躍進を遂げる食品自動販売機──
衰退する“自販機大国”日本を救えるか

街中のいたるところで目にする自動販売機。日本の普及台数は人口や国土の面積比で世界一であり、“自販機大国”とも呼ばれている。しかし、2000年をピークにその数は減少し続けており、衰退の一途をたどっている現状がある。そんな自動販売機業界の救世主になりうる存在として、近年は食品の自動販売機が脚光を浴びている。コロナ禍で不況に苦しむ飲食業界が新たな販路として活用したり、SDGsの観点から有用性を見出す企業が出てきたりなど、活用の場が広がり続けている。本稿ではそんな食品自動販売機にスポットを当て、市場が拡大している要因や今後の可能性などを考える。

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マスターズ9月号

衰退の一途をたどる自動販売機事業
“自販機大国”日本の現状とは

日本が“自販機大国”の異名を持っていることはご存知だろうか。普及台数こそアメリカには及ばないものの、人口や国土の面積比では世界一。我々は普段、道端やオフィス、駅などに自動販売機がある中を当たり前のように歩いているが、世界的に見ると実はとても珍しい光景なのだ。しかし、その景色がいつか見られなくなる日が来るかも知れない。

『日本自動販売システム機械工業会』によると、国内の自動販売機の普及台数は、ピークだった2000年に560万台だったのに対し、10年後の2010年には40万台減って520万台になった。それからさらに10年経過した2020年には116万台が消え、404万台まで減少した。

自動販売機市場衰退の背景においては、人口の減少が最たる原因とされている。しかしながら、缶コーヒーがコンビニエンスストアでの「淹れたてコーヒー」に取って代わられたことや、ネットショッピング、宅配代行サービスの浸透によって時代が変化し、ライバルが増えたことも大きく関わっている。

自動販売機の新たなトレンド
“食品”を取り扱う企業が急増

そんな中、とある分野の自動販売機が増加傾向にあるという。それは、食品の自動販売機だ。2020年から2021年の1年で約2800台増加し、自動販売機全体としてのシェアはまだ少ないながらも堅調に数を増やしている。

このトレンドの大きな要因はやはりコロナウイルスだろう。コロナ禍で営業の停止や営業時間の短縮を余儀なくされ、大打撃を受けた飲食業界が、新たな販路の1つとして自動販売機に目をつけたのだ。非接触かつ人手をかけずに24時間商品を販売できるというメリットに、勝算を見込んだ企業が相次いで参入を果たした。

また、新たに食品販売事業に乗り出した異業種企業も現れた。というのも、自動販売機による無人販売事業は、コロナ禍における中小企業等の業態転換等を支援する、「事業再構築補助金」の対象となっており、その制度を活用して新規参入に踏み切った企業も少なくないのだという。 

高品質自動販売機が
コロナ禍の救世主として台頭

設置台数を急速に増やしている自動販売機の1つとして、今話題沸騰中なのが、『サンデン・リテールシステム』が製造および販売を手掛ける冷凍自動販売機の「ど冷えもん」だ。2019年から開発を進め、2021年1月に発売して以来、全国で導入が広がっている。設置が始まった2021年に緊急事態宣言が発令されたこともあり、当初の販売目標を超え、2022年3月末には全国で3,000台以上が設置されるまでになった。ど冷えもんが支持されている理由は、使い勝手の良さにある。幅の異なる4種類の収納棚を用意し、扱う商品の大きさに合わせて選択できる。複数の収納棚を組み合わせることで、1台の自動販売機の中で異なる大きさの商品を販売することも可能で、最大11種類、308個を収納できるという。また、販売状況や在庫確認を遠隔で行えて、電子マネーやQRコード決済にも対応。電源も家庭用100ボルト電源でよく、特別な工事は不要なため、新規参入のハードルも比較的低いと言えるだろう。

同自動販売機を導入し、実際に業績が上がったという企業は多い。長崎ちゃんぽん店を展開する『リンガーハット』は、2021年6月から大阪府堺市の店舗に設置し、自社ブランドの冷食のテスト販売を開始。2022年6月末では35店にまで自動販売機の設置店舗を拡大した。冷凍食品は店舗内でも販売しているが、同社は「店で売るよりも効果がある」としており、今後も設置を進める方針だ。また、内装工事業を手掛ける『Dプラン』は、2021年12月に「ど冷えもん」を9台並べた自動販売機ショップをオープンした。異業種企業ながら、販売している商品は宮崎牛、韓国料理などバラエティーに富む。初期費用は冷凍倉庫なども合わせて2,000万円ほどかかったが、売り上げは好調で、しっかり利益が出ているのだという。

