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NFTビジネスは どのような未来を創るのか

Twitter 創業者のジャック・ドーシー⽒の最初のツイートが約3億円で売れたり、テスラCEOのイーロン・マスク⽒の出品したNFTアート作品に約1億円の値が付くなどし、仮想通貨に慣れ親しんでいなかった⼈たちの間でも知られるようになった「NFT」。世界的な市場規模は2021年時点で16億ドル(約2177億円)弱と活況を見せている一方で、投機目的のお金が大量に流れ込み、バブルなどと批判的に見る向きもある。NFTは果たして、私たちの社会に真に資する技術なのか、あるいは一過性の投機対象に過ぎないのか。NFTの基本的な概念・活用事例とともに探っていこう。

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センチュリー2022年8月号

●NFTとは何か●

まずは、NFTとはなんぞや、というところから簡単にご説明しよう。

NFTは「非代替性トークン」と呼ばれる。トークンは直訳で「しるし」「象徴」の意味で、硬貨や紙幣の代わりに使うデジタルマネーを指す。NFTとよく対比されるのが、同じくブロックチェーンの技術が用いられ、「代替性トークン」と呼ばれるビットコインやイーサリアムなどの暗号資産だ。こちらは例えるなら2枚の1万円札。多少の差異はあれど、等しく1万円の価値があり、紙幣同士を交換しても何の支障もない。このことから2枚の1万円札は「代替性がある」と言える。対してNFTには固有のIDや情報が持たされ、「唯一性」がある点が特徴となっている。例えるなら著名人のサインが入ったTシャツのようなものだ。Tシャツそのものは同じ市販のものでも、サイン入りとサイン無しのものでは大きく価値が違ってくる。つまり「代替性がない」と言え、NFTが「非代替性トークン」と呼ばれるのはその唯一性による。

NFTや暗号資産に用いられるブロックチェーンの特徴として、「公開された情報を複数のユーザーが相互承認して信用を付加していく」というものがある。日本円やドルなどの法定通貨の場合、その発行や流通は政府や中央銀行が信用を付加して行われる。対して暗号資産やNFTなどのデジタル資産は取り引きデータがネット上に公開されて全世界から集合している不特定多数のマイナー(取り引きデータを検証し、既存のブロックチェーンに新たなブロックを追加することで報酬を得る第三者)によって検証され、問題がなければそのデータが承認される。承認に時間や費用がかかるなどの課題はあるが、ブロックチェーンにはその手間に見合うだけの3つの大きな特長がある。

それは、改ざん・コピーできないこと、追跡可能で誰でも閲覧可能なこと、価値そのものを移転できることだ。銀行の海外送金は複数の事業者を介したりデータの付け替えが行われたりすることから多額の手数料コストがかかるが、仮想通貨は余計なコストがかからず、1通貨のデータを付け替えることなくダイレクトに送金することができる。

ブロックチェーン登場後のネットが「価値のインターネット」、(それまでの「web2.0」に対して)「web3.0」と呼ばれることもある。eメールでテキストやパワーポイントのファイルをやり取りするとき、元のテキストやファイルは送信者の手元に残ったままで、受信者にはコピーが送られる。それが何度も繰り返されて、情報がいわば無限に増殖していくのが従来のインターネットのあり方だった。一方、「価値」は無限に広がることができない。お金をやり取りするときに自分が持っている1万円を相手に渡すと、自分の1万円は無くなって相手に移る。コピーできないので所有者がAからBに移転するだけ。これが価値の特性だ。敢えてデータに「コピー不可」という枷をかけることで、オリジナルの価値を損なわないで済むオンラインシステムを成し遂げた、とも言えるかもしれない。

これらの特徴により、NFTは「第三者がデータをコピーしたものではない正統なコンテンツ」であることを示すことができ、デジタルアートなどに用いられる。またキャラクターや版権などのIP(知的財産)、著作権が発生するコンテンツビジネスと相性が良い。

加えて、作者は二次流通時に自分に入ってくる還元率を設定でき、還元金という形で印税収入を得ることもできる。従来のデジタルコンテンツは実質的にコピーが可能だったために作者・メーカーは報われず、二次流通に至っては成す術がないという状況だったが、その点を解決できる可能性があるのだ。

