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想いが繋がり、支援が広がる──フードバンクから学ぶSDGs

SDGsにまつわる活動を展開する団体や個人に焦点を当てて取材を行う特別企画。今回紹介する『フードバンク京都』は、企業や農家、個人から食品の寄付を募って回収し、それらを必要とする人々へ届ける「フードバンク」の活動を行っている団体だ。他にも「フードドライブ」や、農園の運営も手掛けながら、「誰かのためになりたい」という思いを胸に支援の輪を広げ続けている。

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2022年8月号

フードバンクという支援の形

「ズッキーニとシーチキンでパスタってありかな? にんにくを入れてペペロンチーノ風とか」「やったことないけど美味しそうやね」─まるでイタリアンレストランの厨房にいるかのような会話が聞こえてくるこの場所は『フードバンク京都』だ。その名の通り、京都を中心にフードバンクの活動を展開している。フードバンクとは、寄付によって集まった食品などを、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する活動のことを指す。寄付元は主に、企業、農家、個人の3つ。企業からの場合は、包装の破損や過剰在庫、印字ミス、充填ミスなどの理由で、流通に出すことができない食品が集まってくる。また、農家からは、規格外で売り物にならない野菜やお米などが届けられる。そういった、品質に問題はないが、売り物にならなかったり、捨てられてしまったりする食品の寄付を募って集め、経済的な理由などで十分に食べ物を確保できない人々へ届けるのが、フードバンクの活動だ。

『フードバンク京都』は、2015年に理事長の高畠由美さんを中心とした4人のメンバーが、「誰かのためになりたい」という思いで、フードバンクの活動からスタートさせた。2016年には、スーパーや学校、職場などで、食品を個別に募り回収を行う「フードドライブ」の活動も開始。現在は20箇所の拠点で回収を行っている。この活動は、支援の拡大のみならず、各所で実施することで、1人でも多くの方にフードバンクの存在を知ってもらう意図があるという。

さらに同年、理事長の知人から耕作放置地の無償での貸し出し提案があったことで、農園の運営も手掛けるように。全国に100以上存在するフードバンクだが、農園を運営しているのは『フードバンク京都』のみだという。スタート時は、前例がない状況に加え、もともと田んぼだったため水はけが悪く、種を植えても腐ってしまうなど、試練も多かった。今でもそういった苦労は絶えないが、無償で指導をしてくれる講師や、ボランティアの方々に助けられて乗り越えてきた。そうして現在は、玉ねぎや人参、ブロッコリー、そら豆、ズッキーニなど、10種類以上もの野菜を育てる立派な農園に。収穫量も年々増え、2021年度には約600kgにまでなった。そうやって多くの人々に支えられながら収穫された野菜は、食品支援を必要とする人々のもとへ日々届け続けられている。

誰かのために想いを込める

「行政や社会福祉協議会など、第三機関を通して緊急支援の連絡が届きます。コロナになってからはほとんど毎日ですね」─そう語るのは、『フードバンク京都』で理事および広報を務める藤原純子さんだ。ボランティア活動に興味を持ったこと、そして畑作業が好きだったことから、5年前に活動に参加して以来、団体の中心人物の1人として講演などを行い、精力的に活動している。

緊急支援とは、文字通り、早急に支援が必要な人々のために、緊急で食品を届けてほしいというもの。要請を受けたらまず、性別や年齢、支援が必要な背景、炊飯器があるかどうかや、自炊が可能な精神状態かなどをヒアリングする。次に、その内容をもとにして、炊飯器がなければ電子レンジで作れる容器を入れたり、自炊が難しければすぐに食べられる缶詰を入れたりなど、様々な工夫を凝らしながら2週間分の食品をダンボールに詰めていく。そして指定の場所まで届けるというのが、一連の流れだ。通常、翌日から数日以内に用意することが多いが、中にはその日中の対応が必要なことも。

「スタッフは社会人の人も多いです。緊急支援は基本的に平日にくるので、当日中の支援要請が来た時は大変ですね。人手を募っても、手が上がらないこともあります。それでも最終的には誰かが都合をつけ、どうにか支援を続けています。色んな力が合わさってできていることを実感しますね」。

