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巧妙化する「闇バイト」の現状

 近年、SNSを中心に募集される「闇バイト」は、その危険性が広く認知されるようになった。しかし、犯罪組織は規制の網をかいくぐるように手口を絶えず巧妙化させている。行政や警察もまた、従来の注意喚起から一歩踏み込んだ対策と情報発信の工夫を重ねているが、闇バイト関連のニュースは絶えない。手口の進化と対策がせめぎ合う、闇バイトの現状をまとめる。

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マスターズ2026年1月号

闇バイトの認知度

 「闇バイト」という言葉がすっかり一般化しているが、まずは改めて簡単におさえておきたい。闇バイトとは、特殊詐欺における金銭の受け取り役や引き出し役、強盗の実行役など、犯罪に直結する高額報酬のアルバイトを指す通称である。SNS やインターネット掲示板などで匿名で募集されることが多く、仕事内容を明らかにしないまま「短時間で高額報酬が得られる」などと甘言を用いて誘い込む。最初は簡単な作業を装う場合でも、次第に危険な犯罪行為へとエスカレートし、「犯罪に加担したことを暴露する」などと脅して逃げられなくするケースもある。

 2025年7月に『LINEヤフー』が行ったアンケートによると、「闇バイト」という言葉を知っている人は97%。また、闇バイトと思われる情報を見かけたことがある人は42%にのぼり、「闇バイト」情報の広がりを示す結果となった。闇バイトと思われる情報を見かけた場所は「SNSの投稿」が最も多く、次いでSNSのDM、「知人・友人からの誘い」という順。また、「高収入が得られるなら、求人情報に不審な点があっても応募するかもしれない」と考える人は6%という結果になった。甘い話にだまされない知識や判断力を身につけること、また、万が一関わってしまいそうになったらいち早く身近な人や警察に相談することが重要だ。募集においては巧妙なカモフラージュがされることが多いため、「自分は大丈夫だ」と思っている人ほど、油断せず注意することが求められる。

募集手口の巧妙化

 闇バイトが登場した当初は一目で「怪しい求人」と分かる募集内容が多かったが、最近はごく普通の求人広告を装う傾向が強い。例えば、特殊詐欺の電話をかける「かけ子」の募集なら、「コールセンターでの仕事です。スクリプトどおりに話すだけです」といったように、仕事内容を具体的に示して、応募者が不安を抱かないよう工夫する動きがみられる。さらに、アルバイト報酬の設定にも変化がある。従来は「高額報酬・高収入の求人は危険」という認識が一般的だったが、最近はその警戒心を逆手に取り、「日給1万円前後」など“あえて高すぎない金額”で募集するケースもある。そのため、普通の求人だと思い込んで応募し、結果的に犯罪に加担して逮捕されてしまう事例も発生している。また、応募者の不安を払拭するために、「上場企業が関わっています」「行政の許可を受けた作業です」といった、いわゆる“権威づけ”を行う傾向も目立つ。

 2024年には、スポットワーク求人で注目を集める『タイミー』のアプリに闇バイトと思われる求人があり、SNSでも一時騒然となった。11月7日未明、「夜中に指定された道を通り、猫が居たところに地図上で印を付ける。その間、携帯電話や荷物は預かる」といった怪しい求人が掲載。『タイミー』側が当日中にこの案件に申し込みできない状態に設定し、すぐにアプリには表示されなくなった。広報担当者は「闇バイトだと断定はできないが、携帯電話を預かるという点や深夜に短い稼働時間で高めの報酬という点で不適切な求人の疑いがあり、掲載を差し止めた」と話す。今回の案件では、利用者と企業のマッチングはしていたという。このケースでは募集内容に不審な点があったものの、一般的に利用される求人アプリの中に闇バイトらしき案件が紛れ込んでいた点で、世間を騒がせた。

 また、若者が関わるイメージの強い闇バイトだが、最近では「年齢不問」とする募集広告が増え、50代以上のシニア世代が応募するケースも見られる。実際、2023年には特殊詐欺の「受け子」として合計約1,600万円をだまし取ったとして、84歳の無職男性が逮捕され、懲役3年6カ月の実刑判決を受けた。背景には、シニア層のアルバイト応募者の増加があるとみられる。特にスマートフォンの操作に慣れていない人の場合、情報リテラシーの不足から、気づかないうちに闇バイトに巻き込まれるリスクも高い。

 手口は現在進行形で変化を続けているため、闇バイトの一般的な特徴を知っておくことが求められる一方で、「闇バイトとはこういうもの」という思い込みを捨てることも大切だ。

