進化する防災対策・支援「シェア」で危機を乗り越える
世界有数の災害大国・日本
「防災」×「シェア」に注目
地震をはじめ、津波、火山噴火、台風、豪雨、豪雪、洪水、土砂災害──。日本は位置や地形、地質、気象などの自然的条件から、こうした災害が発生しやすい国土だとされている。そんな災害大国だからこそ、得た教訓は多く、普段からの防災対策の重要性は誰もが知るところだ。防災対策は今や、行政だけではなく、国民や企業にも求められている。しかし、いつ発生するか分からないのも災害の特徴。そこで日常の延長として取り組むことができ、災害発生時においても、新しい支援のあり方として活用が期待されているのが、「シェアリングエコノミー」だ。今、この「防災・災害時におけるシェア」が、諸問題を解決する手段として、また、新たなビジネスやサービスを生んだり、共助の一つとなったりするとして、多くの人々や企業の注目を集めている。
企業の防災備蓄問題にシェアで立ち向かう
スタートアップ企業の『Laspy』は貸倉庫や鉄道の高架下、企業の遊休スペースなど有効活用されていない場所を借り上げて防災対策備蓄庫として整備し、近隣の企業でシェアするサービスを始めようとしている。そもそも、なぜこうしたサービスがスタートしたのだろうか。それは、2011年に発生した東日本大震災に遡る。
【point!】シェアリングエコノミーとは?
シェアリングエコノミーとは、個人や企業が持つモノや場所、スキルなどの有形・無形資産を、インターネット上のプラットフォームを介して取引する新しい経済の形のこと。様々なモノを共有することで成り立つビジネスであることから、「共有経済」とも呼ばれる。取引される資産は「空間(Space)」「スキル(Skill)」「移動(Mobility)」「お金(Money)」「モノ(Goods)」の5つの領域に分けられる。
最大マグニチュードは9.0、それに伴う最高40メートルにも及ぶ津波によって甚大な被害を生んだこの災害が、世界中の人々に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。地震発生当時、東京など様々な地域では鉄道の運行停止が相次ぎ、多くの帰宅困難者が発生。駅の周辺や道路は混雑を極めた。その際、問題となったのは、帰宅困難者のための物資が不足したこと。勤務先で一夜を明かすために、多くの人が最寄りのコンビニなどで食糧や懐中電灯といった防災グッズを買い求めたが、品切れが相次ぎ、各企業が防災備蓄の重要性を認識した。近い将来、首都直下型地震および南海トラフ地震といった大型災害が発生することが予想されている。そうした時に企業に防災備蓄があれば、帰宅困難者が不用意に移動する必要がなくなり、火災や建物の倒壊に巻き込まれたり、混雑によって警察や消防、自衛隊による救助・救援活動を妨げたりすることもなくなる。
そこで各自治体は企業に対して防災備蓄に関する努力義務を求める条例を定めた。2016年8月時点では、東京都をはじめ神奈川県、千葉県、大阪府、福岡県など16道府県の企業がその対象。例えば、東京都では条例によって従業員の3日分の備蓄(飲料水、食糧、その他災害時における必要な物資)を企業に努力義務として課している。しかし、『東京商工会議所』が2021年に行った調査では、3日分以上の備蓄に対応できている企業は、飲料水で47.5%、食料で40.0%と5割以下にとどまっている。その大きな原因は「保管場所の確保ができない」「維持管理の負担が大きい」といった問題があるからだ。
これらの問題を解決する手段としてスタートした『Laspy』のサービスでは、スペースの貸し出しだけでなく、備蓄品の調達や管理、更新も担い、利用する企業から従業員の人数に応じて月額料金を受け取るビジネスモデルになっている。遊休スペースを利用するため、スペースの持ち主や管理者にとっても借り手が見つかり、企業も備蓄を管理する手間や人件費をカットできるなど、関わる全ての人々がwin-winとなれるのだ。
いち早く「シェア」に取り組み
その可能性を追求し続ける
シェアリングシティの推進や、政策提言、環境整備などを行ってきた『シェアリングエコノミー協会』。同協会では、『全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)』などと連携・協力し、災害支援活動にシェアリングサービスを取り入れていくことで、これまで解決できなかった課題を解決することに注力している。活動の具体例は右図の通り。これらの取り組みは「共助」を目的とした各企業の任意の活動だ。同協会は、「新型コロナウイルス問題が継続する状況下で自然災害が発生した場合に備えて、不特定多数の人が集中する従来型の避難・支援のあり方は見直しを要すると思われます。連携においては、そうしたコロナ環境下での災害支援のあり方についても検討していきたいと考えています」と語っており、時流に則った新たな防災対策・支援の模索を続けている。
実際に取り組んで見えた課題
どう解決するかが飛躍の鍵に
様々な可能性を秘めたシェアリングエコノミーによる防災対策・支援。しかし、実行したことで、見えてきた新たな課題もあった。以前、アメリカのハリケーン災害などで一時シェルターに応える取り組みを行った『Airbnb』。日本では、2016年の熊本地震の際に初めて災害支援を実施し、100以上の現地ホストが協力した。そこで分かったのは、被災地には様々なニーズがあることや、被災者がどこにいるのか、その情報は行政任せで把握するのが困難だったこと。また、予約可能な物件が被災者の近くにあるとは限らないという問題にも突き当たった。
他にも、東日本大震災を契機に設立されたNPO法人『日本カーシェアリング協会』では、寄付で集めた車を被災地に送り、無料でシェアしてもらうサービスを展開している。2019年の台風15号と19号の被災地にも車を送ったが、被災地では圧倒的に軽トラが不足し、調達できる車とニーズとのマッチングに課題が残った。
さらに、そもそもユーザーがこういった支援があることを知らないといったケースもあった。ユーザーからは「行政から一元的に情報を発信してほしい」との声も聞こえたという。
★★★
サービスや支援の的確化はもちろん、周知活動への注力など、課題はあるが、シェアリングエコノミーによる防災対策・支援の可能性は大きく、災害の絶えない我が国としては今後ますます注目と期待を集める取り組みと言えるだろう。
各企業が自社の持つスキルや強みを活かして取り組むことで、共助社会が成り立ち、支援を必要としている人が救われる──CSR活動の一環として、又は自社の新たなサービスとして、できることから始めてみてはいかがだろうか。