コロナ禍で不況にあえぐ企業の救世主として、また、減少の一途をたどる自動販売機事業の救世主として、「ド冷えもん」のさらなる躍進に期待が高まるばかりだ。

全国各地で話題沸騰中
変わり種の自動販売機の数々

先述の「ド冷えもん」は、自動販売機自体の質の高さが評判を呼んで売上の向上に貢献した例である。その一方で、販売する商品のユニークさが話題を呼び、売上を伸ばしている企業も多い。

例えば、東京国際空港(羽田空港)の第1・第2旅客ターミナルを建設、管理・運営する『日本空港ビルデング』。同社が羽田空港内に設置した自動販売機では、世界の機内食の販売が行われている。同社の広報担当者は、「コロナ禍により海外旅行に行けない方に気分だけでも味わっていただきたい。また、高品質な機内食を味わっていただきたいとの思いから販売を始めた」のだという。販売されている商品は全5種類で、スペインのパエリア、タイのガパオライスなど、世界各国の代表的な料理が並ぶ。価格は980円(税込)と、自動販売機で購入するものとしては少々お高めだが、2022年6月に設置されて以来、本格的な機内食が家庭でも楽しめるとしてSNSなどで話題を呼んでいる。このように、コロナ禍で外食の機会が減ったことで、ちょっとした贅沢を味わえる高級志向の商品が増えているのも、近年の自動販売機の特徴だと言える。

京都市で仕出しやケータリングを行う『キッチンラボ』の店頭には、フランス料理の自動販売機「THE Chef’s Table」が設置されている。その珍しさにSNSで話題となり、瞬く間に人気を博した。サラダオードブル、鶏もも肉のポルチーニクリーム煮込み、牛ほほ肉の赤ワイン煮込み、スペアリブのバルサミコ煮込み、ドレッシングなども含めて20品目ほどが販売されており、本格的なフレンチが自宅で気軽に味わえるとして好評だ。

他にも、変わり種として注目を浴びているのが昆虫食の自動販売機。鹿児島県南さつま市のラーメン店『三四郎』では、素揚げしたコオロギやチョコバッタ、幼虫ミックスなどが購入できる自動販売機を導入した。栄養価が高く、海外では高級食材扱いされる昆虫食は、国内でもブームとなっており、売れ行きは順調だという。中でもサソリは人気が高く、設置して間もなく完売したのだとか。また、鳥取市の自動販売機ショップ『だでpon商店』でも、コガネムシやコオロギ、ワームなどをスナックにしたパッケージを販売しており、売り切れることもある。同ショップのオーナーである岸本さんは、鳥取市内で飲食店を経営しており、もともと2店目のオープンを考えていたという。しかし、人件費がネックとなり、代わりに着手したのが自動販売機事業。自動販売機は、人手不足や人件費が問題で事業を拡大したくてもできない企業の解決策として、大きな役割を果たしている。

利益を生み出すだけじゃない
自動販売機によるSDGsの実現性

ここまで事業の観点から食品自動販売機について触れてきたが、自動販売機はSDGsの実現という観点からも大きな可能性を秘めている。

実際、先ほど例に上げた昆虫食の販売もSDGsに密接に関わっている。昆虫食は、温室効果ガスの排出が少ないことや飼育するのに必要となる水と食料、農地が少ないことなどから、環境に優しい食糧とされており、『三四郎』では、人々のSDGsの理解を深める目的でも販売を行っているという。

また、茨城県筑西市の老舗和菓子店『館最中本舗 湖月庵』では、和菓子の自動販売機を設置し、売上の一部を『日本赤十字社』に寄付する活動を行っている。甘さを控えた自家製の餡が特徴の「館最中」をはじめ、黄味餡をホワイトチョコで包んだ「きぬのまゆ玉」、栗まんじゅうなどの人気商品を販売。同店によると、普段お店にはなかなか来ることがない若者が、自動販売機で和菓子を購入することもあるという。敷居が高いイメージのある和菓子店の商品を広い世代で気軽に楽しんでもらい事業の発展に繋げながら、社会貢献も行っているのだ。