取材当日の事務所では、藤原さんを含めた4名のスタッフによって緊急支援のためのパッキング作業が行われていた。この日の支援先は、精神疾患のある20歳の男子大学生や、7人の子どもを育てる家庭、子ども食堂、ホームレス支援グループなど、様々な背景を持った個人や団体が対象だ。ヒアリング内容のメモを確認しながら、スタッフは支援対象者に思いを馳せ、それぞれに合った食品を1つずつ丁寧にダンボールに詰めていく。 ここで、冒頭の会話を今一度思い出してほしい。ズッキーニとシーチキンを使ってパスタを作ろうと試みているかのようなあの会話。答え合わせをすると、あれはスタッフの方々が作業中に交わしたものだ。

とある男性スタッフが、農園で採れたズッキーニを入れようと考える。ズッキーニといえば何だろうか。輪切りにして炒める?いや、それでは面白くないかな。悩んだ末に、男性は他のスタッフに問いかける。「パスタってどう思う?」─そうしてツナ缶、乾燥パスタ、オリーブオイルが、そっとダンボールに詰められる。「顔が見えないから僕らは想像するしかない。でもそれを考えるのが楽しいし、もらった人にも楽しんでもらいたい。開けた時に喜ばれるように、一番上にお菓子入れたりね。同じ人に何度も送ることもあるから、毎回違う内容にしてる。覚えるのが大変だけどね(笑)」。

ただ箱に詰めるだけではない。その人がどんな人なのか、どんな思いで生活しているのか。顔も分からぬ相手に思いを馳せて、食品と共に想いも詰めていく。

「常に想像を働かせて、1つずつ詰めていきます。スタッフによって詰め方が全然違うんですよ。他にも、寄付をしてくださった方にイラスト入りの手紙を書いて送るスタッフもいます。そうやってわざわざ手間をかけながら、アットホームな温かさを提供できるのがうちのいいところですね」と藤原さんは話す。

未曾有の事態がもたらすもの

2020年は『フードバンク京都』にとって大きな転換期となった。コロナの影響を受けて、支援要請が急増したのだ。藤原さんによると、団体の立ち上げ当初、緊急支援の依頼は月に一度ほどしか来ていなかったという。しかし、ここ数年は、コロナで生活が立ち行かなくなった人々への支援が多くなっている。

「昨年は1年で370件ほど届きました。そのうちの1/3が、コロナで生活が立ち行かなくなった方への支援ですね」。

そんな未曾有のパンデミックによって窮地に追いやられた人々が増える一方で、コロナが良い影響をもらたした部分もあるという。

「寄付の量や、ボランティアを志願してくださる方が急増しました。お陰様で、支援依頼に対して食品が足りないということは一度もないんです」─コロナで困っている人々の姿がメディアなどで取り上げられたことで、「自分も支援したい」と行動に移す人が続々と集まったのだ。ボランティアも現在までに65名の方が登録。人々の想いが連鎖して、支援の輪が広がり続けている。

支援を通して世界が広がる

2018年に『フードバンク京都』はNPO法人化を果たしている。団体としての信頼度を上げ、活動の幅も広げることが主な目的で、利益は出ていない。むしろ資金不足が一番の課題だという。スタッフはもちろん全員ボランティアで、仕事の合間など、自分の時間を使って支援を続けている状況だ。

そんな現状でも活動を続ける理由は、役に立てているという気持ちと仲間の存在にあると藤原さん。「私たちは支援を受ける方々に直接会うことがほとんどありません。ですから支援先からお礼の手紙やメッセージが届くとすごく嬉しいし、やりがいを感じます。役に立っているんだなと思えますね。また、スタッフの存在も大きいです。仲間のお陰で活動ができていますし、頑張れています」。

最後に、今後支援を始めたいと考えている人に向けて、「まずは一歩踏み出して参加してみる。そして合うかどうか、自分で確かめてほしいです。それがきっかけで自分の世界が広がるかもしれません」とアドバイスをくれた藤原さん。実は取材の中で、活動を始めてみた当初の感想について、「参加してなかったら会えない人に会えて、人生が深まった。活動のおかげで視野が広がった感じがします」とも話してくれていた。つまり、『フードバンク京都』の活動によって、実際に自身の世界が広がるのを体感したのだという。そんな藤原さんだからこそできるアドバイス。その想いを受け取り、勇気を出して支援の輪に加わってくれる人が1人でも増えるよう願うばかりだ。

(取材/2022年6月)

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