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popIn Aladdin──シーリングライトを“再発明”した実業家は如何にしてイノベーションを起こしたのか

2018年に、「popIn Aladdin」という名のスマートライトが販売された。見た目は一般的なシーリングライトとほぼ同じでありながら、壁に大型スクリーンを映し出し、動画アプリやテレビの映像などを手軽に楽しめる同製品は、その独創的なアイデアと利用者のニーズに応える利便性で注目を得て、今も売上を挙げ続けている。本稿では同製品の特徴や開発経緯を交え、どのようにして革新的な製品が生まれたかについてご紹介する。

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センチュリー2021年6月号

  ①  popIn Aladdinとは?
目標額の7400%獲得を達成未来の生活を先取りした照明家電

2106CE特集-popIn Aladdin─シーリングライトを“再発明”した実業家は如何にしてイノベーションを起こしたのか(図1)

2017年末、「Makuake」にて、とあるスマートライトのクラウドファンディングがスタートした。目標金額は100万円。しかしその目標はわずか27時間のうちに達成された。2018年1月には1千万円を突破。最終的には7千400万円超という記録的な額の支援金を集めるに至ったのである。その製品こそ「popIn Aladdin」。早くから「VOGUE JAPAN」や「GetNavi web」、「日経トレンディ」などで「未来の生活」「夢のIoT照明家電」などと絶賛され、メディアからも大きな注目を得たデバイスだ。

 なぜ同製品はかような人気を獲得できたのか。それはLEDシーリングライトをホームシアタープロジェクターとスピーカーシステムと一体化させ、普段は一般的な照明と同じように使える上、壁に大画面を映し出すプロジェクターやBluetoothスピーカーとしても機能する、全く新しい切り口の製品だったからだ。

 さらに高い機能性に対し、必要な準備は最小限で、設置は通常の照明と同様に天井に引っ掛けるだけ。後はリモコンを用いて壁に投影する角度やサイズを調整するだけで良い。従来のプロジェクターであれば設置場所の確保が必要だが、その点に頭を悩ませる必要もない。

 同製品は正式な販売後も高い人気を博した。対応する動画サービスの拡大や、ネット経由でのTVチューナーとの連携、より大きな画面を映し出せる「popIn Aladdin02」開発など、ハード・ソフトの両面で進化を重ね、2018年〜2020年のホームプロジェクター市場において3年連続11位を獲得するなど、躍進を続けているのだ。

② どのようにして生まれたのか
「子どもたちの世界観を広げられるようなIoT機器を」

同製品を手掛ける『popIn』社の社長は1982年、中国・河南省生まれ。一回の試験で進路がほぼ決まってしまう全国統一の大学入学試験、通称「高考」で苦杯を舐め、チャンスを求めて来日してコンピュータ・サイエンスを学んだ人物だ。

 IT関連の研鑽に励む一方で多岐にわたる職種での勤務を経験した同氏は、学生時代より頭角を現す。ウェブ記事の単語を選択すると関連する言葉の意味を検索し、閲覧中のページから離脱せずにページ内で表示できる「ポップイン」という新しいサービスを発明して特許を取得。そして2008年、修士在学中に『popIn』社を創業。創業後もサイト記事の読了率が分かる「READ」などのサービスを手掛けて順調に事業を推進していた。

 そんな程涛氏が「popIn Aladdin」の製品開発に取り組んだのは、事業が安定してきたころのこと。3児の父親でもある同氏が、子どもたちがスマートフォンやタブレットを頻繁に使用するのを不安視し、なんとかしたいと考えたことがきっかけだった。これらの便利なデバイスは、親子のコミュニケーションを取る機会を減らしてしまう。また、子どもたちがどのようなコンテンツを見ているかを親の目でチェックすることもできない。そこで、親子でコミュニケーションを取りつつ、子どもの世界観を広げられるようなIoTデバイスを自らの手で作ろうと考えたのだ。プロジェクターで学習ポスターを映し出し、自動で切り替わるようなものを作ろうと決心した同氏は、まずは電機店にあるプロジェクターを全て購入することから始めたという。