SNSやアプリによる匿名化

 2024年8月、メッセージングアプリ『Telegram』の創業者でCEOのパベル・ドゥーロフ氏が、プライベートジェットでパリ郊外のルブルジェ空港に現れたところで、フランス警察に逮捕された。逮捕容疑は、Telegramが犯罪の連絡手段として用いられているにもかかわらず、運営者として監視や管理を怠ったなどの容疑とされている。

 闇バイトなどにおける指示には、秘匿性の高いアプリが使われ、特によく利用されるのが「Telegram」「Signal」などだ。両アプリとも送受信間のデータは全て暗号化され、運営側でも見ることができない。さらにスマホ内の記録も削除される仕組みのため、逮捕した実行役のスマホを解析しても、指示役の特定が難航するという。これらの特徴から犯罪に使用される例が増え、フランス当局がTelegramのCEOを逮捕するという事態になったのだ。

 これらの機能は表現の自由を守るために開発されたもので、情勢が不安定な国でジャーナリストらに使われてきた。闇バイトの指示役は実行役を後押しする文句として「証拠が残らず逮捕されない」と言う。だが、当然のことながら「全く残らない」という保証はない。本来、表現の自由が確保されている日本でこれらのアプリを使う利点はなく、「使っているだけで犯罪の証拠の一つになり得る」という意見もある。もし何らかのアルバイトに応募し、その後のやり取りをTelegramやSignalで行うよう求められたら、一度立ち止まって妙な点がないか考え直したほうが良い。

「トクリュウ」に注意

特殊詐欺関連で、最近よく「トクリュウ」というワードを耳にする。トクリュウとは「匿名・流動型犯罪グループ」のことで、「自分たちが何者かを名乗らず、匿名性の高いSNSなどで実行役を集めて、特殊詐欺などの犯罪を行う集団」を指す。特殊詐欺に限らず、ここ数年、全国で発生している凶悪事件も、トクリュウによるものが少なくない。首謀者や指示役は姿を現さず、応募してきた者たちをたくみに操って犯罪を行わせ、使い捨てにする。トクリュウが実行役を募る手段として主に利用するのがSNSで、警察庁の発表によると、2023年に摘発された特殊詐欺の実行役のうち、4割以上がSNSの闇バイト募集情報等を通じて加担していたという。闇バイトに関わることで、意図せずしてトクリュウの手先になってしまうケースも多い。以下は、最近のトクリュウ関連の事件の一例だ。

 神奈川県警は2025年11月25日、横浜市内の住宅に押し入り住人にけがを負わせたうえ、現金の入った金庫を奪ったとして、ボリビア国籍の男と東京都町田市の会社員の男を逮捕した。県警は、2人がトクリュウの指示役とみて調べている。また、住所不定の高校2年生の男子生徒も逮捕された。逮捕容疑は、無職少年4人と共謀し、7月28日に横浜市在住の60代男性宅に侵入。男性に催涙スプレーのようなものを噴射して顔や腕に軽傷を負わせ、現金約700万円などが入った金庫を奪ったとしている。県警によると、生徒と少年4人が実行役で、指示役の2人は秘匿性の高い通信アプリで指示していたとみられる。県警はスマートフォンなどを押収しており、経緯や関与者、金の流れなどについて捜査を進めている。

海外拠点も増加

東南アジアを拠点にした特殊詐欺の犯罪グループが次々に摘発されている。闇バイトの現場は、日本国内だけでなく海外拠点のものも増加しているのだ。2025年5月には、ミャンマーから帰国した16歳の少年が、特殊詐欺の「かけ子」の疑いで逮捕されている。

 少年は2024年11月上旬、「海外に特技をいかせる仕事がある」とインターネットで知り合った相手から勧誘され、指示役が用意した航空券で同12月にタイに渡航。バンコクから車やボートでミャンマー東部の拠点に移動し、現地で警察官などをかたる特殊詐欺のかけ子に従事していた。そして2025年2月に少年が助けを求めて家族に連絡し、タイ当局に保護されて帰国。県警は少年の供述などを踏まえ、同じ拠点でかけ子をしていたとみられる男2人を日本に移送し、詐欺容疑で逮捕した。

 上記は一例で、海外拠点の犯罪に巻き込まれているものは多い。警察庁は「『海外で儲かる仕事』は危険です!」と注意喚起した上で、警察に相談があった実際の例を紹介している。以下に何点か具体例を挙げる。

・オンラインゲーム上で知り合った人から海外の仕事を紹介され、タイへ渡航後、ミャンマーへ密入国させられた。そして、マシンガンで武装した者が監視する建物に連れて行かれ、詐欺をさせられた。