現在のNFTの主な活用分野としては一点物・レア物の価値や将来の価値高騰を狙って購入される「収集品・アート」、ゲーム内のアイテムとしての価値や将来の価値高騰を狙っての「ゲーム内キャラクター」「ゲームアイテム」「トレーディングカード」、「メタバース(仮想空間)での土地やアイテム」などが挙げられる。市場規模は2021年時点で16億ドル弱であり、2028年までに76億ドルに達する見通しであるという。

●NFTは社会に定着するのか●

年を追うごとにその規模をどんどん拡大しているNFTだが、この先人々の間に定着していくかどうかについては、いくつかの懸念材料がある。一つは市場拡大のスピードが速すぎること。そのためフィットした法律、規制、ルールが今のところ世界的に見ても整備が進んでおらず、現行法に完全に連動していないのが現状だ。

一方で、利用者の層がまだまだ限定的であることも課題の一つ。NFTはその概念の理解の難しさもさることながら、利用のハードルも高めだ。例えば日本人が海外取引所で初めてNFTを購入する場合、まず日本の暗号資産取引所で口座を開設してそこに日本円を送り、そこから海外取引所に接続すると、ようやくNFTを買える。こうした手続きの煩雑さは、世界的な課題として認知され、今盛んに課題解決のアプローチが行われているところだ。

また、一般的な利用者が二の足を踏む理由として、デジタルアートやコレクティブを安値で買って将来高値で売却するような投機目的のお金が大量に流れ込み、いわばバブルのような状況となっていることも一因であると考えられる。Twitter創業者のジャック・ドーシー氏の初ツイートがNFTデジタル資産として約3億円で落札され、知られざる価値を伝えるために名画モナリザが引き合いに出された話や、CryptoPunksにより発行された24×24ピクセルのピクセルアートに約8億円の値がついた、という話に眉をひそめた人もいるだろう。そしてNFTを「いかがわしい儲け話」「表現の良し悪しとは関係のないところでアートなどの価値が決まってしまう、新しい形の投機」などと考え、警戒心を抱いた人も多いのではないだろうか。

ただ、歴史を振り返ると、ビットコインなどの暗号資産が有名になった時も、ブロックチェーン自体の価値よりも、「ビットコインに投資すれば儲かる」という話がクローズアップされていた。NFTビジネスのバブル的状況も同様の現象と見ることができる。また、オリジナルデータの売買や再販、権利取り引きなどがNFTを用いた仕組みに置き換えられていくとすれば、リアルの小売業がネット通販に置き換わったのと同様の変革が起こり得る。つまり、私たちの生活に自然とNFTが入り込んでいく可能性が高いのだ。次頁では各業界の実例を紹介するとともに、NFTの持つポテンシャルについて探ってみよう。

●NFTで芸術を支援する●

今後、NFTビジネスの恩恵を受ける可能性が高い分野の一つとして、音楽業界が挙げられる。日本レコード協会の統計によると、日本国内の音楽ストリーミング市場はここ10年近くにわたって成長を続けており、2020年のストリーミング売上金額は合計589億円に上った。対してダウンロード売上はストリーミングに圧迫されて179億円に留まっており、インターネット上の音楽配信は既にストリーミングが中心となっていることが分かる。

ストリーミング配信の台頭は音楽を作るアーティストの側からすると必ずしも喜ばしいことではない。ストリーミング大手が1再生ごとに支払う金額は0.5〜1円とされており、単純計算すれば100万回再生で50〜100万円。間に著作権の管理者として仲介会社を入れているため、最終的にアーティストのもとに入る収入はさらに少なくなると言われている。100万回再生というハードルは簡単に乗り越えられるものではない。結果として音楽だけで生計を立てることができるのは一握りの人気アーティストだけとなり、そうでないアーティストは生活していくために音楽活動に集中できないことも珍しくないという。

そんなアーティストたちの光明となり得るのがNFTだ。NFTは前述した通り、作品が転売される度にアーティストが収益を受け取ることができる利点がある。また、楽曲そのものを販売するだけでなく、サインデータや未公開映像、ファンとのビデオ通話など様々な特典を商品に盛り込むことも可能になる。NFTとして楽曲自体の権利自体を購入者に付与する場合、アーティストは作品を株式投資のように展開することもできるのだ。