2106CE特集-popIn Aladdin─シーリングライトを“再発明”した実業家は如何にしてイノベーションを起こしたのか(図2)

「邪魔にならず、接触頻度が高いプロジェクターを作りたい」

しかし、いざプロジェクターを使ってみると、かさばって設置場所に悩む、ケーブルが多くて掃除が面倒といった共通の課題が見えてきた。かと言ってプロジェクターを邪魔にならない場所に置くと接触頻度が下がり、習慣化が難しくなる。そこで程涛氏は、今度は「邪魔にならず、しかも接触頻度が高いプロジェクター」を自作することにした。

 様々な選択肢を検討した結果、天井に照明器具を取り付ける日本独自のプラグ、引掛シーリングを利用するのがベストと判断する。引掛シーリングはあらゆるタイプの住宅に普及しており、5㎏まで吊るすことができる。給電もでき、天井に付いているから設置場所も気にしなくて良い点が決め手となった。そして自作して家族に好評だったことから商品化を決意。『ユカイ工学』に試作機の製作を依頼してブラッシュアップを重ね、商品化を進めていった。

③brushup, brushup, brushup
目的を実現できるに足る素晴らしいパートナーを獲得

程涛氏は製品開発にあたり、目的を実現できるに足る「良いパートナー」選びにこだわったという。『popIn』社は量産にあたって国内では安曇野に工場を持つ『VAIO』と最終組立工程と出荷前検査のパートナーシップを締結。海外生産に不安のある日本のユーザーに安心感を与えた。また中国のホームプロジェクターの大手メーカー、『XGIMI』の高性能プロジェクターを採用。同社のプロジェクター技術は専用のスクリーンが不要で、真正面への投影が難しい壁面でも台形補正で正面から映し出しているかのように表示できるようになった。

「この製品ではとても寝室への設置を提案することはできない」

かし、『popIn Aladdin』が何もかも順調に商品化までに至った訳ではない。程涛氏は元々はソフトウェア畑にいた人物。『popIn』社もハードウェアメーカーではなかったため、製品開発には様々な試行錯誤があり、想定外のトラブルもあった。

 同社は元々は2018年7月の製品配送を予定していたが、途中で9月末〜10月中に納品するスケジュールに変更している。きっかけは中国の工場に最終出荷品の実物を確認に行った時のこと。そこで程涛氏は大きなショックを受けたという。プロジェクターとシーリングを別々に取り付ける機構になっており、取り付けの際にはネジも必要と、同氏が構想していたものとまるで異なる、利用者に手間を強いるものになっていたからだ。

 「この製品ではとても寝室への設置を提案できない」─そう考えた同氏はその場で交渉し、2千万円を超える追加出費を飲み込み、出荷延期と商品改良に取り組んだ。また本体の高さのスリム化、プロジェクターレンズの角度調整機構の変更、直感的に使いやすいデザインへの一新、DRMライセンスの導入、照明とプロジェクター向けに2つあったリモコンを1つにまとめるなどの改良・改善も行った。

2106CE特集-popIn Aladdin─シーリングライトを“再発明”した実業家は如何にしてイノベーションを起こしたのか(図3)

 こうした経緯を経て、通常のシーリングライトと大差ないサイズ感や、短い距離からでも大画面を映し出し、角度がある壁も調整できる機能性(右図参照)、ボタン数を抑えながらも目的通りに動かせるリモコンなど、高い満足度を得られる製品へと仕上がっていったのだ。

