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LGBTQ+の支援は対話から始まる──京都発の団体が導く相互理解の糸口

記事の概要説明

京都を拠点に、LGBTQ+(※1)の支援活動を行うコミュニティ団体『カラフル』。発起人でトランスジェンダーのゆうきさんは、誰もが生きやすいと感じる社会づくりを目指して、LGBTQ+やアライ(※2)の人々と共に精力的に活動を行っている。過去にはセクシャリティに悩み、苦悩した経験があるという。それでも周囲と共に話し合い、時間をかけて乗り越えた。そして現在はLGBTQ+を支援する存在として、コミュニティの発展に尽力している。今回の取材で、自身のこれまでや『カラフル』について語ってくれたゆうきさん。そこで見えてきたのは、当事者と非当事者の間に立ち塞がる壁の存在と、対話の重要性だった。

2022年5月号

カミングアウトが全てを変えるきっかけに

学生時代から女性であることに違和を感じていたというゆうきさん。高校時代には同性に惹かれていることを自覚するようになり、思い切って知人に胸の内を明かした。しかし、当時は2000年に入って間もないころで、セクシャルマイノリティの理解や認識が今ほど進んでいなかった時代。知人にひどく拒絶され、以来自分の思いは心の中に閉じ込めてしまった。
それでも違和感は消えることなく、漠然とした不安と戦う日々を過ごした。そんな中、大学に進学してアメリカへ留学することに。この決断がゆうきさんの人生を大きく変える。「留学先で色んなセクシャリティの人々と会いました。現地で仲良くなった友人が実はセクシャルマイノリティだったこともあって。当事者が日常の中に当たり前に存在していて、すごい身近なんです。その環境に居心地の良さを感じました」
過去の出来事が原因で、セクシャリティについて考えることを諦めてしまったゆうきさんだったが、アメリカでの体験が自身を見つめ直すきっかけをくれたという。帰国後はカウンセリングを受けたり、マイノリティの人と会って話を聞いたりした。そして時間をかけて自分の気持ちやセクシャリティと向き合い、トランスジェンダーであることを自覚した。

今回の取材に協力してくれたゆうきさん。
今回の取材に協力してくれたゆうきさん。

やっと答えに辿り着いた。しかし、不安は消えなかった。「歳を重ねて周りがどんどん結婚していく中で自分はどうなっていくのか、とても不安になりました。親が亡くなったらどうする?とか。将来を考えるとすごく孤独を感じて、色々と考えているうちについには誰のために生きているのか分からなくなった」
この状況を乗り越えるためにはどうすればいいのか。悩んだ先にゆうきさんが見つけた解決策は、共に生きる仲間をつくること。そして、その思いを形にするためには周囲に応援してもらうのが1番だと考えた。
「親や周囲の反応が怖くて行動を起こせなかった。でも自分に正直に生きたいと思ってカミングアウトしたら、とても気持ちが楽になりました」──そこからは時間をかけて周囲の人々と共に考えていった。「こうなりたい」と主張をするよりも、「こういう生き方があるけどどう思う?」といった形で、皆が自分事に捉えられるようなアプローチを心掛け、対話をしながらお互いに理解を深めた。
「周りが受け入れる姿勢を持ってくれてありがたかったです」と語るゆうきさん。それまでは親に悪いという気持ちが強く踏み切ることができなかった性別適合手術も受け、戸籍の性別を男性に変更。2021年にはパートナーとの結婚も果たした。今のゆうきさんに、不安の2文字はもはやどこにもない。

