“タイパ”時代の今、改めて見直す人間関係
人間関係にも「タイパ」を求める時代
コーチング事業を展開する『ミズカラ』が2025年11月に実施した「年末年始に断捨離したいもの」調査から、興味深い事実が明らかになった。「人間関係(SNS・LINE整理含む)」を断捨離したいと答えた人が、12.6%にのぼったのだ。これは「サブスクリプションサービス」(5.8%)と答えた人の2倍以上。他にも「古い習慣や考え方」(14.4%)、「仕事やプロジェクト」(6.8%)など、物以外を整理したいという回答が複数見られる結果に。「断捨離」という言葉から連想される物理的なものではなく、人間関係にまつわる事柄がこれだけ挙がるのは印象的だ。
理由として最も多かったのは「時間や労力を奪われると感じるから」で、57.1%と過半数を占めた。次いで「ライフステージが変化し話が合わなくなると感じる」(33.3%)、「一方的に利用されていると感じる」(22.2%)、「本来の自分でいられないと感じる」(22.2%)、「マウンティングや比較されるのが嫌」(20.6%)、「自分を大切にしてくれないと感じる」(19.0%)、「金銭感覚が異なる」(15.9%)と続いた。
若い世代の間で、「タイパ」という言葉が頻繁に使われるようになった。タイパとは「タイムパフォーマンス」の略であり、「時短調理」や「時短術」といった概念も、メディアで盛んに取り上げられている。近年では、実りのない人間関係によるストレスが、「時間を奪われている」感覚として捉えられる傾向があるようだ。興味深いのは、こうした意識と幸福度との関係である。人間関係を断捨離したいと答えた人ほど、幸福度が低い傾向にあるという。
こうした風潮や、飲み会を避けたり、1人でスマートフォンに没頭したりと、最近の若者の人間関係は希薄だというイメージを持つ人も多いだろう。実際、人間関係を最小限に抑え、無駄なストレスを減らしたいと考える傾向が見受けられるが、スマートフォンの中にも人間関係のストレスは存在する。

SNSネイティブの苦悩
現代の若者は、日常的にSNSを使いこなす「SNSネイティブ世代」だ。人間関係のあり方も従来とは異なり、「広くて浅い関係」「他人からよく見られたいという強い欲求」「共感を求める気持ち」といった特徴が挙げられる。こうした関係性は不安や孤独を感じやすい状況を生むだけでなく、「すぐに返信しなければ」「乗り遅れないようにしなければ」と、常にSNSに意識を向け続ける状態を生み、心が休まる時間を奪ってしまう。その結果、ストレスの形や人間関係そのものも変化している。
『国立青少年教育振興機構』の調査によると、SNSの利用目的として「リアルな友達や知り合いとのコミュニケーション」を挙げた人は75%を超えている。つまり、現実の人間関係を維持するためにも、SNS上での振る舞いに気を配る必要があるということだ。「既読スルーされた」「ストーリーを見てもらえない」といった些細な出来事でも、不安や孤独を感じやすい。結果として、波風の立たない無難な関係が好まれる傾向にある。SNSは多くの人とつながることができる一方で、一人ひとりと深い関係を築くことを難しくしている側面もあるのだ。
さらに、「もっとよく見られたい」「いいねが欲しい」といった欲求が強まることで、依存傾向や自己肯定感の低下、心の不調につながるリスクも指摘されている。本来、共感とは、表情やしぐさ、声のトーンといった「非言語メッセージ」を含めて相手の気持ちを受け取ることで成立する。しかし、言葉に依存するSNSではこうした要素が伝わりにくく、誤解が生じやすい。共感を求めて投稿したにもかかわらず、意図しない反応や批判が返ってくることもあり、理解されなかったと感じた時には深く傷ついてしまう。
