Twitterのアイコン Facebookのアイコン はてなブログのアイコン

増える消滅集落 地方創生が解決の鍵に

今、日本の各地域で、住人が一人もおらず消滅する集落が増えている。日本が人口減少・超高齢社会に突入したことにより、今後さらに消滅集落が増えると予想される中、解決に寄与すると注目を集めているのが「地方創生」だ。本稿では消滅集落になる原因と増え続ける要因や、官民一体となって地方創生に取り組む動きについて取り上げる。

記事をpdfで見る(画像クリックで別ウィンドウ表示)

記事または映画評のサムネイル画像(A3用紙サイズ/横長)

マスターズ2023年3月号掲載

人が消え、集落が消える……「消滅集落」とは?

63,237──この数字が何だか分かるだろうか。これは2022年11月時点で、消滅しかけている日本の集落の数だ。この中には、あなたが知っていたり、行ったことがあったりする集落も含まれているかもしれない。消滅集落とは、かつて住人が存在していたが、転居や死亡などで住人の人口がゼロになった集落のこと。似た言葉で、「限界集落」は聞いたことがある人は多いと思う。こちらは集落に住人はいるが、人口が極端に少なく、人口比率の50%以上が65歳以上であり、地域としてうまく機能できていない状態にある集落のことを指す。すでに危機的状況のようだが、図1に示した集落段階では限界集落はステージ3、消滅集落が最終ステージであることからも、限界集落状態がより進んだ結果が消滅集落であることが分かるだろう。冒頭で紹介した消滅しかけている集落のうち、限界集落は約20,000。さらに共同体機能の維持が困難な集落は約2,600、そして今後10年以内に無人化すると言われている集落は400にも上ると見られている。

集落が消滅する3つの原因

そもそも、なぜ集落が消滅してしまうのだろうか。消滅集落になる原因は、主に3つあるとされている。まず1つ目は、“地形の問題”。消滅しかけている集落の多くは、山間地や離島に位置することが多い。そのためインフラ整備が不十分で、市役所や病院でさえ、車で20分以上かかる集落が目立つ。アクセスが悪く、生活が難しいために、住人が他の地域に移動してしまうことも多い。それが消滅集落を増やす2つ目の原因“都市部への人口移動”に繋がっている。近年、人々は駅やショッピングモールが近くにある場所など、利便性に富んだ土地に住みたいと望む傾向が強い。実際に、地方から都市部へと移り住んだ理由を調査したところ、「地方はインフラやサービスが不十分で生活が不自由だから」と答える人は多い。また、他の理由としては「(都市部に)希望する仕事があったため」「結婚のため」「進学のため」などが上位に上る。つまり、若年層の住人の流出が著しいのだ。それが消滅集落に陥る3つ目の原因“住人の高齢化”に拍車をかけている。消滅集落になりうる地域の高齢化は、全国的に見ても顕著に現れている。高齢化によって地域の商店の消滅や公共交通の撤退、医師の不足をはじめ、農地や山林の放置・担い手不足が起こる。そして荒廃が一層進むことで「住みたい」と思う人がさらに減り、集落の人口減少を加速させていくという、負の連鎖が起こっているのだ。

日本は人口減少・超高齢社会に突入
消滅集落はまだまだ増え続ける予想

消滅集落は今後さらに増えていくと言われている。その理由は、日本全体の人口が減少しているからだ。我が国の人口減少は2008年から始まったと言われており、2020年代初めまでは毎年60万人程度減少している。そして2040年代ごろには年間約100万人ずつの減少となり、今後、 加速度的に進んでいくことが予想されている。人口減少は第1段階(若年減少/老年増加)、第2段階(若年減少/老年維持・微減)、第3段階(若年減少/老年減少)と進行していく。現状、東京都区部などは第1段階だが、地方はすでに第2、第3段階に突入しているなど、地域によって状況が大きく異なっている。 地方は若い世代の東京圏への流出と、出生率の低下により、都市部に比べ数十年早く人口が減少している。地方の人口が減少し大都市への人材供給が枯渇すると、いずれ大都市も衰退する。このように人口減少は地方から始まり、都市部にも広がっていくのだ。

