のぞみがつないだ30年──進化の系譜を辿る

1992年の運行開始から今年30年の節目を迎えた新幹線「のぞみ」。ビジネスパーソンの出張をはじめ、帰省や旅行など様々なシーンで多くの「会いたい」に寄り添い、人々の想いを乗せて走り続けてきた。のぞみがつないできた30年は、進化の歴史でもある。その系譜を辿りながら、のぞみの「今」と「未来」を見つめた。

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アンカー2022年6月号

「会うって、特別だったんだ」
33年越しに「会う」ことの価値訴求

 大阪出張が終わり、東京行きの新幹線に乗り込む。コーヒー片手に窓の外を見ながら、今日の出来事を思い返す。久しぶりの、対面での打ち合わせ。別れ際、照れくさそうな表情で手を振る取引先の姿に思わず笑みがこぼれ、こちらも少し恥ずかしげに手を振り返す──「会うって、特別だったんだ」。コロナ禍でのビジネスパーソンのふとした瞬間を描いた『JR東海』のCMのワンシーンだ。

 主演に起用されたのは、名CMとして名高い「クリスマス・エクスプレス」シリーズに出演した女優の深津絵里。遠距離恋愛のカップルを描き、「会うのが、いちばん。」のキャッチフレーズで「人と人が会う」ことの価値を訴求した同CMは当時大きな反響を集めた。それから33年。時代は大きく変わり、様々な技術が進歩した。そして新型コロナウイルスの感染拡大により、「会うことの価値」は見直されるようになった。けれども、人々の「会いたい」という気持ちは変わらないはず。「東海道新幹線」の運行を担うJR東海の、「会う」ことを支えるインフラとしての役割は決して変わらない。どんな時代でも、東海道新幹線を利用する人々を支え、背中を押す存在でありたいというJR東海の想いが、このCMには込められている。

のぞみ誕生秘話
「名古屋飛ばし」はなぜ生まれた?

 ビジネスパーソンの出張をはじめ、帰省や旅行など、様々な「出会い」とともにあり、支え続けてきた東海道新幹線。その一翼を担ってきたのが、間違いなく「のぞみ」だろう。2022年に運行開始から30年の節目を迎える東海道新幹線のぞみ。人々の多くの出会いを支えるため、走り続けてきたその軌跡を紐解いていきたい。

 1987年の国鉄民営化後、日本の大動脈である東京〜新大阪間の東海道新幹線の運行を担うこととなった『JR東海』。やがて航空業界の規制緩和により東京〜大阪間の航空運賃が下がったことで、航空機VS新幹線のシェア争いが勃発した。そこで同社は新幹線の商品力をブラッシュアップすべく、「スピードアップ」を念頭に置いた新型車両の開発に着手した。そうして最高時速270kmを達成した300系を投入し、それまで最速だった「ひかり」よりも速い「のぞみ」の運行を開始したのである。従来のひかりが2時間49分で結んでいた東京〜新大阪間は、2時間30分に短縮。1992年3月14日に東京〜新大阪間で2往復が誕生し、当初は朝晩のみの運転となった。

 華々しいデビューを飾ったのぞみだが、当時の一番列車である「のぞみ301号」は大きな物議を醸した。その停車駅は東京、新横浜、新大阪。ひかりでさえ一部列車しか停まらない新横浜に停車する一方、名古屋・京都は通過したのである。いわゆる「名古屋飛ばし」だ。実は名古屋と京都を飛ばしてでも速達性を確保したいJR東海の思惑があった。航空機に対抗する上で、東京駅の始発列車を8時30分までに新大阪駅に到着させたかったのである。そうすれば地下鉄などを乗り継いで9時までには大抵の企業に到着できるだろう。つまり「朝イチの会議に間に合う」とビジネスパーソンへの格好のアピールポイントとなる。ただ新幹線を運行できる時間は6時からと決まっているので、東京駅を6時に出発して新大阪駅に8時30分に着くためには、名古屋と京都に停車していては間に合わない。そこで苦肉の策として「名古屋飛ばし」が生まれたのだ。地元では反発が相次いだ。当時の愛知県知事や名古屋市長は不快感をあらわにしたが、それだけ「のぞみ」に対する期待感が大きかったことの裏返しだろう。その後、のぞみ301号は1997年に廃止された。最新鋭車両の導入や技術の進化により、名古屋と京都に停車しても新大阪駅に8時30分に到着することが可能になったからだ。