“誰もが自分らしく”をテーマに、LGBTQ+の支援活動をスタート

ゆうきさんは現在、京都を拠点にしてLGBTQ+コミュニティの支援を行うコミュニティ団体『カラフル』の代表としても活動中だ。「誰もが自分らしくいられる社会」の実現を目指し、活動を通して様々なセクシャリティの人々に寄り添っている。
アメリカ留学から戻った後に働き始めたゲストハウスで、人種やジェンダーに関係なく誰もが楽しく過ごせるためのイベントを行っていた経験から、地域や社会にそういった場があればと考えてコミュニティづくりを思いついたという。
しばらくは団体としてではなく1人でイベントを企画していたが、参加者の中から手伝ってくれる人が現れるようになった。そして徐々に仲間が集まり、形になってきたころに『カラフル』として団体を立ち上げた。何よりも“楽しむこと”を大切に、ハイキングや手作り体験会、写真撮影会など、これまでに様々なイベントを実施。そんな中でも、毎月第2日曜日に定期開催されている鴨川でのゴミ拾いイベントは、特別な思い入れがあるという。
「ある日、日本人がポイ捨てしたゴミをインド人の方がとっさに拾ってゴミ箱に捨てるという場面に遭遇して。その時ポイ捨てよりもゴミを拾ったことのほうに目がいきました。ポイ捨て自体は良くないけど、その後の行動次第で良い印象に変えられる。そこから、LGBTQ+に対して嫌悪感を持つ人や無知・無関心な人たちが、僕らがゴミ拾いをしている姿を見たら、良いイメージを持ちながら興味を抱いたり、知るきっかけを作れたりするんじゃないかという可能性を感じたんです」
また鴨川という場所を選んだ理由については、「鴨川には本当に色んな人がいて、とても多様な場所だと感じたから。ゴミ拾いという、人種やセクシャリティに関係なく誰でもできることを、そんな鴨川で実施し、会話をしながら輪を広げていけたら」と説明する。
LGBTQ+を広げていくためには理解してもらうことよりもまずは気軽に活動に参加してもらい、人との対話の機会を増やすことが重要だとゆうきさんは語る。そうしてお互いを知ることで、その先にあるセクシャリティについての理解が深まる。
また、イベントの最初に行う自己紹介では、あえて好きな食べ物を聞いたり趣味を聞いたり、誰でも答えられる質問で会話のヒントを提供するようにしている。その人のセクシャリティではなく、何気ない話から仲を深め、短時間で仲良くなってもらえるための工夫の1つだという。対話の重要性を知っているゆうきさんだからこその発想で、参加者にとって居心地の良い環境づくりを実現しているのだ。

ゴミ拾いイベントの様子。三条大橋〜五条大橋間の鴨川沿いを歩きながらゴミを拾っていく。
ゴミ拾いイベントの様子。三条大橋〜五条大橋間の鴨川沿いを歩きながらゴミを拾っていく。

「ゴミ拾いイベントを始めてから、参加者の年齢層の幅が広がった。小学生から70代の方まで参加してくれている。またセクシャリティも様々で、アライの方もたくさん来てくれるようになりました」
さらに、参加者からの反響も大きくなった。「職場でセクシャリティを自然とオープンにできるようになった」という人や、セクシャルマイノリティかもしれない子どもを持つ親が、「いつか親子で来たい。『カラフル』があれば安心できる」と話してくれたこともあった。また、活動中の写真を撮影する際に、いつも顔出しをNGにしていた参加者が、ある日突然OKしてくれたことも。話を聞くと「いないことになるのが嫌だった。自分もここにいたいと思えたから、顔を出すことにためらいがなくなった」と話してくれた。
これらの声を聞いてゆうきさん自身も励まされているという。「やっててよかったと思えたし、勇気づけられた。僕も堂々とできない時があるけど、参加者の声に背中を押されました。『カラフル』のような存在が社会の中にあってもいいと思ってもらえるようこれからも活動を続けていきたい」
そんなゆうきさんの思いは、社会にも届きつつある。近年はSDGsが推奨されるなどし、セクシャルマイノリティの人権獲得を目指して世界規模で積極的な行動が取られるようになってきた。LBGTQ+というワードが物珍しく思われていた時代は終わり、マジョリティとマイノリティの相互理解のために、社会が動き出しているのだ。