こうした特徴から、つながりが多くても孤独や不安を感じやすいという、非常に不安定な構造にある。『国立青少年教育振興機構』の調査では、高校生の3〜4割がSNS利用によって「寂しくなる」「落ち込む」「イライラする」「眠れない」「物事に集中できない」ことがあると回答しているという。「それならSNSなんかやめれば?」と思う大人世代もいるだろうが、この見方はナンセンスだ。ネイティブ世代にとって、SNSは単なるツールではなく、社会インフラそのものに近い存在だ。完全にやめてしまうことは、彼らにとってアイデンティティの霧散や社会的な死に近い意味があることを認識しておくべきだ。
若い世代が、今の時代特有の人付き合いに苦労していることが分かるが、人間関係に大きなストレスを感じ悩んでいるのは、何も若者に限らない。

現代人を襲う「疲労感」
『キリンホールディングス』が、2025年10月31日〜11月3日の期間、全国の30〜50代の男女1,800人に「現代人の疲労に関する調査」を実施した。調査の結果、社会人の90.3%が「疲労に加えて『疲労感』を感じる」と回答。そのうち91.0%が「実感として『疲労感』とストレス・緊張・心理的負荷は関係していると思う」とも回答し、「疲労感」と「心理的負荷」の関係性が明らかになった。さらに、年齢を重ねるとともに「ストレス・緊張・心理的負荷」の実感も増していることが浮き彫りになった。
ここで言う「疲労」と「疲労感」の違いだが、疲労=肉体的な疲労・実際の疲れ、疲労感=主観的・感覚的な疲れのことだ。つまり、多くの現代人が感じている疲労感の正体は「精神的なストレスによる問題」であると言える。ストレスの内容は様々だが、「社内の人間関係」(31.1%)、「睡眠不足」(26.3%)、「上司との関係」(22.9%)、「業務量の多さ・納期の厳しさ」(21.7%)が上位を占める。「人間関係」「睡眠」「業務」と3つの領域に集中しており、さらに「家族との関係」(13.3%)、「部下との関係」(10.2%)などもあり、人間関係にストレスを感じている回答は多い。また、70.8%が年齢とともに「疲労感は増していく」と回答。体力の衰えや回復力の低下に加え、仕事と家庭の両方で背負う社会的・心理的負荷の増大が影響していることが分かった。


若者より中高年のほうが疲れている?
タイパ重視の若者が人付き合いを最低限に抑えたがるイメージもあって、先述の調査でトップだった「社内の人間関係」などは、若い世代の票が集まっていそうに感じてしまう。ところが、上の世代ほど精神的な「疲労感」を感じているという、意外な事実が浮かび上がってくる。
30〜50代の現代人がどの程度の「疲労感」を抱えていると認識しているのか、10を最大値、0を最小値として聞いたところ、7〜10と評価した割合が30代では39.3%だったのに対し、40代では52.1%、50代では60.8%。年代が上がるにつれて「疲労感」の度合いが高い(7〜10)と評価する層の割合が増加することが分かった。最高値の「10(非常に強い疲労感)」と回答した割合も、50代が突出している。さらに、書籍『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』によると、「社員旅行にはできれば行きたくない」と答えた19〜22歳は51.0%、49〜52歳では62.0%。会社での人間関係を敬遠しているのは、若者よりもむしろ中高年なのではないか─そんな見方もできる結果が出ているのだ。
各世代が人間関係に悩み、ストレスを抱えている今、最初に触れた調査結果にもあったように、時には“断捨離”という選択も有効なのかもしれない。若い世代は効率的で納得感のある付き合い方として、年配層は重すぎる責任から自分を守るためのメンテナンスとして、人との向き合い方を改めて考えるべき時代だと言えそうだ。では実際に、どのように人との距離を保てば、無理なく心地良い関係を築けるのだろうか。

罪悪感を抱かずに心の重荷を降ろしたい
人は物ではないため、“断捨離”しようとしても心が痛むものだろう。とは言え、自分にとってマイナス面が多い人と離れられずにいると、つねに愚痴で頭の中がいっぱいになったり、ストレスで体調を崩したりする。自分を大切に思ってくれる人たちに心配をかけてしまうこともあるだろう。もし、「今の自分にとって必要ではない人」が近くにいた場合に上手く離れられるように、まずは考え方を変えていきたい。