ビジネススクール出身の音楽クリエイターで、投資家としても活動するEDMプロデューサー・DJの3lau(ブラウ)は積極的にNFTを活用するアーティストの一人だ。2021年2月には33種類のNFTからなる「Ultraviolet」コレクションを発表し、オークションで1170万ドルを売り上げた。さらに8月にはファンがロイヤリティを受け取れるようにする音楽プラットフォーム「Royal」をスタートした。「Royal」では、アーティストが楽曲の所有権をトークンとして販売し、ファンはお気に入りのアーティストを直接支援することができる。加えてその対価としてその楽曲から得られた収入の一定割合をロイヤリティとして受け取ることができるという仕組みだ。

アーティストは、この仕組みにより、まとまった収入を得ることができる。熱心に応援してくれるファンが少数でも存在すれば、ストリーミング再生数が少なくとも音楽で生計を立てることができるかもしれない。音楽活動を経てアーティストがより人気になった場合、ファン・アーティストの両者がより多くの利益を得ることができる。知名度の低いアーティストが人気を得て広く知られるようになっていく過程にファンが喜びを見出す、というスタイルに金銭的な支えや、成功時のメリットの享受が加わった形だ。

音楽とNFTを掛け合わせたサービスの例としては、他に「sound.xyz」が挙げられる。こちらはよりコレクターズアイテムの要素が強く、NFTを持つ人だけが参加できるファン向けの限定コミュニティや、全てのNFTが販売された後、そのうちひとつのNFTだけが変化して特別な特典が提供される、といった機能がある。

この事例は、アーティスト自身がレーベルや事務所などを介さず直接ファンとつながって商業的な成功を収めたり、持続的に活躍したりするのに、NFTが寄与する可能性が高いことを示している。

アートNFTの購入を通じて、アーティストに対して金銭的支援を行うことを動機として取引に参加する形は、伝統的な芸術における企業のメセナ活動やパトロンに似ている。アートを支援した人たちがブロックチェーン上で永続的に記録され、その歴史を辿ることができるのも、興味深いポイントだ。また、NFT保有者は、当初の購入者に限らずアート作品それ自体の価値を高め、世に知らしめることによって表現の世界に貢献することもできる。アートNFTやその保有の意義は、芸術における支援活動をデジタルアートの分野にも広げられる点にもあると言えそうだ。

●NFTが描く新しい未来●

「Chiliz」はFCバルセロナやアーセナルFC、マンチェスター・シティ、ユベントス、インテル・ミラノ、ACミランといった世界トップクラスのサッカーチーム、eスポーツの複数チーム、総合格闘技団体などと提携し、各チーム独自のファントークン(ファンとブランドの関係構築を行うことを目的とした仮想通貨)を発行している。ファンはファントークンを保有することでチームが開催する公式投票イベントへの参加が可能となり、ブロックチェーンを通じてチームバスやユニフォームのデザイン、ゴールチャントの楽曲選択などについての自らの意見をチームに届けることができる。またファントークン保有者のみが対象となるチーム公式グッズのディスカウントサービス、試合結果を予想して世界中のサポーターとランキング上位を競いながらグッズ獲得を目指すサービスなどを提供しているという。

ファンが保有する資格という意味では従来のファンクラブに近いが、ファンクラブが基本的に定期的な年会費を必要とするのに対し、ファントークンは一度発行されると期限の定めなく保有できる、ファントークン自体が転売可能であり金額も変動する、転売の際に価格の一定の割合が発行者であるクラブなどに還元されるなどの違いがある。

現時点で「Chiliz」が行っている施策は地に足のついたものだが、興味深いのは同社のCEO・アレクサンドル・ドレフュス氏が、将来メタバースの領域が、スポーツや生活のあり方をも変貌させ、その中でNFTビジネスがさらに積極的に活用されるであろう点に言及していることだ。

