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公正な社会の創出のために─フェアトレードを知る

食品をはじめ、私たちの身の回りには様々な生活用品が溢れている。それらを生産している人々について、普段考えることはあるだろうか。今私が飲んでいるコーヒーのパッケージを見てみると、 豆の生産地は「ブラジル、ホンジュラス他」と表記されている。中南米からやってきたらしい。最近購入したヒートテック機能のあるズボンは、バングラデシュが生産国だ。

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2023年2月号

フェアトレードとは

 食品をはじめ、私たちの身の回りには様々な生活用品が溢れている。それらを生産している人々について、普段考えることはあるだろうか。今私が飲んでいるコーヒーのパッケージを見てみると、 豆の生産地は「ブラジル、ホンジュラス他」と表記されている。中南米からやってきたらしい。最近購入したヒートテック機能のあるズボンは、バングラデシュが生産国だ。コーヒーもズボンも、高いものではないが品質は悪くない。こうした商品が安価で手に入るのは何故だろう。もちろん様々な企業努力などはあるだろうが、その背景には販売価格を落とすために正当な対価が生産者に支払われなかったり、途上国と先進国、または企業間の取引がフェアでなかったり、といった問題も潜んでいる。もちろん全てにそうした問題があるわけではないが、私が飲んでるコーヒーは果たしてどうだろう。生産者が品質の良いものを作り続けていくためには、労働環境や生活水準が保障され、持続可能な取引のサイクルを作っていくことが重要だ。そこで、生産者が人間らしくより良い暮らしを目指すため、正当な値段で作られたものを売り買いしようと生まれたのが「フェアトレード」だ。フェアトレードは、直訳すると「公平・公正な貿易」。フェアな取引をして、お互いを支え合うというのがコンセプトだ。

カカオが抱える問題

フェアトレードの重要性を理解するために、チョコレートの原料となる「カカオ」の生産について例を挙げてみよう。カカオの生産は多くが途上国で行われている。途上国が抱える深刻な問題に児童労働があるが、その温床の1つとして明らかになっているのがカカオ豆の生産現場だ。例えばガーナをはじめとする西アフリカのカカオ生産地域では、家族単位の小規模農家がほとんどで、労働者を雇う余裕がない。そのため子どもも重要な労働力となっているが、その作業工程は過酷で危険労働の1つとして問題視されている。ひどい場合は、近隣の国などから家族と引き離された子どもが労働者として連れて来られるケースもあるという。これは人身取引にあたり、国際条約や国の法律でも禁じられているが、実際にはなくならないのが現状。彼らには生活がかかっているのだ。こうした児童労働を生み出す貧困の連鎖を断ち切るためにも、生産者が持続可能な生産を続けていけるようにフェアな取引をすることが大切なのだ。前述のような理由から、児童労働の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO『ACE』でもフェアトレードを応援している。ただ、誤解されやすい点で1つ補足しておくと、フェアトレード製品は「児童労働がないことを証明したもの」ではない。あくまで「児童労働をなくすことを目指した製品」だ。児童労働は、現地で支援活動を行うだけで解決できる問題ではない。不公平な貿易の仕組みや社会構造を変えることが、将来的に子どもたちを守っていくための解決方法の1つになる。フェアトレード商品を選ぶことは未来への投票なのだ。

フェアトレード製品の見分け方

フェアトレードについては、「国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)」によって国際的な基準が定められている。 基準は多岐にわたるが、大きく「経済的基準」「社会的基準」「環境的基準」に分けられる。これらを守った製品には、「国際フェアトレード認証ラベル」を貼ることができる。より多くの生産者がフェアトレードに協力するためには、一般企業でも参加できる仕組みが必要だった。そこで考え出されたのがこのフェアトレードラベルで、製品1つからでも参加することが可能。一般企業のフェアトレード参加が増え、身近なスーパーなどでも見かけるまでに広まった。一目でフェアトレード商品だとわかりやすく伝えることができるため、消費者にとっても見分けやすい。少々ややこしいが、製品に国際フェアトレード認証ラベルがついていなくても、フェアトレードとして販売されているケースもある。一つは「WFTO」加盟団体のものだ。WFTOには、事業活動全体がフェアトレード基準を満たしている団体のみ加盟することができる。フェアトレードの製品を扱いながら、そうでないものも扱っているような企業団体は、加盟することができない。そのため、WFTO加盟団体の扱っている製品なら個別ラベルがなくても全てフェアトレードのものになる。また、国際フェアトレード認証ラベルがなく、WFTOの加盟もしていなくても、企業や団体がフェアトレードと表記して販売している場合もある。実は、どんな基準でフェアトレードとして販売しても、法律上の罰則などを受けることはない。そう聞くと詐欺のようなものばかりではないかと思うかもしれないが、多くの場合は各企業や団体が独自に基準を作り生産者と取引をしている。中には国際基準よりも厳しく設定している団体などもあるという。実は日本ではこのケースが多く見られるが、国際基準が日本で認知され広まる前から生産者たちを支援する団体が多かったことが、背景にあるという。

