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NFTアートとは──爆発的な広がりを見せるNFTアートはアーティストの希望の光になり得るのか

2021年3月、デジタルアーティスト・Beeple(本名:マイク・ヴィンケルマン)によるNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)に基づいたデジタルアート作品《Everydays - The First 5000 Days》がオンラインオークションで約6935万ドル(約75億円)で落札された。NFTは2021年に日本で急速に広まり、同年はNFT元年と呼ばれたほどだった。本稿では、そんなNFTアートがアート界に及ぼす影響についてを分析する。

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2022年7月号

 2021年3月、デジタルアーティスト・Beeple(本名:マイク・ヴィンケルマン)によるNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)に基づいたデジタルアート作品《Everydays – The First 5000 Days》がオンラインオークションで約6935万ドル(約75億円)で落札された。《Everydays – The First 5000 Days》は、Beepleが13年半の歳月をかけて制作した5000枚の作品をコラージュしたもので、今回のオークションのために作られた。さらに、同年にはロンドンに住む12歳の少年ベンジャミン・アフメドが、《Weird Whales(おかしなクジラたち)》と名づけたNFTアートシリーズで約4000万円を稼いでいる。また、日本の小学三年生の少年は、夏休みの自由研究としてiPadで描いた絵をNFTマーケットに出品した所、セカンダリー・マーケットでは240万円で取引されたという。NFTの特徴として、作品がセカンダリー・マーケットで再販される度に、作者はロイヤリティを受け取ることができる。少年の作品は、販売開始から約3カ月で取引総額が4400万円以上となり、その時点で少なく見積もっても総収益は100万円を超えているだろう。現在少年は、Zombie Zoo Keeperという名でアーティスト活動を行っている。今年の3月には、世界最大級のNFT美術館「NFT鳴門美術館」がオープンしたほか、4月下旬には東京・中目黒には日本初のNFTコミュニティラウンジ「五五」がスタートするなど、NFTアートは爆発的な広がりを見せている。

 NFTは2021年に日本で急速に広まり、同年はNFT元年と呼ばれたほどだった。トークンとは、安全にデータを記録できる技術「ブロックチェーン技術」を使用して発行した「暗号資産」の総称である。ブロックチェーン技術は「分散型台帳技術」とも呼ばれ、管理者を据えずに多数の参加者に取引履歴を分散共有させることのできる仕組みだ。不特定多数のブロックチェーンネットワーク参加者によって共同管理されることで、一部の参加者による不正な改ざんや停止が非常に困難となっている。つまりNFTとは、「非代替性(替えが効かない唯一無二)であること」を「ブロックチェーン技術を利用して証明」する技術と言える。仕組みとしては仮想通貨と似ている。「トークンID」と呼ばれる固有のIDに、デジタルデータの作成者、所有者などの情報をひも付けたデジタル資産を発行。その取引データをブロックチェーン上で管理する。改ざんが困難というブロックチェーンの特徴を活かし、所有者情報などの真正性を保証するというわけだ。

 以前までは、ネット上にアップロードされているイラストや3Dイラスト、音楽、動画といったデジタルアートは、所有者を明確にすることが難しかった。著作権は存在するものの、著名なアーティストの作品だったとしても、「自分がこの作品の唯一の所有者である」という証明はできず、コピーとの違いを明確にできなかったのだ。そこで、デジタルアートに紐づくNFTを発行すると、アーティストが保有している“唯一無二”のデジタルアートであることが証明できるようになる。これによりデジタルアートの希少性が担保され、高額で取引がされるようになった。この、“希少性の担保”は、デジタルデータの価値を決める上で最も重要な要素だ。たとえば、『Twitter』の創業者であるジャック・ドーシー氏の初ツイートは、2021年3月のオークションにて291万5835ドル(約3億1640万円)で落札されている。落札したのはマレーシアの企業『Bridge Oracle』のCEOであるハカン・エスタビ氏だ。落札後、彼は「これはただのツイートではない。数年後には、これに『モナ・リザ』と同じくらいの価値があることにみんなも気づくだろう」とツイートしている。コピーが容易なデジタルデータの世界において、間違いなく“ジャック・ドーシー氏の初めてのツイート”であることが、ブロックチェーン技術によって証明された。これにより生まれた希少性に、莫大な金額がつけられたのである。ツイートがアートかどうかは兎も角、デジタルデータに資産価値を認める動きが活発化している事例として、特筆すべき事柄と言えるだろう。

