブラジル、ペルーの領土内で生まれた子)
4:外国人父からの認知、外国人との養子縁組、外国人との婚姻などによって外国の国籍を取得した日本国民(例:生まれた時に母が日本国籍で、カナダ国籍の父から認知された子)
5:国籍取得の届出によって日本の国籍を取得した後も引き続き従前の外国の国籍を保有している人

2202MA特集-グローバル社会における重国籍問題を知る(図2)

国籍の選択方法

重国籍者が期限までに日本国籍を選択することを決めたとして、2通りの方法がある。

1:外国の国籍を離脱する方法

当該外国の法令により離脱手続きを行い、離脱証明の書類を添付して市町村役場または日本の大使館・領事館に、「外国国籍喪失届」を提出する。外国国籍を離脱することで、日本国籍だけを残すというパターンだ。

2:日本の国籍の選択を宣言する方法

市区町村役場または日本の大使館・領事館に、日本の国籍を選択し外国国籍を放棄する旨の「国籍選択届」を提出する。
実はこの2がややこしい。日本国籍の選択宣言をすることによって、「国籍法第14条第1項」の「国籍選択義務」は履行したことになるが、外国の国籍を自動的に喪失するかについては話が別。当該外国の国籍法によって決まるので、かならずしも重国籍が解消されるとは限らない。自動的に外国国籍を喪失しない時は、宣言した人は改めて国籍離脱の手続きをする必要がある。しかし国によっては国籍の離脱が困難な場合があることに配慮し、宣言した人に対して外国国籍の離脱を強制せず、「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない(国籍法第16条1項)」と努力義務を課すにとどめている。
上記の「国によっては国籍の離脱が困難」の例として、ブラジルがある。一度ブラジル国籍を取得した人がブラジル国籍を離脱することは、基本的には認められていない。出生によって日本とブラジルの両方の国籍を得た人は、22歳までに日本国籍を選択したとしてもブラジル国籍は残り続け、必然的に二重国籍の状態が維持されることになる。日本の法律が「一つの国籍」を求めても、現実的にそれが不可能なケースがあるのだ。
そのため、日本国籍の選択宣言をしたものの、外国国籍を喪失・離脱していないために、実際には重国籍のままというケースも少なくない。法務大臣から国籍選択の催告を受けた日から一月以内に日本国籍を選択しなければ、その期間が経過した時に日本国籍を喪失するとされるが(国籍法15条3項)、実際にはこのような催告は行われていないとか。そのため国籍選択をせずに重国籍を放置している人もいる。

自分の意思で外国籍を選ぶと日本国籍を喪失

外国籍を持つ人が日本で国籍を選択する場合には、グレーゾーンとも言える先述のような選択肢があるが、成人後に外国国籍を取得した日本人に対しては、厳しい対応が取られている。外国への帰化など自己の志望により外国国籍を取得すると、「自らの意思」と判断され、外国国籍を取得した時から日本国籍を喪失する。この場合には、本人に日本国籍を放棄する意思がなくても、自動的に日本国籍を喪失するのだ。
これについて、「違憲」だとしてスイスなど海外に移住した8人が国を相手取り、日本国籍を保有していることの確認などを求め訴訟した例がある。原告側はこの国籍法自体が、国籍を変更する自由や幸せに生きる権利を保障した憲法に違反していると訴えていた。海外で経営を進める上でスイス国籍が必要とされる場面があり、こうした問題にぶつかり提訴に至ったが、2021年1月21日、東京地裁が出した判決は「原告の請求を棄却する」というものだった。

グローバル化が進む中
国籍法を見直すべき時か

上記の訴訟のような結果を受け、国籍法を見直すべきという声も高まりつつある。もともと国籍法は、兵役義務などの観点から重国籍を認めてこなかった明治憲法下の内容に起因するとされる。かつての日本では兵役義務があり、現在のように海外への行き来も多くはなかった。一度海外に行ってしまえば日本に戻って来ないケースが多かったが、令和の今、明治時代の影響を受けて作られた法律を引きずることが合理的だと言えるだろうか。国としても国際人を育てようという流れがある中、海外で活躍する日本人の日本国籍を奪ってしまい、日本に帰って生活できない状況を作るのはマイナスではないか、という意見もある。
日本国籍を失った著名人も少なくなく、例えばノーベル賞受賞者ではイギリスのカズオ・イシグロ氏(文学賞)やアメリカの中村修二氏(物理学賞)、故・南部陽一郎氏(物理学賞)が、この国籍法の問題で日本国籍を有していない。グローバル人材も剥奪対象となり、彼らの実績も日本のものとしては数えられなくなる。世界的には、外国籍の取得後も従来の国籍保有を認める国の割合は増え続け、2020年には76%に達したという調査もある。在日外国人が増え続け、海外での活躍を志す日本人も増えていく流れがある中、重国籍に関する問題にぶつかる人は今後ますます増えるだろう。

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以前の蓮舫氏へのバッシングなどに鑑みても、重国籍に対してシビアな感想を抱く人は多い。しかし国籍法や昨今の国際的な状況を勉強した上で意見を述べている人が、どれほどいるのだろうか。メディアの報道が誤解を招く要因にもなっているのか、合理的な根拠に基づいたものではなく、「何となく法律違反っぽい感じがする」といった不確かな知識からくる感情論による意見が多いように思う。冷静な視点で正しい知識をつけ、現状の国籍法が時代に即したものなのか、今一度考え直す時ではないだろうか。

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