『カラフル』メンバーとゴミ拾いイベント参加者の皆さん。
『カラフル』メンバーとゴミ拾いイベント参加者の皆さん。

“気にしない”よりも“気にならない”を目指す

LGBTQ+の存在が世間に広まり、『カラフル』も少しずつ大きくなっていっている。メンバーも増え、現在は新たな取り組みの実施に向けて準備を進めている。しかし、そういった社会の動きについてポジティブな印象が先行する一方で、懸念もあるという。「より目立つことで、嫌がらせや差別を受けるかもしれないという気持ちは少なからずある」とゆうきさん。では、そういった問題をなくし、相互理解を深めていくためにはどうしたらよいのだろうか。
ゆうきさんは、当事者と非当事者の間に壁があることがそもそもの問題だと語る。「当事者の『理解してほしい』『受け入れてほしい』という気持ちが強いと、一方的な押しつけになり、非当事者から反発が出てしまう。そこで対立が生じていつまで経っても終わらない議論になるんです」
さらにこう付け加える。「だからといって非当事者側が『気にしない』と言っても、それは根本的な解決にはならない。気にしないように考えるって結局気にしているってことなんですよね。だから『寛容にならなきゃ』という意識が不自然に出てしまう」──分かってほしいと強く訴える当事者と、分かろうとして空回りする非当事者。そんな現状が相互理解を邪魔しているのだ。
ではそれを乗り越えるためにはどうすればよいのか。するとここでも、改めて対話の重要性を語ってくれた。「壁をなくすことが必要ですね。当事者、非当事者という言葉も本当は使いたくないんですよ。そこを明確に分けるのではなく、人と人として対峙し、話し合うことが大切だと思います」
また、当事者が非当事者を知ることも同様に必要な要素だという。「『嫌悪はだめだ』と一方的に決めつけるのではなく、『なぜ嫌っているのだろう』と疑問を持って歩み寄り、理解してみようとする。そうやってお互いに知ることが相互理解の第一歩。『気にしない』ではなく『気にならない』ようになればいいかな。自然に受け入れられる社会になってほしいです」

毎回ゴミ拾いイベント後には参加者同士での交流会が開かれている。
毎回ゴミ拾いイベント後には参加者同士での交流会が開かれている。

『カラフル』と社会が目指すこれからのLGBTQ+

SDGSや抱負、意気込みが書かれたメッセージカードが芝生に散らばる写真

最後に『カラフル』の今後の目標について聞いてみたところ、意外にも「メンバーの魅力を高めたい」との答えが返ってきた。実は筆者は『カラフル』の活動に何度か参加したことがある。セクシャリティに関係なく、様々な背景を持った人たちと気軽に楽しく交流できる環境に居心地の良さを感じて、2020年に初めて参加して以来何度かお世話になっている。とはいえかなり気まぐれなため、参加が1年ぶりになるということもあった。しかし、どんなに時間が空いても「お久しぶりですね!」といつも笑顔で迎え入れてくれる。
そんな温かい『カラフル』の皆さんは筆者にとってすでに魅力たっぷりなのだが、さらに魅力を高めたいとは一体どういうことなのだろうか。詳しく聞くと、そこには『カラフル』らしい優しさに溢れた理由があった。
「普段からメンバー同士で褒め合い、どんなに些細なことでも素敵だと感じたら積極的に声に出していくことを意識しています。魅力を伝えて、それぞれの魅力を引き出す。まずは団体の中でそういった環境を作り、それを徐々に団体の外にも連鎖させていけたらいいなと。褒めてもらえた人は単に嬉しいだけでなく、見てくれている人がいるという意識につながり、安心感を持ってもらえると思いますね」
魅力を伝え合う環境に身を置くことで、魅力を高められる人になってほしい。そうして周囲に笑顔と仲間の輪を広げていく。魅力に気づくには、まずその人自身を深く知る必要がある。対話を通じてお互いを知ることを大切にしている『カラフル』らしさをここでも窺うことができた。
また、現在は京都を中心に活動中だが、今後は海外も視野に入れて活動の幅を広げていきたい考えだ。「今、京都でやっていることがこれから未来につながっていくという思いを持って、子どもたちが生きやすい社会づくりに貢献できたら嬉しい。海外へのアプローチも行い、コミュニティづくりの良さを広げて、世界の人々と共に手を取り合っていきたいです」
LGBTQ+コミュニティとそれを支える社会。相互理解を深め、よりよい社会を構築していくためにも、一人ひとりが考え、積極的に行動を起こしていくことが大切だ。今後コミュニティの支援に関わっていこうとする方々へは、「講演会やイベントに参加し、見たり聞いたりしてみる。そしてさらに人と対話ができる場所に参加してみる。勇気を出して一歩踏み出してみてほしいです」とアドバイスをくれたゆうきさん。
「すぐそばにいる仲間を大事にして、傷つけられた人がいたら皆で声を掛け合って乗り越える。仲間がいればきっと大丈夫です」とも語ってくれた。本稿を最後まで読んでくれたあなたが、その仲間の1人として加わってくれることを切に願っている。

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