・知人から海外の仕事を紹介され、中国へ渡航すると、詐欺をするように言われた。帰国したいと言うと、暴力団の名前を使って脅された。領事館へ助けを求め、保護された。

・知人から海外の仕事を紹介され、はじめはカンボジアに渡航し、偽の仕事について説明を受けた。そして、ベトナムに行くよう指示され、渡航後、詐欺をするよう言われたため、逃げてきた。

 以上のように、甘い言葉に乗って実際に海外へ渡航すると、思いもよらない地域に連れて行かれるケースが多い。報酬が支払われないどころか、脅迫・監禁されて逃げられなくなり、助けを求めることすらできない恐れがある。殺されてもおかしくない状況であり、上記で紹介した例は運良く助けを求めることができ、生きて帰ってきたからこその証言だ。逃げることも証言することもできていないケースがあるということを、忘れてはならない。

官民連携の啓発

 10代の若者にも闇バイト被害が増える中で、『Classroom Adventure』は闇バイトのリスクを具体的に学べるゲーム型教材「レイの失踪」を開発した。リアルに再現されたSNS空間を舞台に、失踪した友人「レイ」が闇バイトに勧誘され、抜け出せなくなる過程を疑似体験するプログラムだ。主に「狙われない」「騙されない」「ハマらない」の3点を学べる。このゲームは闇バイトへの理解を深めるために広く活用されており、全国の教育機関で大きな反響を呼び、体験者の98%が「闇バイトへの知識が深まった」と回答。その教育効果の高さが証明されている。2025年5月には同社と東京都北区とが協力し、公立中学校で全国初となる闇バイト疑似体験ゲームを活用した啓発講習会を実施。若年層の犯罪加担防止に向けた、官民連携による先進的なモデルケースとなった。

 また、『奈良県警察本部』および『公益財団法人奈良県暴力団追放県民センター』も同社と連携。2025年12月4日には、『奈良県立大学附属高等学校』で全校生徒約490人を対象とした特別授業を実施すると発表した。奈良県警では「ごく普通の高校生」が、知識不足や一瞬の油断から犯罪加担者となってしまう現状を打破するため、従来の講義形式にとどまらない、より実効性の高い教育手法の導入を検討してきたという。今回の特別授業では、「レイの失踪」を使ったワークショップや、警察担当者からの講話などを通して、深刻化するトクリュウによる若者の勧誘手口を擬似体験することで、生徒の防犯意識と情報リテラシーの向上を図る。奈良県警の犯罪抑止対策室長は「“リアルな恐ろしさ”の疑似体験が、子ども・若者を犯罪から遠ざけ、安全で安心な奈良県の実現につながることを期待しています」とコメントしている。

『LINEヤフー』の取り組み

 『LINEヤフー』では、「闇バイト」への注意喚起や教育啓発のための様々な取り組みを行っている。

●「LINE」アプリでの注意喚起

 LINEを悪用した闇バイトの注意喚起ページを設け、友だち追加時やLINEオープンチャット入室時など、様々な場所に掲載。また、不審な投稿やメッセージの通報機能も提供し、不正対策を進めている。

●「闇バイト」防止教育

 『静岡大学』と共同で、中学・高校生向けに闇バイトの加担リスクを学ぶことを目的とした教材を開発し、誰でも使えるようWeb上に公開。また、『一般財団法人 LINEみらい財団』と連携し、『LINEヤフー』の社員が講師を務める出前授業も実施している。

●「LINEスキマニ」アプリ

 企業とユーザーを単発雇用でマッチングさせるサービス「LINEスキマニ」では、安心・安全に仕事探しを行えるよう、専門チームによる厳格な審査体制を構築し、求人内容の監視・対策を徹底。「闇バイト」のような違法性のある求人は掲載されないように確認しているという。また、不審な求人を見つけた場合や不安を感じた場合は、早急に連絡できるようLINEスキマニカスタマーサポートを設置している。

 LINEは日本で使用されるメッセージアプリの中でトップシェアを誇る。老若男女問わず多くの人が毎日使用しているからこそ、アプリを通した各種取り組みは大切な役割を果たすだろう。

                 ※※※

 数年前までは、闇バイトについて「知らなかった」から被害に遭ってしまう例が多かった。しかし現在は認知度が非常に高いため、「知っていたけど魔が差した」層への対策へとフェーズが変わっている。また、「知っていても騙されてしまう」ような巧妙さもある。一時の金銭的誘惑や、「自分は大丈夫」という油断が、人生を左右する重罪に直結する。一人ひとりが、「合法的なフリ」をした募集を見抜く警戒心をさらに引き上げることが、闇バイト問題に対する最大の防御策となる。

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