さらに、富山県高岡市の『北陸コカ・コーラボトリング』は、フードロスを減らす目的で、同市内の企業が廃棄する可能性のある商品を、価格を下げて売る自動販売機を県内で展開。対象とする商品は、主にコンビニエンスストアなどでの限定商品のうち、販売が終了して在庫が溜まったものや、ラベルのデザインの変更で販売できなくなったものだという。

同様に、兵庫県姫路市の『播磨講師協会』は、同市内に賞味期限が迫った食品を取り扱う自動販売機を設置した。商品は、缶詰を中心に、インスタントラーメンやふりかけなど約10種類。価格はそれぞれ数百円程度で、主に廃棄予定品などを専門に扱うインターネットサイトから仕入れているのだとか。

SDGsへの取り組みが活発化し、深刻化する社会問題に様々な企業がアプローチを試みる昨今において、解決の糸口の1つとして食品の自動販売機が存在感を放っていることは明らかだ。

“自販機大国”として世界からも注目を浴びながら、その裏で自動販売機は街から消え続けており、衰退の一途をたどっている日本の自動販売機業界。そんな状況を打開しうる新たな希望の光として、食品の自動販売機は大きな期待を寄せられている。現状、食品の自動販売機の市場規模は全体の1割にも遠く及ばず、その影響力はまだまだ小さい。とはいえ、人手不足や食糧難、フードロスといった社会問題の解決策としても一翼を担っていることから、その有用性の高さや活用の場の幅広さは明らかであり、今後伸びていく可能性は十分に秘めていると言えるだろう。“自販機大国”日本を守っていく救世主としての食品自動販売機のこれからに期待したい。

SNSでバズったあの自動販売機で本格フレンチを実際に購入&実食!

都市内に拠点を置く『キッチンラボ』が手掛ける「THE Chef’s Table」は、SNS発信でいわゆるバズった自動販売機だ。「京都に本格フレンチの自販機がある」という写真付きツイートには2万RT、6.6万いいねを獲得(2022年7月時点)。その影響で多くの人々が商品を求めてつめかけ、一時は品薄状態になるほどの人気となった。2022年5月には同市内に2機目も設置され、その勢いは衰えることがない。

「自動販売機でフレンチのコースを」というコンセプトのもと展開されている「THE Chef’s Table」。段ごとに「日替わりシェフサラダ」「本日の前菜」「本日のメイン」の項目に分けられて商品が陳列されており、それぞれから一品ずつ好きなものを選ぶことで、オリジナルのフレンチコースを完成させることができるようになっている。販売商品の数々は京都の農家から直接仕入れた野菜を中心に旬の京都を感じられる食材を厳選し、一流シェフによって毎日全て手作りしているという。

こだわり抜かれて作られた料理の数々。一体どのような味なのだろうか。気になった筆者は実際に確かめるべく、自動販売機の設置場所を訪れた。今回はサラダとメインから一品ずつ購入したので、それぞれ紹介したい。

燻製香るスモーキーポテサラと旬野菜ミックス

1品目は、彩り豊かなたっぷりの野菜が入ったポテトサラダ。価格は550円(税込)。別添されたガーリックチップスとドレッシングを盛り付けの最後に上からかけて完成させる。野菜はシャキシャキでみずみずしく、新鮮そのもの。そしてほのかに燻製が香るポテトサラダは、マヨネーズの味付けが主張しすぎることなくバランスの良い上品な仕上がりに。じゃがいもは粗めに潰されており、一口食べるごとに違った食感が楽しめる。ボリュームも満点で満足度が高く、あっという間に完食。

仔羊のランプステーキグリル

2品目は、メインから仔羊のお肉料理をチョイス。価格は850円(税込)。一度マリネした仔羊を低温でじっくり火を通してからグリルするという手のこんだ一品だ。説明書きには40秒ほど温めるよう指示があったので、固くなってしまわないか不安になりつつ電子レンジにイン。程よく温まったお肉を恐る恐る口に運ぶと、その柔らかさと香りの高さに衝撃を受け思わずため息が漏れた。お肉の下に隠れた温野菜も甘みが強くて美味しく、こちらもボリューム満点。味、量共に完成度の高い一品だった。

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