「名古屋飛ばし」の被害者となったJR名古屋駅
「名古屋飛ばし」の被害者となったJR名古屋駅

本格的な「のぞみ時代」到来!
スピードを追求した500系が誕生

 誕生当初は東京〜新大阪間の東海道新幹線区間で朝晩のみの運転だった「のぞみ」は1993年に新大阪〜博多間の山陽新幹線区間にも乗り入れを果たし、徐々に本数を増やして毎時1本の運転になるなど、その存在感を増していく。1996年には毎時2本に増強され、本格的な「のぞみ時代」の到来を予感させた。

 1997年にはのぞみ誕生の大きな立役者となった300系に次いで、『JR西日本』が開発を手掛けた新型車両「500系」がデビュー。徹底的にスピードを追求するがゆえに生まれた、まるで戦闘機のようなロングノーズが特徴の流れるようなフォルムは、それまでの新幹線車両の常識を覆す斬新なデザインだった。最高速度は当時世界最高の時速300kmをマーク。速度制限により、最高速度で運転できるのは新大阪〜博多間の山陽新幹線区間に限られたが、同区間の車内では「只今時速300キロ、世界最高速度で運転中です」とアナウンスがあるほど。それまで5時間以上かかっていた東京〜博多間を4時間49分で結び、500系のぞみは韋駄天として駆け抜けた。ライバルである航空機との競争を意識した、「のぞみスピード追求時代」の象徴と言えよう。

JR西日本が開発を手掛けた「500系」。従来の新幹線車両の概念を覆す斬新なデザインだ
JR西日本が開発を手掛けた「500系」。従来の新幹線車両の概念を覆す斬新なデザインだ

スピードから快適性重視へ─
運転本数拡大で、「のぞみシフト」へ

 1999年には、JR東海とJR西日本が共同開発した「700系」が登場した。ロングノーズの500系とは打って変わって短い鼻先で、横揺れを軽減するためのカモノハシのような先頭形状が特徴的な車両だ。最高時速は285km。スピードは“そこそこ”でいい。それよりも、居住性や乗り心地の良さ、そしてコスパを重視する──そんな意図が見え隠れし、スピード追求一辺倒の時代からの転換が窺える。

 のぞみの運転本数は増加の一途を辿る。2001年には、東海道新幹線区間の運転本数が最大3本に。そして、大きなターニングポイントとなったのが2003年の品川駅開業だ。従来のひかりをのぞみに格上げする形で大幅増発が行われ、毎時最大7本運転となった。「ひかり」から「のぞみ」へ──JR東海は「のぞみ」中心のダイヤへと舵を切ったのである。その後もダイヤのブラッシュアップが続き、「愛・地球博」が開催された2005年には毎時8本となり、万博客輸送にも大いに力を発揮した。

悲願「のぞみ12本ダイヤ」が実現
「最高」を求め、常に進化を続ける

 2007年、700系を進化させたフラッグシップ車両「N700系」がデビュー。最新テクノロジーにより、高速性・快適性がさらに進化した次世代の新幹線車両として大きな注目を集めた。最高時速は山陽新幹線区間において500系と並ぶ300kmを達成。東海道新幹線区間においては5分のスピードアップが実現し、最大運転本数も9本に増加した。また、サービス面では時代が求めるニーズに対応。グリーン車全席と普通車の窓側、最前列、最後列の各席にコンセントが設置され、車内でのインターネット接続サービス提供にも対応した。さらにセキュリティ面での対策として防犯カメラの設置や、全席禁煙として喫煙ルームを設置するなど、着実にアップデートが図られた。

 2015年には、23年ぶりに東海道新幹線における速度向上が実施され、最高時速は285km/hに引き上げられた。2020年には700系がN700系(N700Aタイプ)に置き換えられ、すべての列車において最高時速での運転が可能となったことや設備の改良等の実施により「のぞみ12本ダイヤ」が実現。当時は繁忙期に指定席の完売が相次いでいた上、2020年の東京五輪開催による訪日外国人観光客増加を見据えていたJR東海にとっては、まさしく悲願だった。1時間あたり12本の運転が可能となったことで、利用者が多い時間帯には平均で5分に1本のペースでのぞみに乗車できるチャンスが広がる。もはや通勤ラッシュ並みの間隔だ。また、のぞみ12本ダイヤでは、すべてののぞみが東京〜新大阪間を2時間20分以内で結ぶことになった。