政府も取り組む地方創生が歯止めに

人口急減や超高齢化、都市部への人口流出による集落機能の低下を防ぐ手段の一つとして注目されているのが、地方創生だ。地方創生とは、都市と地方の経済の格差をなくし、日本全体の国力を高めることを目的とした政策のこと。長らく日本では、地方と都市部との経済格差が問題となっており、東京を中心とした都市部に企業や人が集まることで、地方からヒト・モノ・カネといったリソースが流出。後継者不足や産業の衰退など様々な問題を引き起こしてきた。そこで政府は2014年、地域が抱える様々な課題を解決し、地域活性化を果たすべく地方創生に関する取り組みをまとめた「まち・ひと・しごと創生法」を公布。後にこの内容を引き継いだのが「まち・ひと・しごと創生総合戦略」だ。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、下記の4つの基本目標と、2つの横断的目標を掲げている。

【地方創生の4つの基本目標】

◆稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする。

◆地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる。

◆結婚・出産・子育ての希望をかなえる。

◆ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる。

【地方創生の2つの横断的目標】

◆多様な人材の活躍を推進する。

◆新しい時代の流れを力にする。

毎年、まち・ひと・しごと創生に関する基本方針と総合戦略が更新される中で、最新の2021年版では「ヒューマン」「デジタル」「グリーン」の3つの視点に重点が置かれている。これら3つの詳細を紹介すると、「ヒューマン」は企業の本社移転の促進や地方移住など、地方への人の流れの創出や人材支援に着目した取り組み。「デジタル」は地域の課題解決や魅力向上の助けとなるDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組み。「グリーン」は地域資源を有効活用した再生可能エネルギーの導入や脱炭素化の推進により、地域経済の活性化及び課題解決を実現する取り組みだ。特に現在は、新型コロナウイルスの蔓延によって場所にとらわれないテレワークや地方移住といった新しいライフスタイルが注目されている。それに伴い、地方創生の取り組みには追い風が吹いていると言えるだろう。各地域でも、官民連携で様々な地方創生に関する取り組みが行われている。実例の一部を紹介するので、参考にしていただきたい。

個人や団体、企業に向けて施策・支援などを公開中

内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」では、一般の方をはじめ企業、NPO、地方公共団体それぞれに向けて、地方創生のための施策や受けられる支援などを紹介している。その一部をここに取り挙げると、一般の方向けには、移住情報の公開や、実際に地方移住をした人の体験談の公開、高校生のための地域留学支援・サポート、地方への移住と起業で最大300万円を受け取れる制度などを紹介している。また、企業に向けては、地域の優れた産品・サービスの販路を開拓することで地域の稼ぐ力を育む「地域商社」事業を支援する制度の紹介。その他、地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して企業が寄付を行った場合に、大幅な税制優遇を受けられる制度「企業版ふるさと納税」などを取り上げたりしている。

まだまだ多い地方創生の課題

近年盛り上がりを見せている地方創生だが、多くの課題が残っている。例えば、東京一極集中が是正されない問題。世界の他の国々の首都と比較しても、東京には圧倒的に人口が集中していると言われている。2014年に10.9万人だった東京圏への転入超過は2018年に13.6万人に。しかし、このコロナ禍でライフスタイルが変化し、テレワークや地方移住への関心が高まっていることから、一極集中が緩和されていると考える人は多いだろう。内閣府が2020年に行なった調査では、東京23区に住む20代のうち「地方移住に関心が高くなった」と回答した割合は11.8%。「地方移住に関心がやや高くなった」と回答した割合は23.6%という結果が出ている。しかし地方移住をポジティブに捉える人が増えただけであって、実際に移住した割合は少ないのが現状だ。そして移住先も関東圏が多いのだという。また、政府主導で取り組む地方創生が結果に結びついていないという問題もある。政府は2017年に1兆7,536億円、2018年には1兆7,877億円もの予算を、地方創生にかかわる様々な施策に投入している。しかし、地方経済で課題となっている人口減少や、東京一極集中による経済格差が改善されたとは言い難い。加えて、持続性のない取り組みも問題になっており、政府による補助金や助成金の交付だけでは地方経済を再生させることは難しいのが現状だ。地方経済が自走して利益を上げられる“持続可能な状態”になってこそ、初めて地方経済の活性に繋がる。地方はもちろん日本社会全体のためにも、地方創生のあり方を考え直すべき時がきている。

view more-特集企画の一覧へ-