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注目の「CCRC」──老後の新たな暮らし方

高齢者が健康なうちに入居し、それ以降の人生を過ごすことができる生活共同体「CCRC」。居住者の健康維持・増進を図るための多様なプログラムがあり、生きがいを感じながら健康に生活できるとして、今注目を集めている。日本では2015年より政府主導でスタートし、近年は自治体・民間主導のCCRCも増えている。そんなCCRCの魅力と課題に迫る──。

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マスターズ2023年5月号掲載

アメリカ発祥のCCRC 秘めた可能性に日本中が注目

65歳以上の人口の割合が、全人口の29%を超えている超高齢社会の日本。その訪れと共に問題になっているのが老後の過ごし方だ。定年退職を迎えた後、どう過ごすのか─様々な選択肢の一つとして、近年「CCRC」という言葉を耳にするようになった。CCRC(Continuing Care Retirement Communityの略)とは、高齢者が健康な段階で入居し、継続的なケアを受けながら終身で暮らせる生活共同体のこと。CCRCの発祥はアメリカで、1970年代から増加した。現在全米に2,000箇所、約75万人が生活しており、その市場規模は3兆円とも言われている。そして日本でも数年前から日本版CCRCをつくろうとする動きが活発化。この研究の第一人者である松田智生氏は、自身の著書「日本版CCRCがわかる本」の中で、米国CCRCを訪れた時のことをこのように語っている。“初めてのCCRCへの訪問は、ある意味『明るい衝撃』でした。ニューハンプシャー州の緑豊かな街にあるCCRCには、平均年齢84歳のシニアが約400人住んでいましたが、約8割の方が元気で、重介護や認知症の方は2割のみでした。居住者は明るい笑顔が絶えず、健康で充実した日々を過ごしています。また介護になったとしても家賃が変わらずに継続的なケアが保証されているというのです。”(㈱法研, 2017 p.20より)この抜粋文を読んだだけでも、CCRCが様々な可能性を秘めていることが伝わってくる。それでは具体的にCCRCのどういった点が優れているのか、また日本版CCRCとはどんな構想なのかを紹介していきたい。

CCRCと従来の高齢者施設 その違いとメリットとは?

年齢を重ねて移り住むというと、まず老人ホームや介護施設などを思い浮かべる人が多いと思うが、CCRCはそれらとは明確な違いが幾つかある。少し先述したが、まず1つ目の大きな違いは、高齢者が「健康な状態」で移り住む点だ。高齢者としてはさほど年老いていない段階からコミュニティに溶け込み、地元住民や子ども・若者などの多世代と交流・共働する「オープン型」の居住が基本。そのため高齢者だけで居住、交流も施設内だけでほとんど完結する従来の施設とは一線を画している。そして2つ目の違いは、いずれ医療や介護が必要になっても他の施設へ移る必要はなく、ずっと同じ場所で適切なケアを受けながら暮らせる点。従来の有料老人ホームでは介護レベルが規定に合わなくなった場合や医療的措置が必要になった場合は退去しなければならないケースもあるため、ずっと同じ場所で暮らせるのは居住者にとって嬉しいポイントだ。3つ目は、CCRCでは健康を促進するために食事や運動などトータルで予防医療に取り組んでおり、仕事をしたり学校に通ったり趣味を楽しんだり、高齢者が生きがいをもって暮らせるようなプログラムやサービスが充実している点。例えば、アメリカで増えている大学連携型のCCRCでは、高齢者が大学で好きな学問を学んだり、反対に教えたりと、ただ生活するだけでなく「生涯学び続けたい」という自己実現の場にもなっている。日本においてリタイアした高齢者は「支えられる立場」の側面が強くなるが、CCRCなら高齢者にも多くの活躍の場が開けており、能動的に社会と関わっていくことができる。つまり第2の人生を送るために、高齢者が暮らしやすいバリアフリーの住居が立ち並ぶ町(特別地域)に引っ越し、地域の人々との交流・協働を絶やさず健康でアクティブに生活するのがCCRCと言えるだろう。図1はそれをイラスト化したものなので参考にしてほしい。