「未来の壁」を目指して進化をし続けていく

『popIn』社は「製品は常に未完成」との考えのもと、今もブラッシュアップに余念がない。現在は「ゲーム機を接続して大画面に映し出したい」との要望に応えてワイヤレスHDMIを開発中。夏ごろに出荷するプロジェクトを進めているところだ。その他にもより良い睡眠サイクルを促進するアプリを実装するなど、日々現状に満足せず、ブラッシュアップを積み重ねている。同社の開発ストーリーには、このように想いが綴られている。

popIn Aladdinには「完成形」がございません。あなたにとってより便利で、より楽しく、よりワクワクする「未来の壁」を目指して、進化し続けます

革新的な製品を実現する道筋
革新的な製品を作るための技術とアイデアはあるが……

日本ではイノベーションが起こりにくい、と言われる。旧聞に属するが、2000年代初頭、『ソニー』がネットワークでの音楽配信とポータブル音楽プレーヤーの組み合わせでは他社に先んじ、高い技術力を持ちながら、リソースを上手く活用できずに『Apple』の「iPod」の後塵を拝したのは有名な話だ。その要因として、『ソニー』が消費者目線の開発を最優先できず、音楽業界に配慮してデジタル音源に対する独自ルールを構築できなかったこと、コンテンツ部門とハードウェア部門のセクション下で足並みを揃えられなかったことなどが挙げられている。

 程涛氏も大手電化メーカーに同じようなアイデアを持つ人がいたと話している。つまり『ソニー』における「iPod」と同様、他社も「popIn Aladdin」を作る下地はありながら、実現できなかったということだ。

小さな実績を積み重ね、見える形に育てていく

何故多くの企業は下地があっても革新的な製品開発を実現できないのか。『ソニー』の例のように、業界のしがらみや、部門ごとに分かれているために、内部調整が複雑すぎることも一つの要因となるだろう。しかし何より、技術やアイデアはあっても、革新的な製品ならではの独自ルールの構築や実現までのストーリーの社内共有や賛同・許可といった部分で挫折するケースが多いのではないだろうか。

 現在ではクラウドファンディングもすっかり定着し、企業の規模にかかわらず、新しい製品を開発・販売する道筋は整い、道筋を描きやすくなったと言える。また、「社内での共有・実現」に関しては、程涛氏の行ったアプローチが参考になるはずだ。

 同氏は上層部に共感・賛同してもらうため、数字的な要素ではなく可能性─何ができるか、製品の実現性や、製品化した先に何があるのかを表現することに努めたという。自身や家族が出演するビデオも交え、これもできる、あれもできると想像力を膨らませ、実現性が充分にあることを説明し、「このプロダクトで成功できると確信させる」ことに心を砕いたのだ。同氏は「CNET JAPAN」の「事業開発の達人たち」のインタビューにてプレゼン能力の重要性を説いた上で、このような提言を行っている。

《まずはアイデアをクラウドファンディングで検証、成功すればテストマーケティングを実施というように小さな実績を作る。そうして実績を目に見える形に育てることが信頼につながると考えています》

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今の事業の本質は何かを自分に問いかける時間をつくる

最後に、程涛氏が成功を収めた最大の要因として見逃してはならないのが、「ぶれないビジョン」だろう。程涛氏には根っこの部分に「新しい体験を提供したい」との想いがあり、「その商品によってどんな体験をさせたいのか」に注力してきたという。実際、「popIn Aladdin」の「新しい体験」は圧倒的だ。見慣れた壁がスクリーンとなって映像を映し出す。同社の星空、風景、動物、宇宙、アートなど、コンテンツの数々も、新しい体験で人々をワクワクさせようという意志がはっきりと伝わってくる。同氏が大事にする精神が、プロダクトにしっかりと息づいているのだ。

《今の多くの製品からは、本質的にお客様に何を体験していただきたいのかが伝わってこないものが多い気がしています》

このように、事業の本質は何かという原点を突き詰めているからこそ、コンセプトが明確で人々に喜ばれる製品ができあがったのだろう。しかし、事業を行なう中では常に数字が立ちはだかる。その対応に追われ、事業の本質が見失われることも、往々にしてあることだ。そういう時には──

《ちょっと一息とって、本当に自分のやりたいことかを、もう1回考える時間があったほうがいいと思います。それは僕も同じです。その中でも現状が目指す未来に向かっているかどうかを確認し、修正するようにしていきたい》

──革新的な事業に取り組む人はもちろん、経営者や働く人たち全てが、心に留めるべき提言と言えないだろうか。

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