“スポーツ業界における、NFTの大きな可能性のひとつにVR(仮想現実) が挙げられます。たとえば、オンラインゲームの世界では、特定のアイテムをもっていないと有効にできない機能があったり、アクセスできないエリアがあったりするわけですが、今後この流れはほぼ確実にスポーツの世界にも訪れることでしょう。ゲーマーたちが友人とオンライン空間で落ち合い、共にゲームを楽しむように、スポーツファンもVRデバイスを使用し、仮想現実空間で待ち合わせをし、仮想のスタジアムで、あたかも現地で観戦しているかのように試合を楽しむ時代が必ず到来するでしょう。”

“そのような場面で使用することができるチケットや年間パスは、NFTの技術をもってすれば簡単に顧客の管理が可能となり、ユーザー同士によるチケットのギフティングも可能となるでしょう。つまり、NFTとVR、そして現実空間の絶妙な組み合わせを実現することができれば、スポーツ業界におけるNFTは爆発的な成長を遂げ、その市場規模も従来のものを大きく超えられる、と考えられるのです。”
(「NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来」より)

マーク・ザッカーバーグ氏が自社の社名を「Facebook」から「Meta」に変更することを発表し、メタバースのイメージを強調したのは2021年10月のこと。メタバースは将来的にはゲームを楽しむのみならず、仕事や遊び、ファッションや恋愛などの自己表現、コミュニケーションなど、リアルな世界と変わらない生活が行われるようになるとも言われる。現時点でもゲームにおいて、メタバースの土地やファッションアイテムなどがNFTとして扱われているが、ドレフュス氏が語るような近未来的な世界が実現した時には、NFTはより大きな力を持つことになるだろう。

ちなみに、今世界で注目されているNFTゲームとしては、「Decentraland」や「The Sandbox」、「Cryptovoxels」などが挙げられる。「Decentraland」では上記のようにメタバース上で土地やアバター用のファッションアイテムなどを購入できるのみならず、土地やNFTアイテムを販売することもできる。ゲーム内で需要の多いアイテム、人がよく集る場所などは高値で取り引きされ、実際に儲けることができるようになるのだ。「The Sandbox」「Criptovoxels」も同系統の報酬が得られるシステムがあり、「Play-to-Earn」(遊んで稼ぐ)と呼ばれて注目を得ている。

初期のコンピューターゲームは街のゲームセンターでお金を払ってプレイするというものだった。それがやがて家庭用ゲーム機が普及。後年には携帯電話やスマホの登場に伴い、無料で遊べる形が定着していった。さらにeスポーツやゲーム実況などが生まれ、「見せるためにゲームをする」形が一般化した。そして次に現れたのが「ゲームをしてお金を稼ぐ」スタイルというわけだ。

日本では「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられるようになってしばらく経つが、日本人の家計金融資産は依然として投資よりも現金や預金が主だ。その中でNFTは、金融的な価値とそのトークン自体が用途を持つユーテリティー要素が一緒に設計できるという利点がある。難しいリターン予測や専門書を読み解いて金融商品を買うよりもNFTゲームやNFTアートなどに触れつつリターンを得る体験のほうが、金融取引を始める上では入りやすいのかもしれない。

●ビジネスとしてのアプローチ●

2007年に「gumi」を設立し、SNSサービスやモバイルオンラインゲームを提供してきた現「Thirdverse」CEOの國光宏尚氏は「NFTの教科書」(参考文献参照)の中で「新しいテクノロジーが出てきたとき、どうビジネスに活用していくか。既存のものをそのテクノロジーで再現することには意味がない」と語っている。スマートフォンが台頭した時、多くのゲーム会社が家庭用ゲームやガラケーゲームをスマホに移植するも流行らず、流行したのは「パズル&ドラゴンズ」や、「モンスターストライク」など、スマートフォンに最適化されたゲームだった。これはその他のサービスも同様で、「ヤフオク!」や「MMSメッセンジャー」はスマホでは通用せず、「メルカリ」や「LINE」が流行した。つまり、そのテクノロジーならではのUI(ユーザーインターフェース、顧客接点)とUX(ユーザーエクスペリエンス、顧客体験)を再定義・再発明する必要があるのだと、國光氏は言う。

NNFTも同様に、「そもそもこのテクノロジーでなければできないことは何か」を考える必要がある。そしてこの技術ならではの形を再定義することが、より良いNFTビジネスを生み出す必須条件となるのだろう。

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