十分に普及しない現状

実際に「フェアトレードの製品を選んでいます」という人は、どれくらいいるだろうか。実は、日本ではまだそれほど普及しているとは言えないのが現状だ。例えばコーヒーはフェアトレード製品として代表的だが、普及しない1番の理由はシンプルで、普通のコーヒーよりも高いからだ。フェアトレードでは最低価格保証をしており、コーヒー豆の市場価格がそれを下回った場合は、その最低価格で買い取ることになる。そのため極端に安価なコーヒーにはならならず、一般的に市場に出回っている商品と並べるとどうしても高く感じてしまう。だが、そのお陰でコーヒー豆の市場価格が暴落した場合でも、生産者の生活が守られるという仕組みだ。フェアトレードの知名度の低さも関係している。『日本フェアトレード・フォーラム』の2020年の調査によると、フェアトレードという言葉を見聞きしたことがある人の割合は52.6%、フェアトレードが貧困や環境に取り組む活動であると答えられた人は32.4%にとどまった。フェアトレードコーヒーは普通のコーヒーよりも売れないため、お店などでも取り扱いが少ない。目にする機会が少ないため、知名度が上がらない。そんな悪循環に陥っているのだ。そんな中で、大手企業がフェアトレードに関する取り組みに力を入れており、少しずつ知名度アップなどに貢献している。

大手企業の取り組み

 『森永製菓』では、2008年から「1チョコfor 1スマイル」という活動に取り組んできた。商品の売り上げの一部をガーナなどの“カカオの国”に寄付し、子どもたちが安心して教育を受けられるよう支援している。年間を通して行う寄付に加えて、特別期間では対象商品1個につき1円を寄付するキャンペーンを実施。例えば2021年度のキャンペーン期間は、9月2日から10月9日まで。この間に集まった金額は、2,147万6,527円にのぼった。また、2014年には日本のナショナルブランドメーカーとして初めて、国際フェアトレード認証のチョコレートを販売。NGO団体『ACE』を通じて支援してきた、ガーナのアシャンティ州の農家で収穫されたカカオを使用し、現地の子どもたちの教育支援や農家の自立支援につなげている。『明治』でも独自の取り組みに力を入れている。カカオ豆の生産からチョコレート製造までの過程にこだわり、産地別の香りを楽しめる高級ラインとして、「ザ・チョコレート」を2020年9月にリニューアル発売した。パッケージには「Bean to Bar」ラベルが貼られており、これはチョコレート製造の全工程を自社で管理・製造していることを示すものだ。カカオ農家と直接取引を行い、追跡可能なカカオ豆の使用を増やしていくこと、また農家の技術指導や地域の開発支援を通じて生産を持続可能にすることに取り組んでいる。これらは、「メイジ・カカオ・サポート」と呼ばれるもので、「ザ・チョコレート」はその提携農家のカカオ豆を使用している商品だ。同社はチョコレートの売り上げで国内トップで、世界4位。世界的にシェアが大きい企業として、グローバルでの見え方も意識して積極的に人と環境に配慮した生産に取り組んでいる。

学校や一般企業でも

フェアトレードについて学び、地域の人に知ってもらうために、中学生たちが活動した例がある。長野県松本市の『信州大学附属松本中学校』では、2022年12月にフェアトレード商品の販売会を行った。「暮らしにくい社界(地域社会と世界を表す造語)の解消」をテーマにした、総合学習の一環だ。発展途上国などの貧困やフェアトレードを知ってほしいと、昨年に続く企画だという。地域の飲食店の協力を得て、ネパールや国内で作られた紅茶、コーヒー、クッキーを並べるほか、フェアトレード商品を企画・販売する京都の工房から仕入れた商品などを販売。メンバーの1人は、「市民の皆さんにフェアトレードの認識を深めてほしい」と話した。また、日本国内における、国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業などを手掛ける『FAIRTRADE JAPAN』では以前、東京の『聖院中学校』でフェアトレードについて授業を行った。言葉自体を初めて聞く生徒が多い中で、フェアトレード運動が地球規模の課題解決にどのようにつながっているのか、皆で熱心に考えることができたという。『FAIRTRADE JAPAN』では企業向けに職場へのフェアトレード導入も薦めており、社員食堂・社内カフェや来客応接室でのコーヒーをフェアトレードコーヒーに切り替えたり、社内でフェアトレード商品の販売会を実施したりといった取り組みを提案。取り入れることでCSR(企業の社会的責任)への取り組み、企業のイメージアップなどにもつながるだろう。

フェアトレード生産者との交流

生産者を応援したい気持ちがある人は、フェアトレードの製品を見かけたら積極的に選んでみよう。その小さな行動の1つが、生産地の社会全体を支援することにつながる。それによって生産者が長期的に生産を続けられる体制が整えば、品質の向上も見込め消費者側にもメリットを生む。直接フェアトレード製品の生産現場を見たい人は、そうしたツアーに参加してみるのも一つ。認定NPO法人『アイキャン』では、2023年3月にフィリピンのマニラ首都圏において、路上の子どもたちやゴミ処分場周辺で暮らす住民、フェアトレード生産者などと交流するスタディツアーを開催する。同法人では2000年からこうしたスタディツアーを続けており、事業地の人びとや子どもたちの生の声を聞くことで、「自分にできること」を考え実践に移す人材育成の機会を提供してきた。日本に住み日常通りに買い物をしていると、フェアトレードと聞いて頭で理解しても、なかなか実感は得にくい。こうして実際に該当地域に行き交流できれば、公正な貿易の仕組みについてより深く考えるきっかけになるはずだ。人それぞれの方法でフェアトレードについて理解を深めながら、できることから行動に移して公平な社会の実現につなげていきたい。

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