日本版CCRCで社会問題解決にも光

日本社会に合うように考案された政府主導の日本版CCRCでは、以下の3点を目指している。

◆高齢者の希望の実現

◆地方へのひとの流れの推進

◆東京圏の高齢化問題への対応

 また、日本版CCRCの基本コンセプトは左の7つ(図2)。

日本版CCRCの特徴の一つは、「人を地方へ」の流れを採り入れていること。ここ何年も東京圏への人口集中が問題になっている中で、高齢者の地方移住によってその流れを食い止め、地方創生に貢献することが期待されている。また、東京圏の高齢者増加による医療介護人材不足が深刻化し、職を求めて地方から人口が流出する問題に拍車がかかることが予想されているが、その問題解決にも寄与すると言われている。さらに受け入れる地域にとっても人口増加によって医療・介護サービスの需要だけでなく、小売・外食・流通などの需要も高まるため、地域の経済が活性化する流れも生む。このように高齢者の新たな暮らし方の可能性にとどまらず、社会問題の解決や地域活性化・まちづくりに貢献するとして、日本版CCRCは意義ある取り組みと期待されている。

組み合わせ次第で魅力が広がる 自分に最適なスタイルは?

CCRCの基本機能には3つの柱─「コミュニティ機能」「健康・医療・介護機能」「居住機能」がある。そこに付加機能である「社会参加」や「多世代共創」などが加わって、CCRCとなる(図3)。

この仕組みを支える鍵となるのが、地域の行政や企業などとの連携。先述した「大学連携型CCRC」の他、「フィットネスクラブ連携型」や「美術館・博物館連携型」など多彩なジャンルと連携できる可能性があり、個性や魅力を付加することで、「住んでみたい」「移住したい」と思う人もさらに増えていくだろう。また、日本版CCRCには、住み替えの整備パターンとして、新しく施設をつくる「新設型」と、既存の施設や建物を利用する「ストック活用型」の2種類があり、住む建物も一戸建てやマンション、団地など様々なタイプのものがある。さらに転居パターンも自宅近くへの転居となる「近隣転居型」、郊外から中心部への転居となる「コンパクトシティ型」、大都市圏から地方へ転居となる「地方移住型」、住み慣れた自宅居住で必要な時に持続したケアやサポートが受けられるCCAH「継続居住型」の4つに分類できる。このようにバラエティ豊かなため、一人ひとりに合ったCCRCスタイルを見つけることができるだろう。

標準的な年金月額で住み替えが可能

理想的なセカンドライフを送る一助となる可能性を秘めたCCRC。住むための費用もさぞ高そうだと考える人は多いだろう。CCRC発祥地のアメリカでは、実際に富裕層を対象にしており、高齢者全体の3%ほどしか入居していないと言われている。それに対して日本版CCRCでは、主に高齢者夫婦の厚生年金の標準的な年金月額(約21万8,000円)で生活できる水準を想定している。図4は、現在運営されているCCRCの費用例。費用は老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅と同様に「入居にかかる一時金」と「月額利用料」のそれぞれが発生する。施設のグレードによってCCRCにおける入居にかかる一時金は大きく異なるが、1,000万円から数千万円が相場だ。都市部にある施設か、地方にある施設かによっても費用は大きく異なってくる。

日本版CCRCの実例を紹介

日本では、政府主導で2015年から日本版CCRC構想有識者会議が発足。推進意向を示した自治体は2015年時点では202だったが、2020年には421にまで増えている。行政主導型CCRCは「地方重視」「地方創生政策」の動きが大きいが、近年は「首都圏重視」「高齢者のQOL向上・新たなライフスタイルの提案」を主眼とする民間主導型CCRCも着実に進展してきている。図5で自治体や民間主導のCCRCの実例を紹介するので参考にしてほしい。

需要側・供給側双方に課題も

メリットが多く徐々に認知度も高まっている日本版CCRCだが、課題もある。需要側である移住する高齢者に関する課題としては、地方への移住の現実性。長く住み慣れた自宅を離れて遠い場所へ移住することは誰にとっても勇気のいる決断だろう。現時点では移住に関しての情報入手先の整備があまり進んでいないという問題もある。また移住後、人によっては地域の住民たちと馴染めなかったり、その土地での生活が肌に合わなかったりするケースも皆無ではない。その他の課題としては、健康状態に応じた住み替えへの抵抗や高齢者だけのコミュニティの是非、希望したCCRCが人気で入れないなどがある。行政や事業者など供給側の課題は、運営企業の経営破綻などのリスク、移住先での医療・ 介護サービスの不足、医療・介護費用の負担による地方自治体の財政悪化などが挙げられる。

まとめ

日本版 CCRCが定着するために解決しなければならない課題はあるが、それでも超高齢社会における新しいライフスタイルの選択肢の一つとして、その魅力は十分だろう。社会に浸透するにはもう少し時間を要するだろうが、今後の動向に注目していきたい。

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