人間は物ではないからこそ、関係が二度と戻らないというわけではない。例えば喧嘩別れした相手と、お互いが成長したころに和解したり、気が合わなくて疎遠になった人と久々に会ったら意気投合したり─そんな経験をしたことはないだろうか。つまり、人間同士であれば“今の”人間関係に距離を置いても、未来でまたやり直せることもある。時には「また縁があれば会える」「仕方がなく離れる」「そういうもの」と、割り切ってもいい。環境が変わったことで人間関係が途絶えるのも、心地良い環境にするために断捨離して途絶えるのも、結果に変わりはない。罪悪感を覚えるかどうかは、考え方次第。今の自分に必要だと思う環境や人間関係を選ぶのは、生きていく上では当たり前のことと捉えてみてはどうだろうか。
フェードアウトという距離の取り方
とは言え、自らいきなり絶交を突きつけるのは穏やかでない。やんわりと会う頻度や時間を減らすことで、少しずつ「一緒にいない時間」を延ばしていくのが良いだろう。その時間の長さの分だけ、相手の中にも「あなたがいなくても大丈夫な時間」が増えていく。いなくても大丈夫だと分かった相手に対しては執着が薄れていき、だんだんと声をかけにくくなるものだ。「こちらから切って捨ててやる!」ではなく、自分のほうを相手の人間関係の輪から外してもらう、というイメージだ。
付き合わざるを得ない場合は
仕事上の付き合いなどでは関係を維持する必要があり、現実的には断捨離は難しい。そのため、「業務遂行に支障がないレベルまで相手の影響を無力化」することに主眼を置くべきだ。まずは、会う頻度や時間をやんわりと減らすこと。業務外の雑談を短縮する、業務時間以外の接触を控えるなど、事務的な対応に徹することで低密度化を図り、相手の執着を薄れさせる。
また、相手に何かを伝える場合は「アイメッセージ」を活用したい。アイメッセージとは、「私」を主語にして自分の感情を伝える方法だ。例えば、子どもに「勉強しなさい!」と言うと、「今やろうと思ったのに!」と反発する。これは「あなた」を主語にする「ユーメッセージ」になっており、言われると抵抗が生まれやすくなるからだ。これを「(私は)勉強してもらえると嬉しい」とアイメッセージで伝えると、子どもは何倍も言うことを聞くという研究結果が出ている。
大人同士でも同じだ。何か嫌なことを言われた際には、「あなたが悪い」という論調で伝えると口論になり、関係は悪化し余計にお互いのストレスになる。これを「私は悲しい」といったアイメッセージで伝えることで、相手の不快な言動にブレーキをかける“凶器封じ”として機能する。苦手な相手と接する時こそ、「私は○○と思います」という言い方ができないか、一度考えてみるべきだ。
「本当の自分」でいられる場所を持つ
先述のようなコミュニケーションを意識した上で、職場や家庭以外の「サードプレイス」を持つことを強くお勧めする。リラックスできる場所、心地の良い場所、素の自分を見せられる場所─それらを持っていれば、もし職場でトラブルがあっても「自分の全てが否定された」とは感じずに済む。もし傷ついたとしても、リカバリーを早める鍵となり、精神的なバランスを保ちやすくなる。
関係を切ることはできなくても、以上のことを意識すれば、苦手な相手の「心理的な占有率を下げる」ことが可能だ。限られた労力を自分を押し殺すために使うのではなく、自分の幸せのために再構築する視点を持つことが、現代社会を健康的に生きていくために必要だ。
人間関係は削るものではなく選び直すもの
今の時代、人間関係に「タイパ」を求めること自体は間違いではない。しかし、単純に関係を削るだけでは、孤独や不安といった別の問題を生みかねない。重要なのは、自分にとって心地良い関係性を再構築していくことだ。人との距離を見直すことは、自分自身の在り方を見直すことでもある。まずは、スマホの通知を1つだけオフにすることから始めてみてはどうだろうか。ただし、無駄な付き合いを見直して手に入れた「浮いた時間」で、SNSを眺めて誰かの投稿に一喜一憂しないように。