 そして2020年、13年ぶりのフルモデルチェンジ車両として「N700S」が営業運転を開始。「S」は「最高」を意味する「Supreme」の頭文字で、最新技術の粋を結集し、安全性、安定性、快適性、環境性能などすべての面で最高の性能を備えた車両を目指している。グリーン車・普通車全席へのコンセント搭載や大型液晶ディスプレイによる車内案内表示、手荷物の置き忘れ防止をサポートする調光機能など目に見える進化が満載だ。

 たった2往復、4本からその歴史が始まった「のぞみ」。今や名実ともに東海道新幹線のエースとして、輝きを放っている。ダイヤモンドは磨いてこそ、最高の輝きを引き出すことができる。のぞみはJR東海にとってダイヤモンドのような存在だと言える。これからも常に進化していくに違いない。

2007年にデビューした「700系」。次世代の新幹線車両として注目を集めた
2007年にデビューした「700系」。次世代の新幹線車両として注目を集めた

に指定席の完売が相次いでいた上、2020年の東京五輪開催による訪日外国人観光客増加を見据えていたJR東海にとっては、まさしく悲願だった。1時間あたり12本の運転が可能となったことで、利用者が多い時間帯には平均で5分に1本のペースでのぞみに乗車できるチャンスが広がる。もはや通勤ラッシュ並みの間隔だ。また、のぞみ12本ダイヤでは、すべてののぞみが東京〜新大阪間を2時間20分以内で結ぶことになった。

 そして2020年、13年ぶりのフルモデルチェンジ車両として「N700S」が営業運転を開始。「S」は「最高」を意味する「Supreme」の頭文字で、最新技術の粋を結集し、安全性、安定性、快適性、環境性能などすべての面で最高の性能を備えた車両を目指している。グリーン車・普通車全席へのコンセント搭載や大型液晶ディスプレイによる車内案内表示、手荷物の置き忘れ防止をサポートする調光機能など目に見える進化が満載だ。

 たった2往復、4本からその歴史が始まった「のぞみ」。今や名実ともに東海道新幹線のエースとして、輝きを放っている。ダイヤモンドは磨いてこそ、最高の輝きを引き出すことができる。のぞみはJR東海にとってダイヤモンドのような存在だと言える。これからも常に進化していくに違いない。

新しい働き方のニーズに応え
のぞみがビジネスを後押し

 ウィズコロナ、アフターコロナを見据え、テレワークやWeb会議など働き方の多様化が加速している昨今。新しい働き方に応じたビジネス環境の整備が、「のぞみ」でも始まっている。その一つが、ビジネスパーソン向け車両「S Work車両」。のぞみの7号車(普通車)を、仕事のためにパソコンなどを気兼ねなく使える車両として設定している。従来の無料Wi-Fiの2倍の通信容量で、利用時間無制限で使用できる新たな無料Wi-Fiサービス「S Wi-Fi for Biz」を提供し、仕事もサクサク捗るはずだ。一部車両・区間限定となるが、膝上クッションや簡易衝立といったビジネスサポートツールの貸し出しも行われる。また、N700Sの7・8号車間(デッキ部)の喫煙ルームを改造し、打ち合わせやWeb会議などで一時的に利用できる「ビジネスブース」を試験的に導入。さらに東京駅など主要駅の待合室に、無料の半個室タイプのビジネスコーナーとコンセントポールの整備を進めていくという。乗車前から乗車中、乗車後までシームレスに仕事ができるよう、『JR東海』では便利で快適なサービスを通じてビジネスパーソンをサポートしていく構えだ。のぞみはこれからもビジネスパーソンの頼もしいパートナーとして存在感を高めていく。

 運行開始以来、様々なかたちの「会いたい」に寄り添ってきた新幹線「のぞみ」。30年にわたって、文字通りいくつもの“のぞみ”を叶えてきた。ゆくゆくはリニア中央新幹線に主役の座を渡すことになるが、その後はどうなってしまうのか気になるところだ。個人的には個室や食堂車の設置により、ビジネスだけでなく、「旅を楽しむ」ための存在として新たな道を進んでほしいという想いがある。けれども、リニア中央新幹線開通後ののぞみの去就については不透明な状況だ。ただ、一つだけ言えるのは、のぞみある未来に向けて、のぞみはこれからも多くの想いを乗せて走り続ける、ということである。

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