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誰もが対等になれる場所を目指して──地域のコミュニティスペースからSDGsを学ぶ

SDGsにまつわる活動を展開する団体や個人を取り上げて紹介する特集企画。今回紹介する『yumecan』は、京都市を拠点にこども食堂やコミュニティスペースの運営、地域作家の支援などを行っている。本日は、活動を通して地域の方々に寄り添い続けている代表の恩庄真理さんに取材を実施。不登校になり苦しんだ経験が今に繋がっているという恩庄さんが大切にする考えや価値観に触れる。

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2022年6月号

試練を乗り越え、一歩踏み出す

「不登校になり、学校に行けない自分をずっと責めていました」─そう語るのは京都市で地域のコミュニティスペースやこども食堂などの運営を行う『yumecan』の代表、恩庄真理さんだ。中学生の時にインフルエンザが原因で出席停止になったことがきっかけで学校から徐々に足が遠のき、不登校になったという恩庄さん。幸いにも気にかけてくれる友人に囲まれ、休みの日には外に出掛けることもあった。しかし平日になると気が重くなり、なかなか学校に行けない日々が続いた。「当時は『学校に行かないといけない』という思いと『学校に行きたい』という気持ちが入り混じっていました。そんな中でも学校に行けないというジレンマに陥り、苦しかったですね」

学校に行けぬまま中学2年に進級し、進路を考える時期がやってきた。高校に行かないことも考えたが、恩庄さんの周囲で起きたある変化が進学へと導くこととなる。「両親はずっと気にかけてくれていたんですが、それがプレッシャーでもありました。ところがある時、急にその圧を感じなくなって。そこから学校以外のことを考える余裕が生まれたんです。その余裕が進学への道につながった1つの理由だと思いますね」

そうして徐々に前を向き始めた恩庄さん。高校、大学と進学し、卒業後の現在は『yumecan』の運営を1人で行い慌ただしくも充実した日々を送っている。

自身の経験が今に繋がる

恩庄さんが現在の活動を始めたのは大学生のころ。中学生の時から構想を練り、人々が気軽に集える場所の提供を目指し、『yumecan』を立ち上げた。「不登校時代は『学校を休むのは良くないこと』という周囲の大人の価値観にとらわれて、人目に触れないように過ごしていました。でも行かないという選択があってもいいと思うんです。そういった選択肢に気づくためには、色んな価値観に触れて学ぶことが大切だと身を以て感じました。だから、子どもたちが1つの価値観にとらわれないよう、親や先生以外の大人たちと関われる場所を作ろうと考えたんです」

最初の一歩は『Atelier Colis』からだ。地域の方々が作った雑貨の販売を行い、地域に根ざした活動を開始した。その後、こども食堂を開こうと考え、市の支援を受けて『ひとえつぎ食堂』もスタート。最初はなかなか人が集まらず苦労もしたというが、チラシなどを見て徐々に来てくれる人が増えていった。

そうして存在を知ってもらい、2021年からはコミュニティスペース『Colis西陣』の運営にも着手。“町のお茶の間”というコンセプトで、人々と気軽に交流できる場所を提供している。「誰もが対等でいられる場所づくりを目指しています。『ひとえつぎ食堂』開催時は、たまに大人の方がボランティアをしたいと連絡を下さるのですが、私は毎回参加者として来てくださいと伝えています。子どもも大人も関係なく全員が同じ立場でフラットに交流できる場にしたいですね」

対等でいることと、尊重し合うこと

活動の場を順調に広げている恩庄さんだが、その中で課題に感じていることもあるという。「子どもの支援を中心にしているので、その子の気持ちや意見を最大限に聞き入れたいと思っています。しかし最終的な責任の所在は親にある。そのため親御さんの考えを踏まえて判断しないといけないこともあります。その間でバランスを取るのが難しいですね」

子どもと大人の間に挟まれ、もどかしさを抱えているという恩庄さん。そんな中で感じることは、子どもを人として尊重することの大切さだという。「私は常に、子どもたちに選ばれているという意識を持つようにしています。実は“居場所づくり”という言葉はあまり好きじゃなくて。場所をつくるのは良いのですが、そこが居場所になるかどうかは子どもたちが決めることなので。居場所を提供してあげているのではなく選んでもらっているという感覚ですね。社会全体として気軽に行ける場所を多くつくり、その中から私たちを選んでもらえたら嬉しい。あくまでも対等な立場から子どもたちを支援することが大切だと思います」

毎日選んでもらえるような場所に

最後に今後について伺ったところ、知らない人同士が集い、仲良くなっていくようなスペースにしていきたいと語ってくれた。「常連さん以外は来てもらえても一度きりの方が多く、深い関係を築くことが難しいです。ここで偶然出会った者同士でもっと仲良くなってほしいと思っているので、毎日足を運びたいと思ってもらえるような魅力のある場所にしていきたいですね」

また、今後支援を始めたいと考えている人に向けては、「やってみようと思ったら、とにかく挑戦してみてほしい。寄付などの些細なことからでもいいので、まずは1つでもやってみる。そうすることで次に繋がっていくと思います」とアドバイスをくれた。

コロナ禍で『ひとえつぎ食堂』の開催を長らく中止にしていたころ、「いつ再開しますか?子どもたちが待っているよ」という声が集まり、開催を決意したと語ってくれた恩庄さん。ネット社会の広がりにコロナの流行と、人との繋がりが希薄になる現代。そんな中で地域コミュニティの存在が、子どもたちの拠り所として大きな意味を果たしていることが窺える。子どもたちに寄り添い、支援するために我々大人ができることはなんだろうか。この機会にぜひ一度考え、積極的に行動を起こしてみてほしい。

(取材/2022年4月)

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