 では、実際にNFTアートの売買を行うにはどうしたら良いのか。簡単に説明すると、出品者と購入者は「コインチェックNFT」や「OpenSea」、「Rarible」といった「NFTプラットフォーム」に登録して取引を行う。出品者は、各々プラットフォームに登録した際に自身の作品に付随する情報(作品の保管場所など)をブロックチェーンに記録し、ガス代と呼ばれる手数料を支払ってNFTを発行する(場合によってはガス代が無料になることもある)。作品が購入されると、購入者アドレスがブロックチェーンに記録され、NFTの持ち主が購入者に移ることとなる。NFTの支払には、Ethereumと呼ばれる仮想通貨が使われることが多く、Ethereumの取引情報も併せてブロックチェーンに記録される。

 ただ、NFTアートの売買については注意すべき点もある。ブロックチェーンには作品全ての情報が記録されるとは限らない。多くの場合、テキストや動画、画像といったデータが直接ブロックチェーンに記録されているわけではないのだ。というのも、現状記録する容量に限度があるため、高画質や画像や動画を記録するのは難しいのである。そこで、ブロックチェーンの外にあるファイルストレージに画像や動画をアップロードして保存し、その保存場所を指定する「URL(文字列)」を、ブロックチェーン上に記録する、という方法が取られている(図2)。つまり、作品を参照したいと思ったら、プラットフォームで参照先URLからを読み込み、作品が置かれているサーバーに飛ぶということだ。誤解を恐れずに言うと、“NFT”そのものには、画像や動画などの作品自体は存在していない。そうなると、もし元のデータが保存されているサーバーが何らかの理由で停止してしまった場合、作品が消失してしまう可能性もある。

 これを解消するのが、「フルオンチェーン」と呼ばれる方法だ。フルオンチェーンで作成されたNFTは、画像や動画のデータを含むすべての情報がブロックチェーンに書き込まれている状態になる。これにより、ブロックチェーン全てがなくならない限り、半永久的にデータが存在し続けることができる。フルオンチェーンの仕組みを簡単に説明すると、データそのものを保存するのではなく、ブロックチェーン上にカラーコードを指定したプログラムを乗せることで、人の目から見た時に画像に見えるように生成する、というものだ。しかし、この方法は難解であることや、先に述べたようにそもそもブロックチェーンに記録できる容量に上限があることから、現状ドット絵画像のような比較的単純な仕組みの作品にしか適用が難しい。ブロックチェーンへの記録容量が増えるか否かは、今後のNFTアートの普及に大きく関わってくるだろう。

 昨年には、『GMOインターネットグループ』がNFTマーケットプレイス「Adam byGMO」を立ち上げた。運営を行う『GMOアダム』の代表取締役・高島秀行氏は、「今後、NFTはアートだけではなく、金融サービスなど様々な展開が考えられる」と展望を述べている。「Adam byGMO」ではこれまでに、坂本龍一氏を代表する作品の1つである「Merry Christmas Mr. Lawrence」の音源の右手のメロディー595音を1音ずつデジタル上分割し、NFT化して販売した他、「東京タラレバ娘」などの作品で知られる東村アキコさんの連載作品の原稿が出品されている。高島氏は、「絵を描いた人が直接投稿し、直接販売して流通する。そのなかから認められて、絵で生活できる作家がたくさん出てくればうれしいですね」と、事業展開への思いを述べている。

 NFTアートの広がりは、アート界の歴史を変える大きな出来事と言える。まだ発展途上であることは間違いないが、これまで日の目を見なかった若いアーティストたちにとってはある種希望の光なのだろう。これからNFTアートがどのような未来に向かっていくのか。今後もその動向に注目していきたい。

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